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夏の甲子園は「7回戦制」で酷暑の問題を解決できないか?

夏の甲子園を目指す全国高校野球選手権大会の地方大会が始まった。南北北海道と沖縄県が22日に幕を開け、7月上旬からは全国で大会が本格化する。夏本番に向け、運営側が警戒するのは酷暑下での熱中症だろう。今年は8月の甲子園大会で3日間のみ「朝夕2部制」が採用されるが、まだ試験導入という。選手や観客の健康を守るには、どんな手があるのだろうか。


朝夕2部制に立ちはだかる「1日4試合」の壁

朝夕2部制は、8月7日開幕の甲子園大会からの導入となる。主催者である日本高校野球連盟と朝日新聞社によれば、2部制は1日3試合が組まれる大会初日から第3日までの3日間限定で実施される。午前と夕方で観客を入れ替え、入場券もそれぞれ発売される予定だ。

第1日は午前8時半から開会式が行われ、第1試合は10時から開始。試合終了後、いったん観客を入れ替え、第2試合は午後4時、第3試合は午後6時半から行われる。第2、3日は第1試合が午前8時、第2試合は午前10時35分から。インターバルを置き、第3試合は午後5時開始というスケジュールだ。

ところで、なぜ4試合の日には実施できないのか――。たとえば、第1試合を早めて午前7時、第2試合を午後9時半から行うとすると、運営側は少なくとも午前5時ごろには球場入りしなければならない。始発電車の時間を考えても運営側の人を集めるのは簡単ではない。

夕方の試合にも課題はある。たとえば、午後4時から2試合を行った場合、順調なら午後9時頃には試合は終わるだろう。しかし、長引けば、観客らの帰宅が午後11時近くになる恐れもある。2018年に京都大会の準々決勝4試合を朝夕に分けて行ったことがあるが、最後の試合が終わった時には午後10時半を回っていた。される。午前と夕方で観客を入れ替え、入場券もそれぞれ発売される予定だ。

「特別警戒アラート」で中止の地方大会も

今年の地方大会で朝夕2部制を実施する都道府県は今のところ、なさそうだ。だが、別の酷暑対策もいろいろと講じられている。

愛知県や岐阜県では、前日に「熱中症特別警戒アラート」が発令された場合、試合は中止とし、順延するという。このアラートは今年から運用が始まったもので、気温や湿度から算出される暑さ指数が「35」を超えると予想される場合に発せられる。

宮城県では、暑さ指数が「33」での「熱中症警戒アラート」が発令されると、試合の中止・順延を決めるという。過去5年間、宮城県で「33」を超えた日はなかっただけに、暑さにはより慎重な判断をする方針だ。試合中に「33」を超えた場合は、即座に運営委員会を開き、続行の可否や翌日の試合開催について協議する。

「アラート」への対応だけでなく、従来は1日3試合行っていたところを2試合にする県もある。ただ、午前中に2試合を行う場合、どうしても第2試合は昼に差し掛かってしまう。本当の熱中症対策とは言い難い面もある。

甲子園に屋根をかけても課題は残る

地球温暖化が進む中、球場のあり方も今後の課題となるだろう。阪神電鉄では2025年の大阪・関西万博終了後、阪神甲子園球場の内野席の一部を覆っている大屋根「銀傘」を、一、三塁側応援席であるアルプス席まで拡張する方針を発表している。

甲子園球場の銀傘、アルプス席まで拡張 暑さ対策「観戦環境改善を」 - 高校野球:朝日新聞デジタル (asahi.com)

しかし、それだけで十分といえるのか。球場の屋根を拡張するのであれば、将来的には開閉式屋根で全体を覆うドーム化にも検討の余地はあるはずだ

ただ、甲子園の改修だけで高校野球の酷暑対策が完了するわけでもない。全国的に適用できる対策でなければ、地方大会で熱中症による事故が起きる可能性は十分ある。

U-18ワールドカップは「7回戦制」

課題解消に切り札として考えられるのは、「7回戦制」の導入だ。野球は9回やるものだ、と反発する人は大勢いると思われるが、球界全体を見渡してみると、そうでもないのだ。

たとえば、日本でも小学生の学童野球やリトルリーグなどは6回である。中学生ではリトルシニアやボーイズリーグ、中学校の軟式野球も7回だ。1時間半という時間制限を設ける団体も多い。

高校生年代を見ても、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が主催するU-18ワールドカップ(W杯)は7回戦制で行われている。日本代表は春夏の甲子園で活躍したトップクラスの選手が選抜されるが、米国や韓国、キューバなどと世界一を競い合うW杯は9回戦制ではない。

Japan@Chinese Taipei - XXXI U-18 Baseball World Cup 2023 (wbsc.org)

また、日本の社会人野球でも昨年から一部の地方大会で7回戦制が始まり、今年は約40大会で採用されている。

もし、日本の高校野球を7回で実施した場合、朝夕2部制の懸念点はほぼ解消されるだろう。7回の場合、1時間半前後で終了する。朝夕2試合ずつを行っても、大きな混乱を生まず、常識的な時間帯に実施できるはずだ。

選手や審判の身体的な負担は軽減され、ブラスバンドなどの応援団も酷暑にさらされる時間は減る。暑さだけではなく、投げ過ぎによる投手の肩ひじの問題も解消されるに違いない。

「野球は9回」という固定観念を脇に置いて考えてみると、多くの問題に答えが見えてくる。延長戦にしても、昔は決着がつくまで無制限にやっていた時代もあったが、その後、18回、15回となり、さらに延長タイブレークが13回から導入された。今やタイブレークは10回からだが、それに異を唱える人はもういないだろう。

少子化や競技人口の減少が急速に進む中、野球はこれからも持続可能なスポーツであり続けられるのか。関係者たちが柔軟な発想で変えていくべきだ。

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