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コーヒーの香りをゆるめに科学する?

しっぽにちは。BBです。
今日はコーヒーの香りについて書いてみます。いつもコーヒーを飲むときに香りに癒されていますが、それがどうやって生まれているのか少し調べてまとめてみました。一枚の絵にすると以下の感じです。

コーヒーと香りv2png

内容について、以下に少し書いてみます。

コーヒーと香りの関係(ざっくり)
コーヒーの生成過程における様々な側面・要素が香りや味に影響し複雑。そもそもの品種や産地、気候、栽培方法などの生産段階の影響、メイラード反応などの化学反応が起こる焙煎段階の影響、ドリップなどの抽出方法や抽出時の温度と速度、豆の挽き方、さらには、提供時の温度による影響などを受けて、最終的に生成されるコーヒーの成分が変わる。
成分として、主には、揮発性化合物と不揮発性化合物があり、香りには揮発性化合物の関わりが強い。
最終的には、個人の嗅覚や味覚を通じて認知される。表現を統一的に扱うために、感覚語彙というものが用いられる。

今回も知識系の記事を書いてみました。コーヒーは本当に情報量が多いです。「コーヒー 香り」みたいな簡単なキーワードからでも、調べていくと次から次に情報がでてきて、知的好奇心が駆り立てられました。どんどんマニアックな世界にいっていて、実践的に何の役に立つのか不明な気がします(笑)が、引き続き、最初に立てた目標項目(以下の記事)に沿って、成長しながら書き進めようと思います。

いつものように、詳しい理解のための参考文献を以下につけておきます。

[References]

学術研究
[1] Coffee flavour: an overview
コーヒーの香り(flavour)に関するレビュー。香り以外(コーヒーの生成プロセスや成分)に関してもよくまとまっている。被引用数150超
ポイント:焙煎豆の約10%を占めるコーヒーオイルがコーヒーの香りのほとんどを担っている。香りは揮発性化合物の複雑な混合物で構成。不揮発性化合物が酸味、苦味、渋味を決定。香りの形成メカニズムは非常に複雑。関係する全ての工程での相互作用の元生まれている。約900種類の揮発性化合物が同定されているが、そのうちコーヒーの香りに関連するものは20種類にも満たないと言われている。

[2] Coffee Flavor: A Review
コーヒーの香り(flavor)に関するレビュー。2020年発行。様々な側面での香りに関する研究を引用。スコープが広い。化合物と香りの対応がまとまっている。

[3] Coffee aroma—Statistical analysis of compositional data
コーヒーの産地と香り成分の関係(区別できる最小の成分は何か)を調査した研究。特に焙煎の影響に着目。被引用数約80
ポイント:コーヒーの産地を区別できる比較的小さな香り成分群=成分化合物群(主に焙煎工程で生成される主要な化合物)を見つけることが目的。アラビカ種(16サンプル)とロブスタ種(3サンプル)およびそれらのブレンド(11サンプル)の合計30種類のコーヒーを調査。結果として、6つの主要揮発性化合物(酢酸、2-メチルピラジン、フルフラール、2-フルフリルアルコール、2,6-ジメチルピラジン、5-メチルフルフラール)のみが、調査対象の30種類のコーヒーサンプルを十分に区別した。

[4] The kinetics of coffee aroma extraction
コーヒーの香り成分の物理化学的特性(揮発性と極性)が抽出時に果たす役割(キネティクス)を調査した研究。特に抽出時に着目。被引用数約50
ポイント:結果として、極性が高い成分(2,3-ブタンジオン)が低い成分(β-ダマセノン)に比べてより早く抽出され、抽出中にカップ内のアロマバランスを変化させる(揮発性は相関なし)。抽出中も連続的に香りの知覚が変化することを示唆。

[5] Coffee Roasting and Aroma Formation: Application of Different Time−Temperature Conditions
コーヒーの香り形成に関して焙煎時間や温度条件の影響を調査。被引用数100超

[6] Coffee extraction: A review of parameters and their influence on the physicochemical characteristics and flavour of coffee brews
コーヒーの香りに関して抽出方法の影響を調査。2020年発行

[7] The calming effect of roasted coffee aroma in patients undergoing dental procedures
歯科治療中にコーヒーの香りを吸入することによる鎮静効果を調査。2021年 nature (scientific reports) 誌。結果として、コーヒーの香りの好みやコーヒーを飲む頻度とは関係なく、治療中に香りを嗅ぐと、α-アミラーゼ sAAとコルチゾール sCort(ストレス応答のマーカー)、心拍数が低下。

[8] SENSORY LEXICON OF BREWED COFFEE FOR JAPANESE CONSUMERS, UNTRAINED COFFEE PROFESSIONALS AND TRAINED COFFEE TASTERS
コーヒーの特徴を表現するための感覚語彙を開発。日本の研究。
ポイント:市販の52種類のコーヒーから24種類のコーヒーサンプルを感覚検査し377の表現を抽出。その中から127語(外観7語、香り61語、味・風味23語、口当たり8語、総合印象28語)を語彙として選定。その内、31と60の用語が、消費者とコーヒーの知識がない専門家に適していると結論

