ダメパパが私立小学校受験に挑んでみた3 ~はじめての塾編~
志望校も決まってついにスタートした我が家の私立小学校への道。
しかし、私立小学校への道の険しさを僕はまだ知らない……
※本記事は事実と異なる点を織り交ぜながら書かれております。
※本記事は小学校受験のためのハウツー記事ではなく、あくまでダメパパ視点の思いが書かれた記事となります。そのため小受に気乗りしない配偶者の考えを量るときの参考にしてもらえればと思います。
【ダメパパ私立小受験記まとめ】
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イトー家の紹介
【僕】
30代後半。都内勤務のサラリーマン。私立小学校受験に懐疑的。
【妻】
僕と同い年。某私立小学校に入学後、同学校で大学まで過ごす。持ち前のスキル「ごり押し」で私立小を目指す。
【娘】
4歳の年中。幼稚園に在園。妻の頑固により小受に挑戦することに。世界で一番可愛い。
【息子】
1歳半。バナナが好き。
【その他情報】
神奈川県在住。ローンありの持家に住む。世帯年収は900万円ほど。
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ひとまず大学までの一貫校であるA校を志望校とした我が家。とはいえ、何から始めればいいのか、さっぱり見当もつかない。
恐らく受験なのだから、塾に通わせることになるのだろう。でも塾では何を教えているんだろう?というか、そもそも私立小の試験ってどんな内容なんだ?中学校の受験と同じようにペーパー試験なのだろうか、想像もつかない。例えばひらがなとか簡単な算数とか、そういうのが試験科目なのかな?全くわからないが、そんなんだったら娘に教えることも簡単そうだ。楽勝じゃん、小受。
そんな思いを巡らせていると妻が言った。
「でね、志望校も決まったことだし、娘を塾に通わせないといけないんだけど、行かせたいところとかある?」
「あるわけないだろ……」
「だよね。A校を志望するなら、都内にあるこの”お教室”がいいみたいなんだけど」
お教室!?
タワマンに住んでいる上流階級のセレブママさんが、3段のアフタヌーンティースタンドにのったケーキと、旦那がイギリス出張のお土産で買ってきた高級紅茶を嗜みながら発しているであろう”お教室”という高貴な単語を、築20年以上のボロい木造住宅で干し芋と水道水を嗜んでいる平民である僕の耳に入れることになるとは思わなかった。”お教室”なんて単語が飛び交うなんて、いつから我が家はタワマン最上階になったんだ。もしかしたら今食べている干し芋も、おフランスから仕入れた最高級干し芋なのかもしれない。
「へぇー。お教室のことなんて全然わかんないから、とりあえずそこでいいんじゃない?っていうか他にもそういうところあるの?」
「幼児教室なら色々なところにあるよ。うちのすぐ近くにもあるし。でも小学校受験向けのお教室だといくつかに絞られるかなー」
「なるほど。ってかお教室ってどんな勉強をするの?そもそも私立小学校の試験ってどんな内容なの?」
「うーん。説明するのも面倒くさいから、実際に見てきてよ。ちょうど次の土曜日に体験教室がやってて、娘を連れて行ってほしいから、そこで色々聴いてみるといいよ」
「えぇ……めんどうくさい……」
「今ならなんと!!入会金が無料になるキャンペーンが実施中なので、浮いた入会金の一部を君の今月のお小遣いに充当しよう!!」
「猛烈にお教室に行きたくなってきた!!!小受さいこおおお!!」
こうして僕は娘と一緒に初めてのお教室に出向いた。というか、志望校決定からお教室の体験まで用意周到すぎるだろ。僕は妻の掌の上で転がされているにすぎないということに、ようやく気付き始めてきた。
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そんなこんなで土曜日。娘と一緒に初めてのお教室に行く。
電車にゆられ、都内の某駅で下車。徒歩数分でお教室に着いた。
「こんにちはー!体験の方ですね?こちらへどうぞ」
お教室のドアを叩いて出迎えてくれたのは、ドラマ「女王の教室」に出ていた天海祐希のように、びしっと決めた女性の先生だった。
もちろん未就学児相手の先生なので、天海祐希みたいな暗めの表情ではなく、笑顔で子どもと接しているのだが、目に力が入っていて怖い。この人が自分の上司だったとしたら、ミスを理詰めでコンコンと責められそうだ。この人に詰められたらマジ泣きしちゃいそう。それぐらいに目力がある。早くも帰りたくなってきた。
