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📗カネト 炎のアイヌ魂📖

小学中高学年以上向けの
ノンフィクションシリーズの一冊

つくづく思うのですが
日本の子供向けに作られた本で
子供騙しの作品に出会ったことがありません

(いや、あるよ
といわれるかもしれないけど
まぁまぁ それは そっと表紙を閉じときましょう)

「ひとりの少年が、北海道の原野を走っていた。
ときどき、こぶしで、目をこすりながら走っていた。
はるかむこうに、まだ頂きに雪をおいた大雪山が、
うっすらとかすみのかかった空に浮かんでいる。
少年は、走りつかれると、
そのまま草原にたおれこむようにうつぶせになった。
しばらく肩をふるわせ、泣きじゃくっていた少年は、
いつのまにか、寝息をたてていた。
浅黒く、ほりの深い少年の顔に、くやしなみだのあとが、
いくすじもこびりついている。
やわらかな芽が枯れた野原のあちこちにで始めた四月、
北海道の石狩川のほとりは、春のよそおいにつつまれていた。
その春のよそおいとは、反対に、少年の心は暗く閉ざされている。
少年は、川村カネト。」

ここに全てが詰まっているような始まり方
すでに心は 少年 川村カネトの隣にいる

川村カネトとともにその時代を経験することができました
経験すると同時にいろんな扉が目の前に現れます
アイヌとは
測量とは
鉄道とは
民族とは
誇りとは

そういう時代だから、という言葉では片付けてはならない
少年少女よ いや大人たちも
知っておいてほしい

文明を持った人間の心
持たないものを蔑む心
少数を虐げる心
その心から遠慮なく弾き出される言葉や行動
その中で見えてくる人間の姿
さあ どうする
君の人生 どう生きる

出来事は一つの方向からの正義で
言い表すことはできません
現実問題は相当複雑で凄惨なこともあったはずです
しかし
ノンフィクションだからといって
その一つ一つを全て伝えればいいかというと
そういうことではないのだと思いました

余白余韻を残し
読んだ者にその後の判断を委ねる大らかさ
懐の広さ 大局観
それを感じればこそ 見間違うまいと 
そこに関係する様々な物事に真摯に目を向けることができる

知らないことばかりだと自覚し
知ることで物事をさらに深く さらに多方面から
みることのできる人間でありたいと思いました

アイヌ とはアイヌ語で人間という意味だそうです

のちに
上川アイヌ大酋長と言われ
旭川でアイヌ記念館を経営し
旭川アイヌ民族史跡保存会長
旭川アイヌ民族手工芸会長などを務めた人物
その半生は
北海道の鉄道や飯田線の開通に大きな足跡を残した
川村カネトさんの波乱に富んだ八十三年の生涯

その一端を垣間見ることで
大いに想像力を働かせ
未知の扉をどんどん開いていってほしい
著者、画家、編集者の方々の
そんな思いを感じました

そして読んだ後にもう一度
挿絵をじっくり見てみると 
これがすごい素描画
黒一色
景色と人物のいる「そこ」に吸い込まれるような画力
その挿絵を最初から見ていくと
走馬灯のように物語が再生されます
(画家の小坂茂さんは
児童文学の挿絵をたくさん残され
2022年11月に97年の生涯を閉じられました)

そして終わりの章に載っている
数々の写真を見て
そうだったノンフィクションだったと
あらためて物語の大きさ奥深さにガツンとやられます

1983年初版の子供騙しではない児童書

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