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陰の射す方へ

何年ぶりだろうか、積ん読の山を掻き分けて書棚からそれを引っ張り出した。
谷崎 潤一郎の「陰翳礼讃」。

たしか10年と少し前、日本文化礼讃(僕の大嫌いな「ムカシノニッポンスゴイ」話)の流れからだったか、あの「羊羹の一節」が取り上げられ、わりと売れたのを思い出す。
あの時、羊羹も売れたのだろうか。

いちおう、学生時代に読むだけ読んではいたけれど感化はまるでされなかった。
日本の随筆を読むに当たり、読んでおくべき一般教養課題くらいの印象。
文豪たちが書くこの手合いのものは大上段からの物言いと断定的かつ不遜な感じがあって得意じゃなかった。言えば今でもわりとムリだ。
まあ少しは大人になった(なってしまった)せいか、そういうところを流せるようになって幾分読めるようにはなったけれど。

さて、そんな好きでもなければ得意でもないこの作品をなぜ今になって読み返す気になったのか。
それはちょっと面白い展覧会が開催されているからです。

LIVE+LIGHT In praise of Shadows
「陰翳礼讃」 現代の光技術と

@ブリリアアートギャラリー。
かつてのLIXILブックギャラリーと言えばわか…らないか。あそこは選書がとても良い、素敵な本屋さんで…いや、長くなるからこの話はまたいつかにしよう。

主催の方より直々に開催のお話を伺ったので、それなら一回読み直してから、と相成って引っ張り出した次第。
読み終えた本を処分できない性分はこういう時に役に立つ。
で、読み返してみたのだけどまあ相変わらず鼻につく文体だなというのが第一印象で苦笑い。
しかし、初読の当時とは内容の捉え方が全く違っていた。
光と陰。
それが映し出すもの、見せるものへの観察と思考、想像力など「ううむ。確かに。」と同意せざるを得ないところ多数。羊羹の話は「はあそうですか」だったけど。

おそらく、同意するところがこんなにも増えたのは自分の仕事柄のせいだろう(もちろん、歳を重ねて少し成長したことも影響しているはずだが)。
「見せる」業態は光に気を遣う。
それを押し進めると「見せる」が「魅せる」に変わり、最終的に「魅せる事ができるか否か」に行き着くから。
光と、そして当然生じる陰にまで気を配ると店内の雰囲気はずいぶん変わる。
それによって空気も変われば見え方も変わる。
より深いところ、潜在的な部分では味覚にも酔いの回りにも心理にも、果ては客層の選定にまで影響を及ぼす。

明るいBARは好みじゃない。特に、明るい上にカウンターが白系の、いわゆる木肌を活かしたものだったりするとどれだけクオリティが高くとも足が遠のく。
光の反射で目が痛く、とても心地よく飲めないから。なにより薄暗いところで密やかに飲むようなものばかりなのに、何が悲しくて昼間に飲んでいるような感覚にならねばならぬのか。
昼間には昼間の良さがあり夜には夜の良さがある。
明るいからこそできる話があり、暗いからこそできる話がある。
光と陰は必要によって使い分けなければならない。
女性に於いて「肌の白きは七難隠す」と言うけれど店の陰翳もまた違った意味で七難、いや、たぶんそれ以上を隠してくれる。

まったく、光と陰を疎かにすると碌なことがないのだ。

さて、こちらの展覧会は9/25まで。入場無料。
もちろん僕は既に伺っている。
感想は書かない。
ぜひ現在の最先端LEDで表現する、谷崎の世界をその眼で感じてほしい。

下のnoteは主催である谷田女史がこの展示に寄せる思いを綴られたものです。

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