「今日はよろしくね!お友だちもいっぱいいるから楽しいよー!」
さすが天海先生。緊張でガッチガチの娘の心をほどいていく。体験教室を担う先生なのだから、恐らくベテランの先生であろう。娘はあっという間に先生に懐いて一人で教室に入っていった。
そうして何人かの子どもと先生という教室の中で授業が始まった。授業の様子は教室の外から見ることが出来る。これまでのやり取りを察するに、どうやら周りの親子も体験できた様子だった。
外から授業の様子をうかがっていると、僕の考えているような勉強とは違うことがわかった。
例えばペーパーの勉強だと……
いくつかの動物の絵が描いてある紙を渡され、その動物達を”しりとり”になるように線を書いて繋いでいく問題。(例:ブタ、キツネ、タヌキの絵が描いてあったらブタ⇒タヌキ⇒キツネを線で繋いでいく)
複数の果物の絵が描いてある紙に、リンゴの個数と同じ数の丸を書いていく問題。(例:リンゴは4つだから4つ丸を書いて、みかんは6つだから6つ丸を書く)
4つの物が描いてある中で、仲間外れの1つに〇をつける問題。(例:まな板、包丁、鉛筆、鍋の絵が描いてある場合は”料理”の仲間なので、仲間外れの鉛筆に丸を書く)
などなど……
なるほど、小学校受験というのはひらがなや数字が書けなくとも回答できるような問題しかないのか。言語や数、そして一般常識がどこまで身についているかといった点を指標にしているようだ。こういうペーパー試験なんだなーっと感心していたら、授業内容はそれだけではなかった。
身体を動かすような”運動”(スキップとか、ケンケンパとか)だったり、ハサミやノリなどを使った工作もはじまった。受験で必要なのは記述式のペーパーだけではないらしい。運動能力であったり手先の器用さや想像力といったところも小受には必要なようだ。
さらに驚いたのはペーパーなどの出来だけではなく、問題に向かう姿勢も見られている。例えばペーパーの時は、椅子に正しい姿勢で座れているかといった点も体に叩き込まれる。足が机からはみ出していたり、猫背になっていたりすると、逐一先生が正しい姿勢に直していく。運動の時には、他の子が運動している時にしっかり落ち着いて待てているか、という点も大事なようだ。私語はもちろん禁止だし、すこしでもだらけた姿勢になったりするとすかさず先生が姿勢を強制しにやってくる。さながら新兵を強制していく軍隊のようだ。天海先生がハートマン軍曹に見えてきた。
これでなんとなく小学校受験のポイントが分かった気がする。未就学児の子どもを前に、どういったポイントで合否を判断するのか、その片鱗を見た。中学以上の受験にありがちな、問題の解き方を覚えたり年表を覚えたりと言った、暗記がメインの試験ではないのだ。その子どもが普段どのように家庭で過ごしているか、それを見極めるための試験内容になっているようだ。
こういうことなんだな、小学校受験は。しかし、僕がこの時気付いたことは、小学校受験のまだ半分であったのだ。
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授業終了間際、体験学習できた親たちは別室に集められ、小学校受験がどういったものなのかの説明を受けた。まわりを見ると父親は少数で、ほとんどが綺麗めなお母さんたちだった。端的に言って最高である。こんなに綺麗な人たちに囲まれるような場所なら、毎日お教室に通ってもいいと心の底から思った。小受最高。小受で愛を享受したいっすね。なんつって。
「小学校受験と中学校受験の大きな違いはなんでしょう?そこのお父さん」
周りの綺麗めタワマンママ達に魂を持って行かれていたら、突然質問を受けた。まずい、何も話を聞いてなかった。
「わ!わ!わァ!」
唐突な質問に慌てふためいてちいかわ化する僕。
「え……えーっと……中学受験に比べて小学校受験は受験者数が少ないから狙い目ってとこだと思います!」
以前読んだネット記事で、そんなことが書いてあった。中学受験の志望者が増えていて飽和状態だから、中学受験よりも受験者数が少ない小学校受験の方が合格しやすいと。
「違います」
僕の回答はバッサリと切り捨てられた。タワマンママ達の嘲笑が聴こえてくるようだった。耐えがたし。
「そちらのお母さんはどうですか?」
「中学受験と違って、小受は家族が一丸となって臨まなければいけない受験だと思います」
「その通りです」
さすがタワマンママだ。キレイだし知識もあるなんてお近づきになるしかないね。
ん?でも待てよ。家族で臨まないとってどういう意味だ……?
