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逆噴射小説大賞2021個人的感想覚書 #07

 えー、投稿期間が終了しましたね。
 参加者の皆さん、お疲れ様でした。(言うのがだいぶ遅くない?)(え? 2021年終わってる?)(というかもう1月が終わりそう?)(嘘じゃろ?)
 感想覚書、第7回やっていきましょう。

【#01】 【#02】 【#03】 【#04】 【#05】 【#06】 【#07】



デビル・ミーツ・ガール

 少年と少女が出会う、王道のボーイ・ミーツ・ガールもの……の香りをタイトルで匂わせて置きながら、いきなり始まる血飛沫&レイプ(未遂)。血生臭い殺戮で幕を開けながらも、悪魔として覚醒した少年と少女の出会いは王道で外さない。悪魔とシスターという、正反対の属性の組み合わせがもたらす極大消滅呪文メドローア。いいと思います。
 ふたりは既知なので、幼馴染としてのいままでの関係性だとか、悪魔として覚醒したケリィが、今までは見せなかった貌を見せて動揺するアリスだとか、そういうこれからの展開が滅茶苦茶妄想できていいですね! 大好物です!
 きっとケリィは教会からも狙われたりするんだと思いますし、今後のふたりの逃避行が非常に楽しみです。


宙、つめたく冷えて

 開始一行目からとにかくドライヴ&暴力。そして圧倒的なスピード感に引っ張られる。読んでいてGを感じるほどの速度だ。畳みかけるようなテンポは、800字の中で1ミリも衰えない――どころか、後半になるにつれて加速していく。
 宇宙船内(ステーション内?)というソリッド・シチュエーションで繰り広げられる、泥臭い殺し合い。生きることにどこまでも貪欲で、宇宙空間で必死にもがく姿は、アルフレッド・ベスターの『虎よ、虎よ!』を彷彿とさせる。
 後半になるにつれてどんどん一文一文が短くなっているのも、主人公の焦りや時間のなさというのが感覚的に理解わかるようになっていて、すごいなあと思いました。
 タイトルも凄く好き。往年の名作SFのような詩的な響きと、内容とアンバランスに思えるほどの『静』のイメージを想起させてくるところとか。



ダンジョン素潜り師 全裸のゼンジ

 みなさんはローグライクは好きですか? 私は好きです。ローグライクというのは……えー、正確に説明しようとすると、大変長くなるので省略しますが、あれです。『風来のシレン』とか『トルネコの大冒険』とかに代表される、あの、ランダム生成ダンジョンを潜っていって、1回死んだら所持アイテムとか装備品とかが全ロストになって、レベルも1からになる、不思議のダンジョン系のやつです。(簡単に説明するととんでもないゲームジャンルだな……)
 ローグライク花形というか、メインストーリークリア後にはたいてい『持ち込み不可ダンジョン』というのが用意されていまして、そこでは上記の縛りに加え、「事前に準備したアイテムや装備品などを持ち込むことができない」「ダンジョン開始時にはレベル1からになる」という条件も付け加えられるようになります。(とんでもないマゾゲーだな……)
 99階という長い道のり(この手の持ち込み不可ダンジョンは伝統的にたいてい99Fまである)を、己の知識と運とテクニックとで乗り越えていくというのは、まあ他のゲームではなかなか味わえない脳汁の奔流を感じられるんじゃないかなと思います。
 ここまで前置き。
 この『持ち込み不可ダンジョン』を小説に落とし込むとどうなるのか、を描いてくれたのが、『ダンジョン素潜り師 全裸のゼンジ』になります。もうこの発想だけで勝ちですよ(何に?)。
 『持ち込み不可ダンジョン』には、装備やアイテムが持ちこめない。つまり防具も付けられない。ということはつまり……。

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出典:鳩胸つるん「剥き出しの白鳥」

 全裸である。
 強い。
(タイトルだけ見た時は自分の意志で全裸になるのかと思っていたんですけど、違いましたね。)
 もちろんこのワンアイデアも滅茶苦茶強いが、ここで主人公ひとりだけにせず、「オペレーター」というキャラも盛り込んだのが白眉だと思いました。オペレーターを入れることで、「見られる」という露出に必要不可欠な要素が盛り込まれたんですよ。露出は見られなきゃただの変態だからね(見られてもただの変態だろ)。ダンジョンという手ごわいモンスターやトラップの危険性に加え、「見られるかもしれない」という別角度のスリルも襲ってくるのが、目が離せませんね。かわいそう。ララちゃんが。
 主人公であるゼンジとオペレーターのララちゃんのキャラも、800字の中できっちりと立たせているし、純粋に滅茶苦茶先が読みたい作品ですねー。ツヅキ……ヨマセテ……ヨマセテ……。


