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デュアルモメンタム+セクターローテーションは聖杯か?【デュアルモメンタム検証・結果編③】

引き続きデュアルモメンタム戦略のバックテスト結果を確認します。
今回の投稿では、セクターをユニバースとする2つのモデルの検証を行います。

■検証する戦略・検証方法を書いた記事



検証結果: 【MSR】 Momentum Sector Rotation

このモデルの元ネタは、『新マーケットの魔術師』で紹介されているギル・ブレイクというトレーダーが取っている戦略です。セクター別の投資信託を買いシグナルに従って日々ローテーションし、シグナルが出ない時はマネー・マーケット・ファンドに現金を逃避させるという、デュアルモメンタムにもよく似た戦略です。
景気環境・金利環境のサイクルによってパフォームするセクターが入れ替わっていくセクター・ローテーションの概念を、トレンド・フォローの投資法と組み合わせた戦略と理解できます。


結果は以下の通り、これまでで最も良いパフォーマンスが出ました。

レバレッジなしのパターンでは、保有数1と2の場合でS&P500を上回るリターンを上げています。これらは世界金融危機の期間を含むバックテストでありながら、ドローダウンを半分近くまで抑えることができており、特に保有数2のパターンではドローダウン継続期間も短くすることができています。

レバレッジありのパターンはさらに驚異的で、保有数1の場合は30%近い年平均リターンをあげながらも、わずか7ヶ月の最大ドローダウン継続期間で済んだという結果になっています。

レバレッジ有無どちらの場合でも、同時保有数を増やす分散化にはあまり妙味は無さそうに見えます。保有数1~2の集中投資パターンであっても、リターンとドローダウンの改善が達成できているのは、やはりブレイクも言う通り、時系列でのローテーション投資は実質的に分散効果を発揮するということを示唆すると考えます。

ちなみに、このモデルのユニバースには、通信サービスセクター($XLC)を意図的に入れていません。$XLCにはGoogleやMETAが含まれ、Magnificent 7の影響が大きく出てしまうので、後ほど見る【TIAi】Tech Innovation All-in のモデルとの重複を避けるためにも、あえて外しています。
$XLCは過去10年で2番目にリターンの大きいセクターであるため、上記の結果は現実より過小評価されていることにもなります。

細かく見ていきます。


レバレッジなしパターンの深堀り

まずは「レバレッジなし・保有数1」のパターンです。

【MSR-1】資産推移

20年間で一度もS&P500をアンダーパフォームせずに資産を増やしています。最終的には当初資金の10倍まで増えていて、これはS&P500ガチホより78%多い結果になります。

時系列で見ると、まず2008年から始まる金融危機をうまく回避して資産維持ができています。2008年10月から2009年10月にわたる1年間はキャッシュか米国債($AGG)を保有し、2009年11月からは最も回復の早かったテクノロジー株(#XLK)に乗り換えができています。

2015年8月~9月のチャイナショックや、2016年のトランプ・ラリーでは、若干S&P500をアンダーパフォームしつつも、大きな下落は回避できています。

2020年のコロナショックでは、ベンチマークよりも軽症に留めることができています。2019年12月からのラリーでテクノロジー株($XLK)を買い、相対モメンタムが基準を下回った2020年4月末まで保有したことで、3月中旬の急落での狼狽売りを回避できています。その後、投資できる銘柄がなくなったことで米国債($AGG)に切り替えて防御態勢を取り、2020年6月からの回復局面で再度モメンタムが戻ったテクノロジー株($XLK)に切り替えています。この保有期間は翌年3月まで10ヶ月に及び、37%のリターンを上げています。当時の世間の感覚を思い出しても、3月の狼狽売り回避と安全資産への逃避、6月からのリカバリー・ラリーへの追随は、普通の人間にはかなり難しい投資行動であり、デュアルモメンタムのようなシステムがなければ実現は難しかったのではないかと考えます。

前回の記事でも見た、2022年の株・債券同時安にいたっては、市場全体と反対方向にポジティブに飛躍できています。前年の2021年10月から買いシグナルの出ていたエネルギー株($XLE)を20ヶ月にわたって保有し続け、57%ものリターンを得ています。

その後、2023年6月からの半導体ブーム・ビッグテック相場ではテクノロジー株($XLK)を現在まで保有し、29%のリターンが生まれています。

全期間を通して、勝率は47.30%と半分を割るものの、勝ちトレードの平均リターンが6.4%、負けトレードでは3.8%と、負けを抑えて勝ちを伸ばすことでリターンを増加させています。超過リターンを示すアルファは6.02%と、これまでのモデルと比べても圧倒的です。

