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そのドリンクに魂(ソウル)はあるか?

さてさて、相もかわらずモクテル試作の日々を送っている。

今般の世情のなか、稀に来店いただける方々の中にもnoteを読んでくれている方はいて(想像以上に読まれていて嬉しくも気恥ずかしくもある)「モクテルというかTo go出てるの?」と聞かれるけど…出てないです。比べればカクテルの方が「まだ」出ている。

大通りに面しているワケでなく、不特定多数の人々が行き交うような大きな“街”でもなく、店自体の認知度もそんなに高くなし、そして夕方からのオープンでTo goモノがそんな簡単に売れるわけがないのだ。
しかも外看板に書いたはいいけど、メニューはそこそこ捻っている。
度を超えているとは思わないけど一見すると幾分トリッキーには映るだろう。
素直にわかりやすいモノを書いた方がいいのは誰が考えてもわかる。
さすがに僕だってそれくらいはわかっている。
が、それを書けない自分がいるのだ。
わかりやすいモノなんて他のお店でいくらでも飲めるし、行き過ぎるとモクテルどころかノンアルコール・カクテルでもなく、下手をすればただのミックスジュースでしかない。

書いた結果はどうあれ、わかりやすいものを書こうと努力はした。いちおう。
だけどどうしても書く気になれなかった。
このままでは埒があかないと思い、逆の発想も試みた。

「なぜ書きたくないのかを書き出してみる」
というヤツだ。

ざっくり言えば前述まんまになるのだけど、もう少し掘り下げて書くと…なるほど、ドリンクそのものに「これはBAR TooLのドリンクである」というアイデンティティを持たせたいのだった。

それも、液体そのもので。

なにも“液体そのもの”じゃなくても、とは思う。
カップにシールを貼るとかプリントするとかそういった視覚的方法でもそれは可能だ。
むしろPR効果も高く、その方が良いと思いもする。
けれど当店がある小さな町程度でそれをやってもあまり効果が無い気がするのも事実。
それに視認できるものでのアイデンティティの表現というのは店自体がブランド力を持ってこそ意味をなすものだと思う。
若しくはこれからそれを育てる気がある場合に限られる、と。
残念ながら当店にそのチカラはないし、今後それを育てるなどという気概もさらさら無い。

前にも書いたけど、来るもの拒まずのスタイルではやっていない。あくまでもBARであって、あらゆる層をゲストとして迎え入れる気は無い。
だから敢えて体験してみようと思ってもらえた方にだけ刺さればいいのだ。
この志向だから拡散型の無作為な訴求よりも、興味を抱いて飲んでみようと思った方に「体験として」刺さった方がより意味があると考える。

故に「わかりやすいものは作りたくない」という思考に辿り着く。

振り出しに戻った。

ただし、「他のお店でいくらでも飲めるから作りたくない」と書いたけど、クラシックなものやメジャー性あるものなんて誰が作っても同じだ、などと言う気はない。
そこにアイデンティティを付与することはもちろん可能だ。
しかし、付与するそれは一般の飲み手からしたら微細な差であることの方が圧倒的に多い。ましてや店内で飲むのではないのだ。
その1杯に対して、僕が語ることができない状態でBAR TooLのイメージをドリンク単体に語らせるには別角度から、ドラスティックな提示の方が効率が良い。
効率は良いが、これはこれで問題もある。

想像のつきにくいものを求めて人は扉を開けるだろうか?

否。
考えるまでもなく、確率は低い。それも入ったことすらない店舗の、しかもBARの扉となれば格段に確率は下がる。
…ついでに言うとGoogleでの評価も芳しくない。僕自身は全く気にしていないが、気にする方はするだろう。

こうなのだから、商売として考えるなら一も二もなく最大公約数を採るべきだけど、書く気にも作る気にもなれない(もちろん何がしかの興味を持って扉を開けてくれて、その上で「ベーシックなモノを飲みたい」というオーダーは喜んでお作りする)。

本当に、こういうところが全くダメだと思う。

それでもとにかく道を少しでも外したい、安心さよりも面白みを提示したい、そして体験して欲しいと思う。
これはこれでひとつの病(やまい)だし、作り手のエゴ極まりないことだというのも自覚している。

そしてどれだけ道を外したいとか面白みを提示したいと作り手が思ってみても、多くのことについて、けっきょく原点(典)に勝るものはなかなか見出せない。
それらには今までの体験からくる安心感とそれに由来する訴求力がある。
なぜ昔からそのレシピなりなんなりが残ってきたのかの理由はそういう事だからだ。
脱構築とか再構築とか再構成とか、ベーシックを分解する事で打ち出そうとするモノが理解されなかったり残りづらかったりするのは真逆の意味でそういう事が理由だろう。

だからおそらく、僕の作るモノは万人受けしない。モクテルであれカクテルであれ。
これは断言できる。
あまりしたくない断言だけど、確信している。

でも、そこに僕の、ひいてはBAR TooLのアイデンティティ−魂(ソウル)と言い換えてもいい−と呼べるモノがあると確信してもいる。
だからこそ当店のHPのロゴの下に、この noteのページのヘッダーに“make the one”というコンセプトを掲げているのだ。

しかしながらこれがビジネスとして良いのか悪いのかはまた別の話でもある。

もし、記事を読んでくれてお店の方が気になったら覗いてみてください。Instagram / FBもページがありますが、まずはオフィシャルHPを。 http://www.bar-tool.com/ サポートしていただけた場合はお店の運営に充てさせていただきます。