善き友喰いのメソッド

 逆噴射小説大賞でも人気の[要出典]人魚モノ……なんですけど、人魚がここまで純粋なモンスターとして描かれているのも珍しい気がする。人間を食べた人魚を食べるってそれ大丈夫なの? と思わなくもないけれど、そもそもそれを気にするような奴は人魚自体を食べないからOKか。
 幻想的な題材であるにもかかわらず、裏社会的なノワールな感じがブレンドされている(というかそっちの味付けが9割)のが良きですね。みんなノワールは好きですもんね。私も好きです。
 生きている人間を人魚に食わせるといったいなにが起こるのか? 意味深に示されたタブーがどうなるのかが気になるところ。


旗片の風

 時代がかった硬派な文体によって作られた古風な舞台に、手に汗握る一瞬の決闘DUEL
 DUEL開始! で引きにすることなく、きちんと決着をつけ、そしてさらなる物語の幕開けを感じさせるスタートは、思わずうなってしまいました。DUELを通して、対戦した由と軍人の二人のキャラクタも立たせているのが実に妙手。
 男女バディものといった感じ。全体的にクールな雰囲気はあるけれど、男勝りなヒロインが、強引な軍人に引っぱられる恋愛物も好きだからなぁ! 続きがとても楽しみです。


鍵のバルカン

 お、面白い……。
 面白いし、何より滅茶苦茶上手い……。800字という限られた文字数の中で、主人公である少年の、乾いた半生が語られる。淡々とした文章で、お菓子や煙草を運んでいたなんちゃって運び屋の少年が、絶対に失敗のできない麻薬の密輸へと仕事が変遷していく、抜き差しならない『人生』がテンポよく綴られているのだ。語りの上手さや、悲壮な生きざまを、あまりウェッティに成り過ぎず描写するやり口は、どこか伊藤計劃の『indifference engine』を思い起こさせる。
 そして、いきなりのクライマックス。窮地。読者に手を握らせたところで引き。小説がうますぎる……。



少女たちは天国の扉を叩く

 うわー、じゃ、邪悪!
 悲壮な境遇の少女ふたり。余命は僅か。――逃避行。百合。そして、殺人
 読んでて滅茶苦茶「いやーな感じ」になりました。
 (※ここで言う「いやーな感じ」というのは褒め言葉です。読みたくなくなるとかそういう意味合いではなく、「救いのないもの」を摂取した時の脳に広がる味の事。念のため)
 どこまで行っても無邪気で救いのない旅路になりそうな悲劇の香りがぷんぷんしますね。もちろん彼女たちには病によって時間が無いし、既に罪を犯してしまっている。殺人を正当化するために「私」が付いた嘘。ナユタは本当に騙されているのか否か……。
 最後まで読んだ後にタイトルを見直す。「少女たちは天国の扉を叩く」……ぎ、欺瞞!!!


不死者たちのネクロロジー

 不死者モノ。
 白眉なのは、やはりどういう展開を繰り広げるかがきっちりと計算されていて、映画のオープニングを観ているような気分にさせられることだと思います。
 不死者モノであることはタイトルから察しはつくのですが、始まりは、父親の不貞の追跡調査から。(厳密には不貞ではないが)
 不死者モノなんだから、最初に「殺人ドーン!」→「不死者バーン! 実は死んでませーん!」って言う滑り出しにしてもいいだろうに、こういうドロドロとした、緊張感のある、それでいて身近なエピソードを差し挟んでくるのが、感情移入に繋がるんだろうな、と思いました。


アンジー・ラナウェイ・オーヴァドライヴ

 アクションが格好ぇー!!!
 『パルプ小説』の事心ことのこころに則った作品。
 冒頭からカーチェイス。そして、「地面に刺さる雷」という強烈なヴィジュアルイメージがカッチリと決まっている。格好いい。
 何よりいいのが、雷化の能力を持ったヒロインが、助手席にワープしてくるシーン。
 もうこのシーンが滅茶苦茶いい。ここ、絶対に映画化したときにCMとか予告編で使われまくる奴じゃんって思ってしまった。明確に脳内で映像がイメージできたもん。



夜蜘蛛は殺すか、生かすか、それとも人に……

 滅茶苦茶雰囲気が良い……。
 なんというか、匂い立つような、退廃的な、デカダンな感じが作品全体にまとわりついていて、良い……。
 すっごい好きなんですけど、何が好きなのか言語化しにくいな……。私の語彙力がないせいで。
 どういうことか、何がおこったのかも説明がないんですけど、それでもふたりが暮らすその日常を切り取った描写に惹きつけられるんですよね。性に爛れた院生生活……?
 兎に角、読んでください。おススメです。





犬と狼の間 -Entre chien et loup-

私の作品。3本目になります。読んでね!


1本目と2本目。

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