「つまり、子ども一人が頑張らなければならない中学受験と違って、小学校受験は子どもだけでなく、親御さんも含めた”家庭”が見られます。お子さんが受ける考査では、お子さん自身の力も見られますが、そのお子さんの力を養う日常、すなわちご両親が日ごろどのようにお子さんと接しているかという点も見られています。また、親子面接もあります。小学校側は親子面接で話されたことやお子さんの姿を見て、その家庭が小学校に合うかどうかを見極め合否をだしているのです」
僕は、小学校受験は中学校受験と内容がほとんど変わらないと思っていた。すなわち、子どもだけに課題がだされ、その課題の出来の良し悪しで合否をだしているのだと。だから、私立小学校を目指すといっても僕がやることと言えば、娘を塾に送るぐらいだと思っていた。
しかしそういうことではないらしい。先生は言った。家族で臨む受験であると。
それってさぁ……親である僕自身が、お教室の送り迎え以外にもやらなければいけないことがある……ってコト!?
あまりの衝撃にハチワレ化する僕。だいたい面接があるってだけでめちゃくちゃ面倒ではないか。
「当然、父親の役割も重要になってきます。先ほど伝えたように、家族で臨む受験です。すなわち、家族の一員である父親も、しっかりと受験について考え、お子さんのサポートをしてください。どうしても小受は母親主体になるところがあって、奥様に押し付けるご主人が多いです。なのでしっかりとお父さんも考えて向き合ってください。今日はお父さんの参加が少なめではありますが、ここにご参加いただいているということは、奥様だけに押し付けないでしっかりと自分事として小受を意識していただいている父親だと思います。それはとても素晴らしいことだと思います。」
先生の話を聞き赤べこのようにウンウンと頷きまくる。僕はいい父親だぜ。惚れるなよタワマンママども。(実際は妻に行ってこいと言われたから今この場に存在するような僕である)
しかし、ここでようやく小学校受験の全貌が明らかになった。これは恐らく僕の負担も相当なはずだ。妻に言いくるめられたとはいえ、まずいものに手を出してしまった。自分の置かれた状況を冷静に見つめなおすも、小受を承知してしまった手前、もう後戻りはできない。
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お教室が終わって、その場で入会の申し込みを済ませて、僕と娘は岐路に着いた。
「どうだった?楽しかった?」
僕は娘に聞いた。ここで娘が、楽しくなかった、もう行きたくないと言ってくれれば、もしかしたら小受を回避できるかもしれない。お教室を嫌がる娘を無理やりに連れて行くなんて、そんな酷なこと僕にはできない。だから期待を込めて僕は娘に質問した。そう、僕は子どもに判断を託すようなクソ親父なのだ。
「すごく楽しかった!また行きたい!」
重大な勘違いをしていてどん底に突き落とされた僕とは正反対に、娘の表情は輝いていた。そこまで楽しかったのであればもはや何も言えない。
果たして僕は最後までやり遂げることが出来るのだろうか。不安でしかない小受の道はまだ始まったばかりであった。
続く
【ダメパパ私立小受験記まとめ】