ちなみに保有数2の場合では、途中まではほぼ結果が変わらないものの、2020年から若干パフォーマンスが落ちています。これは、相場を牽引したテクノロジー株($XLK)に加えてもうひとつの銘柄を同時保有するルールであるため、テック株ではない方が足を引っ張ったためです。
保有数4の場合では、その悪影響がさらに大きく出てしまい、2020年3月を境に、テック相場に押し上げられたS&P500に逆転されてしまっています。最高の投資機会があるときにはそれに全ツッパするのがベストで、2位や3位に分散するのは微妙である(時系列で分散する計画ならば)、と言えそうです。


レバレッジありパターンの深堀り

次に、最高リターン・最低ドローダウンを達成した「レバレッジあり・保有数1」のパターンを見てみます。年平均30%、10年間のトータルリターンで17倍の戦略です。

ちなみにこのパターンでは、相当するレバレッジ型ETFがない or 流動性が小さすぎるために、一部は非レバレッジ銘柄を使用しています。つまり、信用取引やその他の方法でレバレッジをかける場合と比べて過小評価されている可能性のある結果になっています(リターンも損失も)。

【MSR(L)-1】資産推移

使用するETFの制限により金融危機後の期間で見ているというアドバンテージはありますが、レバレッジなしパターンと同様に、すべての期間でS&P500を上回っています。

2018年の米中貿易摩擦ショックで -49%、2020年コロナショックで -57%を食らっていますが、レバレッジ効果のおかげで回復も早く、それぞれ1年4ヶ月、7ヶ月でのリカバリーを果たしています。

リスクとボラティリティの高さが懸念点ですが、ポジションサイズを抑えたり、ドローダウンを緩和する仕組みが持つことで、レバレッジ効果をうまく活用したアレンジができそうな期待が持てます。


このモデルは、昔から存在するセクターETFをユニバースとしているので、後知恵による最適化の懸念は低いと考えています。

世界金融危機は長期に渡る株価暴落をもたらしたシステミック・リスクであり、コロナショックは人類史上類を見ないパンデミックが引き起こした相場の急落と急回復を伴うイベントです。
これら未曾有のブラックスワン・イベントを含んでおり、戦争や政治的混乱、自然災害、株・債券同時安といった今後も再現されうる厳しい投資環境を含めてシミュレーションしているので、モデルの堅牢性にも自信が持てます。
特に、他のモデルの検証では、コロナショックとその後の相場で、デュアルモメンタム戦略の原典が想定していない振る舞いをしているように見えましたが、MSRはそれに対応できている点は心強いです。

総じて、かなり元気づけられる結果でした。私が取るべき投資ポリシーはもはやこれしかないという気もしてきました。

最後に、もうひとつ見てみたいと思います。



検証結果: 【TIAi】 Tech Innovation All-in

90年代以降の上昇相場が本質的にテクノロジーのイノベーションに主導されているという考えから、もはやグローバルやセクターに分散する必要すら無く、米国テック株に集中すればよいのではないか? という前提に立ったユニバースです。

結果は予想の通り、非常に良いリターンをあげています。

言うまでもなく、これはテック株のパフォーマンスがこの10年以上良かったという後知恵バイアスによって作られた、オーバーフィッティングの結果です。テック株相場が続く限りは機能するはずですが、そうでなければ再現性はありません。

詳細を深堀りする意味はあまりないため飛ばしますが、この結果から言えることは、前の投稿で確認した、「カントリーレベルの相対モメンタムでフィルターする」のと同様に、セクターレベルでのフィルターも自分のモデルに入れるべき、ということでしょう。

このモデルのトレードリストを見ると、半導体株($SMH, $SOXL)やバイオテック株($XBI)が大きくリターンを稼ぎ出す時期が集中している傾向があります。後知恵バイアスを排してこれらの銘柄を選ぶには、ハイレベルのセクターであるS&Pセクターで高モメンタムセクターをフィルタしたあと、上記のようなサブセクターの中で高いモメンタムを持つ銘柄を選定していけば良さそうです。

今回の検証では、対象期間が短くなりすぎるため含めませんでしたが、下記のようなサブセクター・テーマを含めると、短期ではさらにより良い結果が出る期間もあります。

  • 自動運転($DRIV)

  • ソーラー発電($TAN)

  • フィンテック($FINX)

  • リチウムバッテリー($LIT)

  • アグリテック($KROP)

  • クリーンエネルギー($ICLN)

  • 水素テック($HYDR)


ということで、次の投稿で、デュアルモメンタム戦略のバックテストのまとめと、インサイト抽出、自分の戦略への応用を考えてみたいと思います。



Appendix

デュアルモメンタム戦略 検証シリーズの投稿


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