番十兵衛

スポーツジャーナリスト・評論家。スポーツを文化的な視点で論じていきます。

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最近の記事

パリ五輪に無条件で出場するイスラエルの歴史的背景

パリ・オリンピックは、世界で二つの「戦争」を抱える中で開幕を迎える。ウクライナに侵攻したロシアと、それに協力したベラルーシの選手は国家の代表としての出場を禁じられている。一方、パレスチナ自治区ガザに攻撃を続けるイスラエルは何の条件もつけずに出場できる。この違いは何なのか。 ロシアとベラルーシは出場が禁じられているのに 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、ロシアがウクライナ東部の一部地域のスポーツ組織を併合したことが「ウクライナ・オリンピック委員会の領土一体性を

    • 日本人初の五輪参加はアイヌ男性だった

      日本選手団の壮行会も終わり、パリ・オリンピックの開幕がいよいよ近づいてきた。ところで、日本の五輪史を振り返ると、気になる話がある。日本人として初めて五輪に参加したのは、金栗四三(マラソン)と、三島弥彦(陸上中短距離)だとされているが、本当にそう言い切っていいのか、という問題だ。2人は大日本体育協会から派遣され、1912年ストックホルム五輪に出場した。しかし、それ以前に五輪の舞台に招かれた人たちがいる。北海道に古くから根を張って暮らしてきたアイヌ民族だ。 1904年セントルイ

      • 反骨のスポーツジャーナリスト、谷口源太郎さん逝く

        スポーツを社会的視点からとらえ、政治利用や商業主義化を徹底批判したジャーナリスト、谷口源太郎さんが86歳で亡くなった。スポーツを感動的に報じる風潮が強い中で、谷口さんはそれを食い物にしようとするものを許さないという姿勢を貫いた。権力にも屈しない、まさに反骨の人だった。 長野五輪で堤義明氏を徹底批判 1938年、鳥取市に生まれ、早稲田大を中退後、講談社や文藝春秋の週刊誌記者として報道の世界に足を踏み入れた。1985年にフリーランスになった後、闘志を燃やして取り組んだのは、長

        • 夏の甲子園は「7回戦制」で酷暑の問題を解決できないか?

          夏の甲子園を目指す全国高校野球選手権大会の地方大会が始まった。南北北海道と沖縄県が22日に幕を開け、7月上旬からは全国で大会が本格化する。夏本番に向け、運営側が警戒するのは酷暑下での熱中症だろう。今年は8月の甲子園大会で3日間のみ「朝夕2部制」が採用されるが、まだ試験導入という。選手や観客の健康を守るには、どんな手があるのだろうか。 朝夕2部制に立ちはだかる「1日4試合」の壁 朝夕2部制は、8月7日開幕の甲子園大会からの導入となる。主催者である日本高校野球連盟と朝日新聞社

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          エムバペの政治的発言をどう読むか

          サッカーの欧州選手権(EURO)で、フランス代表主将、キリアン・エムバペの発言が物議を醸している。記者会見で言及したのは、試合に関わる内容ではなく、フランスの国民議会(下院)選挙のことだったからだ。フランスで極右勢力が台頭する中、エムバペは「極端な勢力が権力の座を勝ち取ろうとしているのは誰の目にも明らかだ」と述べ、若者らへの投票行動を呼び掛けた。最近はトップアスリートの政治的発言が目立つ。どう考えるべきか。 「分断」の溝を広げると極右勢力を批判 発言が飛び出したのは、初戦

          エムバペの政治的発言をどう読むか

          部活動の不祥事とメンタルヘルスの関係

          部員による違法薬物の使用で日大アメリカンフットボール部が廃部となるなど、体育界系の部活動で不祥事が後を絶たない。高校でも上級生による暴力やいじめなどが常に問題となっている。根本的な原因を考えると、そこには選手たちのメンタルヘルスが関わっている。その鍵を解く一冊の本がある。 閉鎖的な環境が選手を追い込む 近ごろ発売された『10代を支える スポーツメンタルケアのはじめ方』(大和書房)は、若いアスリートたちが陥る精神的な問題を詳細に分析している。著者の小塩靖崇(おじお・やすたか

          部活動の不祥事とメンタルヘルスの関係

          学校スポーツの衰退をだれが救えるのか?

          日本中学校体育連盟(中体連)が「全国中学校体育大会」から9競技を除外すると発表した。除外対象となったのは、水泳、ハンドボール、体操、新体操、ソフトボール男子、相撲、スキー、スケート、アイスホッケーだ。このうち、スキーを除く8競技は2027年度から廃止となり、スキーも開催地との契約終了後となる29年度からは実施されない。学校スポーツの衰退にますます拍車がかかるばかりだ。 部活動設置率20%未満の9競技が除外へ 除外の基準となったのは、中体連加盟校数に対し、部活動の実態を示す

          学校スポーツの衰退をだれが救えるのか?

          「国スポ」の見直しで将来像は見えてくるか?

          「国民スポーツ大会(国スポ)」といって、どれだけの人がピンとくるだろうか? 今年から名称変更した旧国民体育大会のことである。ところが、全国知事会の会長を務める宮城県の村井嘉浩知事から廃止論も飛び出して、関係者はざわついているのだ。 村井知事が「廃止も一つの考え方ではないか。非常に開催地の財政的負担は大きい」などと定例会見で発言したことをきっかけに、全国の知事がそれぞれに持論を展開した。各地の知事会見を調べてみると、こんな意見が出ている。 石川県の馳浩知事は「廃止すべきだ。

          「国スポ」の見直しで将来像は見えてくるか?

          ビジネス化の波を受け、岐路に立つ大学スポーツ

          米国の大学スポーツを統括する全米大学体育協会(NCAA)と、スポーツ強豪校が顔を並べるサウス・イースト・カンファレンスなど5つの団体(パワー5)は、大学側が選手に報酬を支払うことを容認する方針で合意した。 米国の大学におけるバスケットボールやアメリカンフットボールは、プロ並みの観客を集める人気スポーツとして昔から有名だ。巨額のスポンサー収入やテレビ放映権料収入は、NCAAや大学の懐に入っていたのが、今後はその「分け前」が大学から学生本人に直接支払われるというわけだ。 背景

          ビジネス化の波を受け、岐路に立つ大学スポーツ

          【自己紹介】スポーツメディアにまとわりつく「邪念」を振りほどいて

          はじめまして。スポーツ記者を長く続けてきました。メディアの世界に入って30年以上がたつのですが、最近、モヤモヤした気持ちが日増しに高まり、まずはペンネームでスポーツへの思いを綴ろうという心境に至りました。 モヤモヤの原因は、スポーツジャーナリズムを取り巻く環境の変化にあります。近年、メディアの経営が悪化する中、同じ時代を生きた記者たちが次々と去っていきました。若い頃、仕事の手ほどきを受けた先輩の多くも鬼籍に入りました。 メディアの最前線は今、かつてテレビ局が視聴率争いに狂

          【自己紹介】スポーツメディアにまとわりつく「邪念」を振りほどいて