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コロさん日記(8)〜書斎はホスピスじゃないのだが〜

コロさんの日課が増えた。巡回だ。

私の書斎、同居人のニンゲン女が親しみを込めて呼ぶところの“ホスピス”──それって不謹慎じゃねえのか──の外にも世界があることを知ったコロさんは近頃、ホスピスの扉が開くのを待つようになった。そして扉が少しでも開くと、それなりに猫らしい俊敏さでもってニンゲンの脇を駆け抜け、廊下へ飛び出していく。

だが、そこには我が家の猫たちが番兵のように待ち受けている。

前にも書いたが、コロさんは猫のくせに猫が嫌いだ。それも苦手とか不得手とかいった生易しいレベルでの「嫌い」ではなく、嫌悪している。別の猫を見かけるや否や「シャア!」と唸って、火がついたマイク・タイソンよろしく突進していく。

こんなんじゃ、里親さん見つからなくね。

コロさんはうちの猫たちの、何がそんなに気に入らないのだろう。我が家の猫たちは基本皆のんびりで、よそ者にも優しい。いきなり威嚇したりはしない。コロさんに対してもそうで、だからよけいに猫たちとしても、自分らは何もしていないのに一方的に「シャア!」と唸られることに戸惑いを隠せないようだ。皆一様に「え、なんで?」みたいな顔を浮かべながら、ヤバい人にでも会った時のようにじわじわ離れていく。

あるいは、これがコロさんの巡回スタイルなのだろうか。ちょうど拭いがたい恐怖心を植え付けることで臣民を支配する、帝政ローマ期の暴君のような。そうやってキレちらかす様は傍目に見ていても理不尽で、ニンゲンでもちょっと引いてしまう。あんまり怒ると血圧が上がりますよと、獣医にも諌められたくらいだ。

そして今、巡回から戻ってきたコロさんは、私の太ももの上に乗って、鳩みたいにゴロゴロ言っている。満足そうだ。あんなにパンキッシュな巡回でも、コロさんなりに達成感があるらしい。なら合っているのか。

それにしても、猫のぬくもりというのはなぜ、こんなに心地よいのだろう。猫のいるそのエリアだけがまるで、小春日和の縁側のような穏やかさに包まれている。その体温でもって、あらゆる疲れを溶かし、あらゆる心を柔らかくほぐす。不思議だ。コロさんのほうも安心しているらしく、この瞬間のすべてが正しく思える。

仕事の納期が迫っていること以外は。

第9話へ

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“コトバと戯れる読みものウェブ”ことBadCats Weekly、本日のピックアップ記事はこちら!心がくさくさしている時に読むと元気が出てくる、こばやしななこさんの妄想についてのエッセイ。

寄稿ライターさんの他メディアでのお仕事も。エンタメ系ライターの安藤エヌさんに、こちらの記事で10月のおすすめ映画を教わりましょう。

最後に編集長の知見を得られないミニエッセイというか掌編も。マスクをつけ忘れたときに思いついて書きました。


これもう猫めっちゃ喜びます!