日立台の魔法使い

フランソアウド・セナ・ジ・ソウザ(Françoaldo Sena de Souza)

Wikipediaでの本名は、こうなっている。多くのブラジル人がそうであるように、彼もまた長い本名ではなく、ニックネームで呼ばれることの方が多い。

"フランサ"

かつて、Jリーグ柏レイソルに在籍していたブラジル人選手だ。Jリーグ創立から今日まで、幾人もの外国人選手が、来日しては消えていった。その多くはサッカー王国ブラジル産で、フランサもまた、王国からの使者だった。

「サッカーが上手い」という表現には、2つの角度があると思う。僕みたいな経験者ではない人間が理解できる「わかりやすい」上手さと、サッカー経験者でしかわからないであろう「わかりにくい」上手さだ。

フランサのプレーは、圧倒的に前者だった。稀有なテクニックと意外性のあるプレーで、観客を沸かし、スタジアムを揺らす。かと思えば、守備はしっかりサボって、試合中のピッチで、つまらなそうに歩いている姿をよく見かけた。そんなところも愛らしかった。

いつも頭に太いヘアバンドを巻いて、ミズノ製の真っ赤なスパイクのつま先には、"穴が空いていた。本人曰く、穴が開くくらいに履きこんだスパイク"が最高らしい。

そんな特異な容貌や、哲学的ともいえる道具へのこだわりもまた、彼が「魔法使い」と呼ばれ、愛された一因なのかもしれない。

フランサの生まれたブラジルや隣国のアルゼンチンには、「魔法使い」と呼ばれる選手がたくさんいる。

だけれど、僕に一番の魔法を見せてくれたのは、間違いなくフランサだった。別にレイソルサポーターでもないのに、彼の魔法を一目見たくて、何度も日立台に足を運んだ。(レイソルサポの方すみません!)

うまいこと魔法が発動して、スタジアムを幸せで包んでくれる日もあったし、調子が悪く、輝きを放てない日もあった。そのどちらもがフランサで、彼の一挙手一投足を目で追った。

フランサが日本で使った魔法で一番好きなのは、アウェイの浦和戦で放ったこの一発。

試合終了間際ロスタイム、満員のアウェイ埼玉スタジアム、そしてこの名実況。すべての要素が完璧に噛み合った極上の魔法は、いつまでも解けることはない。

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