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学校スポーツの衰退をだれが救えるのか?

日本中学校体育連盟(中体連)が「全国中学校体育大会」から9競技を除外すると発表した。除外対象となったのは、水泳、ハンドボール、体操、新体操、ソフトボール男子、相撲、スキー、スケート、アイスホッケーだ。このうち、スキーを除く8競技は2027年度から廃止となり、スキーも開催地との契約終了後となる29年度からは実施されない。学校スポーツの衰退にますます拍車がかかるばかりだ。


部活動設置率20%未満の9競技が除外へ


除外の基準となったのは、中体連加盟校数に対し、部活動の実態を示す「部活動設置率」である。22年度の調査により、20%未満の競技が原則的に除外されることになった。9競技だけでなく、ソフトボール女子も20%を切ったが、部活動在籍数が2万5000人を超えていることに配慮し、実施競技にとどまった。

中学スポーツの総合競技会として1979年から始まった「全中」は、運動部活動の頂点を決める場として、さまざまな競技を実施してきた。昨年度は夏季16競技、冬季(駅伝を含む)4競技が行われた。夏冬合わせて約1万3000人の選手が出場し、都道府県大会や地区の予選には約180万人が参加するという。

背景に少子化の急速な進行と教員の負担増加

今回、9競技を除外する背景には、少子化の急速な進行に加え、大会運営における教員の負担増加がある。中体連は「改革を進めなければ中学生にとって大舞台である全中大会を開催し続けることが難しい状況になっている。多様なスポーツ大会のさらなる充実と発展を目指していくための新たな一歩としていきたい」と説明した。

「縮む日本」を象徴する出来事である。これからも少子化は続くだろうが、部活動設置率20%未満という基準に従えば、除外対象となりそうな競技が他にもある。予選の開催については、各地の事情によって判断されるが、全中の基準に従って多くの競技が除外される事態に陥れば、大会の開催はおろか、競技の存続も危ぶまれるだろう。

「地域クラブへ移行」は課題山積

文科省では、昨年度から中学校の部活動を地域クラブに移行させる取り組みを始めた。学校からスポーツを切り離し、地域での活動に委ねる方針だ。だが、子どもたちの競技環境が大きく変わったとはいえず、地域指導者の不足、練習場所の欠如、保護者の負担などさまざまな問題点が指摘されている。

水泳や体操、新体操などは民間クラブで育つ選手が多く、全中から除外されても大きな支障はないかもしれない。しかし、ハンドボールのような地域クラブ化が進んでいない競技では、中学校の部活動が普及に大きな役割を果たしてきただけに痛手は大きい。今後、普及・振興に真剣に取り組まなければ、競技人口が一気に縮小する可能性がある。

その上で鍵を握るのが、地域クラブの組織作りである。今のところ、改革は道半ばであり、積極的な動きも見られない。このままでは文科省やスポーツ庁の掛け声倒れに終わる恐れもある。そこで一つ提案したい。

地域密着を目指すプロが主導してはどうか?

たとえば、地域密着を目指すサッカーのJリーグやバスケットボールのBリーグ、プロ野球NPBや独立リーグの球団が、多種多様な競技を混在させた形のクラブを整備できないものか。ラグビーのリーグワンや、今秋から始まるバレーボールのSVリーグなども加われば、各地にスポーツの拠点が広がるはずだ。会員が増えれば、観客動員にもつながる。会費による収益を指導者の雇用などに回し、底辺層の普及にも力を入れて「総合型」のクラブを拡大していくのだ。

サッカーの名門、スペインの「FCバルセロナ(通称・バルサ)」では、サッカーチームだけでなく、バスケットやハンドボール、ローラーホッケーなどのチームを所有しており、かつてはアメリカンフットボールやフィギュアスケートのチームもあった。バルサという大きな傘の下に異なる競技のチームが共存している形だ。会員は「ソシオ」と呼ばれ、巨大な組織を形成している。

日本でも文科省が音頭を取って、各自治体に最低一つの「総合型地域スポーツクラブ」を創設しようとした時期があった。これもバルサのようなクラブをモデルとしたもので、地域を母体に日本のスポーツを活性化させる計画だった。だが、行政が主導しても環境はさほど変わらなかった

東京五輪・パラリンピックも終わり、スポーツに対する行政支援は得られにくい状況にある。今こそ動き出すべきなのは、各地に根を広げたプロスポーツだ。学校スポーツの崩壊が顕著になって来た今、まさにその出番ではないか。


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