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家庭は絶対に安全だと言えますか


帰国から10日。

相変わらずドイツ語のオンライン授業は続けられ、A1/2に入った。
この間にクラスから離脱していった人が多い。

1人は対面授業ではなくなったことに憤怒してボイコットした。国が禁止したことであって、学校側が急にスタンスを変えたわけではないのに、ご丁寧にFacebookに最悪レビューを残して去った

それ以外にも、インターネット環境が良くないことでうまくログインできないせいなのか、単純に嫌になったのか、13人だったメンバーは今や8人がデフォルトだ。

自宅隔離を続けている中で、ウィーンでやりたかったことを取り戻そうと思ったが、東京でまったく同じことができるわけではない。

それならば、ここにいるからこそやるべきことをやろう。そう思い、ドイツ語と英語の勉強は継続しつつ、昨年度の関心ごとを追いかけることにした。


外出自粛は虐待とDVのリスクを高めるかもしれない

コロナウイルス流行に伴い外出自粛が呼びかけられる日本では、Business Insiderにて竹下郁子さんが記事を書かれているように、家にいる方がこわいと思う人がいる。


虐待やDV。

これは日本に限らず、感染爆発が起きている欧米各国でも同様に懸念されている。

私が先日まで滞在していたウィーンでは、女性向けに家庭内で何かあったときのサポート機関は開けられたままだということが早い段階で伝えられた。


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(ウィーンは比較的LGBTQに寛容な街でありながら「女性向け」としているのはかなり違和感があるが、今回は触れないでおこう。調べればあるのかも。)

実際に自宅にいることが勧められる中で、家に安らげる場所がないとわかっていながら、自宅にいるしかないと耐えている人はいるだろう。

あらゆる施設が閉鎖され、ウィーンのようにサポート機関があるとしてもそこにたどり着けないかもしれない。


家の中は他人からは見えない

どうして急にこんな話題を持ってきたのかというと、昨年度のゼミで「野田小4女児虐待死事件に関する新聞報道におけるDVの扱い」という論文を書いたからだ。

要約
仮説1:当該事件報道では、母親が父親からDVを受けていたことが虐待につながったことに焦点を当てられている。
仮説2:報道回数が多い新聞社がよりDVと虐待の関連性が目立つ。 

研究方法:母親であるなぎさ容疑者の初公判が行われた2019年5月16日までの朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の記事327件を対象に、KH Coderを用いたテキストマイニングによる計量的分析を行った。共起ネットワーク分析、階層的クラスター分析、KWICコンコーダンスを使用し、多角的な研究を実施した。

結果:仮説1について、本研究では立証することができなかった。複数の方法で単語と単語の共起関係や文脈のグループ分けを行ったものの、数値的結果は得られず、それぞれの分析方法ごとに多少のズレなどがあったことから、仮説1は立証されなかったとした。
仮説2について、こちらも本研究では立証されなかった。報道回数が増えるほど裾野が広がり、深めた報道とは言い難い。各社の傾向を調べると、どれにも「DV」と「虐待」のつながりを示す共起関係が表示されなかった。

考察:DVと虐待の連動性が見られないため、一般人に周知することが徹底されているとは言えない。分かりやすく事実を伝えることは最も必要だが、複雑に絡み合う問題を深く丁寧に報じることも大切であることが本論文で見出せただろう。事件報道をするにあたり、どの切り口からどこまでを一つの記事で伝えるのかというアジェンダ設定のあり方が問われている。


2019年1月に発生した野田小4女児虐待死事件は各メディアで大きく扱われ、日本に衝撃を与えた。

学校で行われたアンケート調査にSOSを出していたこと、児童相談所も介入していた家庭であったこと、両親の間にはDVがあることが糸満市に報告されていたこと、それが転居先の野田市には伝えられていなかったこと………
それにもかかわらず虐待死を招いてしまったことが次々と明らかになった。


この事件がなぜそこまで注目されたのか。

それは、DVと虐待が並行して起きた事件の報道がそれ以前にはほとんどなかったからである。

私が論文のテーマにこれを選んだのも、これが理由だ。
2019年初夏にDVや虐待を受けた方々に会う機会があり、そのとき初めてDVと虐待が同時に起こることを知った。知らなかったのだ。


各機関の連携不足が露見したこの事件が一つのきっかけともなり、野田市におけるマニュアルが改定されるなど、多くの体制が見直された。


また、令和元年6月19日に国会にて可決・成立した改正児童虐待防止法が、本日2020年4月1日より施行された。(一部を除く)


この中には、児童相談所と配偶者暴力相談支援センターとの連携に関する規定が盛り込まれた。今まではなかったのが信じがたいが、こうなったことで救われる人が増えてくれることを願うしかない。


日本経済新聞によると、2020年1月より児相とDV関係機関の連携に関する実態調査を行うとしていた。
このことについて、2019年12月17日に行われた会見にて加藤厚労大臣は以下のように答えている。

「DV対応を行う機関と児童虐待対応を行う機関の連携方法についての事例の収集、また、その分析等を通じて、各機関がDV・児童虐待を包括的にアセスメントするためのツールやガイドラインを作成することを目的に調査研究事業を行うことにしております」(厚生労働大臣 会見概要より

その調査結果を知りたかったが、公表される前に今日の日を迎えてしまった。
もしかすると、調査はするけれどその結果は発表はしないのかもしれない。


もう一つ大きく改正されたことは、親による子どもへの体罰禁止の明文化だ。

「しつけのため」
「子どもが言うことを聞かなかったから」

これらの理由は法的に認められないことが明文化された。

虐待事件の加害者である親がこういった主張をするからだ。

しかし、いったいどこまでが「しつけ」であり、どこからが「体罰」「虐待」に値するのだろう。

答えられるだろうか。
そもそも、親はこれらの定義さえよくわかっていないまま親になっているのではないだろうか。

子どもは人権を有する。そのことだけは忘れてはならない。
「自分の子ども」は「自分のモノ」ではない。


あなたの周りにもいるかもしれない


私は誰もがこのことを考える必要があるのだと強く訴えたい。

DVも虐待も、何もかも「自分事」として考えてみてほしい。

何がダメで何が良いのか。
それを決めるためにはたくさんの人の関心が必要で、意見はしなくても認識はしている人が多くいることが必要だと思うのだ。


家の中は見えない。
他人の家に土足で上がることはできない。

その中で苦しむ人がいるとしても、無理やり押し入ることができない。
見えないから事件化しにくい。見えないから報道されにくい。

だからこそ、苦しむ人が少しでも戸を開けたとき、全力で抱きしめてあげる人が必要なのだ。その基盤となるルールを正しく適用するために、まずは知ってほしい。

家庭は必ずしも安全ではないし、家庭の有り様は家庭ごとに違うものであると。


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