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かわいいの魔法

…高校…期生 同窓会のご案内
1か月前に一人暮らしのアパートに届いた高校の同窓会の誘い。
大学4年生で就活も終わった僕は暇を持て余しており、久しぶりに旧友と会いたくなったので、参加の返事をした。

同窓会は真夏日の夕方から行われた。
駅近の居酒屋チェーン店の前に、同世代の男女が集まっている。
ほとんどの参加者が、就活を終えた開放感と残りの学生生活を謳歌する高揚感に満ちた雰囲気をまとっており、中には見慣れた顔もいた。
「めっちゃ久しぶりだなあ!一昨年ぶりだっけか」
「久しぶり、元気だったか?そういえば、彼女来てるみたいだぜ、ほらあそこ」
友人が顎で差し示した方には、女子たちが集まって再会を喜んでいた。
同じような服装の女子たちは、当時と違って華やかな雰囲気をまとい、一目では誰が誰だか見分けがつかなかった。
でも、彼女というのが誰を指しているかは分かっていた。高校時代の元カノである。


「あれ、久しぶりだね、卒業式以来かな」
ただの偶然か誰かの意図があったのか、飲み会の席で隣に座ったのは彼女だった。
彼女は高校3年間を一緒に過ごした仲で、そのうち2年間は付き合っていた。
「久しぶり、元気だった?」
卒業式以来、というのは、僕と彼女の進学先が離れたために、生活スタイルが合わなくなって連絡を取らなくなった結果、その年の夏に顔を合わすことなくSNSで僕が別れを告げたことに由来していたりする。

彼女は当時とは見違えるほど、可愛く魅力的になっていた。雰囲気は大人の女性らしくしとやかになったし、特徴的だった黒髪のポニーテールは肩をかすめるほどの栗色のミディアムになっていた。
宴もたけなわになり、就活や大学生活から当時の思い出話に話題が移っていく。
彼女の楽しそうな笑い声と相槌に僕もつられて、ビールが進む。
話題がひと段落したところで、気になっていたことを聞いてみることにした。
「高校の時と雰囲気違うけど、メイクとか?髪の毛短いの似合うね」
「ありがとう、今の彼氏がね、たくさん褒めてくれるの、可愛いって魔法よね。もうすぐ4年目になるんだけど、来年から一緒に住むんだ」

嬉しそうな彼女の声も居酒屋の喧騒も急速に遠ざかっていくような感覚を覚えた。
それは、久しぶりに飲みすぎたアルコールのせいなのか、可愛くなった彼女への淡い期待が消えたせいなのか、はたまた制服を着てた頃の僕の言葉足らずを呪ったせいか。
酔っぱらった頭にはもう判断がつかなかった。

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