コーヒーと香りの関係(国内)
[9] コーヒーと健康
全日本コーヒー協会の説明。銘柄と脳波との関係を調査した研究など紹介
[10] コーヒーの香りとは?気になる成分・効果からおすすめまでご紹介
香り関連の情報がまとまっている。広いスコープ
[11] 美味しいコーヒーの基礎学【香り編】
香り関連の情報がまとまっている
[12] コーヒーには3つの香りがあるって知ってる?
香り関連の情報がまとまっている
[13] 香りを楽しむフレーバーコーヒーにはどんな種類がある?おすすめも知りたい!
フレーバーコーヒーについて説明
[14] コーヒーの香りがリラックス効果を与える?睡眠の質が良くなるそのワケとは
香りと焙煎度合いの関係など説明
[15] コーヒーの香りについて。効果や気分別の選び方、フレーバーの魅力をご紹介
香りと焙煎過程の関係など説明
[16] 味を左右するコーヒーオイルとは?油脂の機能と抽出方法による違いを紹介
コーヒーオイルの説明
[17] コーヒーのオイル(油分)とは何か?その効果と効能について
コーヒーオイルの説明
[18] coffee tasting コーヒーテイスティング
日本家庭用レギュラーコーヒー工業会のまとめ。見やすい。銘柄ごとのテイストや感覚語彙の一覧などあり。

コーヒーと香りの関係(海外)
[19] WORLD COFFEE RESEARCH SENSORY LEXICON
World Coffee Researchがまとめたコーヒーの香りを表す感覚語彙
[20] Aroma and flavour descriptors
Coffee Flavour Wheelの絵あり。その他、コーヒー関連の情報がまとまっているサイト
[21] WHAT IS COFFEE "AROMA"?
香りに関する簡単な説明
[22] Coffee Aroma vs. Coffee Fragrance: What’s the Difference?
アロマとフレグランスの違いを説明
[23] What Creates Coffee Aroma? Understanding The Chemistry
香りの化学的な説明
[24] What Makes Coffee Smell So Good? An Infographic Makes Scents of It
香りと化合物の関係の絵が見やすい
[25] Coffee Is So Effective, The Smell Alone Could Boost Your Brain Power: Study
香りと認知機能の関係を調査した研究などを紹介
[26] The Science Behind Why Coffee Smells So Good
香りと化合物の関係を説明。絵が見やすい
[27] The smell of coffee – an analytical perspective
香りに関する詳細な説明。レビュー論文並みに詳しい
[28] Sense of Smell and Coffee - How Can You Improve Your Smelling?
コーヒー嗅覚のトレーニング方法など解説
[29] Coffee is Being Widely Used as a COVID-19 Diagnostic Tool
コーヒーがコロナの家庭用診断ツールとして注目されているらしい

また、以下に、もう少しマニアックな情報(レビュー論文に記載があったものを抜粋)を記載します。コーヒーに関連する化学系の用語です。正直、ぱっと見ても頭に何もはいってこないですが、備忘録がてら残しておきます。

[コーヒーに含まれる主な揮発性化合物と香りの対応]
以下、Reference[2]より抜粋、翻訳した表

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[コーヒーに含まれる主な不揮発性化合物]

カフェイン:コク、苦味に寄与
トリゴネリン(とその不揮発性誘導体:ニコチン酸、N-メチルニコチンアミド)
タンパク質、ペプチド:メイラード反応を受けない
多糖類(セルロース、ヘミセルロース、アラビノガラクタン、ペクチン):揮発性物質の保持と醸造粘度に寄与
フミン酸(又はメラノイジン):メイラード反応の最終生成物。焙煎コーヒーに特徴的な色を与える褐色の物質
カルボン酸(クエン酸、リンゴ酸、酢酸など):酸味に寄与
クロロゲン酸類(桂皮酸、カフェ酸、フェルラ酸、イソフェルラ酸、シナピン酸などとその主な分解物であるキナ酸):渋みの原因
脂質(トリグリセリド、テルペン、トコフェロール、ステロールなど):醸造粘度に寄与
ミネラル類(カリウム、マンガン、鉄、銅などの金属):焙煎中や保存中に発生する反応を触媒
[コーヒーの香りを研究する手法]

香りの弁別
AEDA (aroma extraction dilution analysis)CharmAnalysis などのガスクロマトグラフィー技術や 感覚検査 (sensory assessments) により、香りに影響を与える化合物を特定する手法などがある

香りの指標
メチルフランと2-ブタノンの濃度比で表す M/B arom index、5つの重要な揮発性成分(ヘキサナール、ビニルピラジン、ピロール、フルフリルメチルケトン、ピリジン)に基づく Flavour Quality Index (FQI)、メタノールと2-メチルフランの濃度比で表す M/M aroma index、2-メチルプロパナール、3-メチルブタナール、ジアセチル、2-メチルフランの濃度の合計で表す
S aroma index、メタンチオールなどの香りの影響を与える揮発成分の損失を新鮮さの指標とするもの、などがある。
[コーヒーの生成過程における主な化学反応]

メイラード反応(非酵素的褐変):窒素を含む物質(タンパク質、ペプチド、アミノ酸、セロトナイン、トリゴネリン)と、還元性の糖質、ヒドロキシ酸、フェノール類が反応し、縮合してアミノアルドースやアミノケトンが生成
ストレッカー分解 :アミノ酸とαジカルボニルの反応でアミノケトンが生成し、縮合して窒素ヘテロ環化合物を形成したり、ホルムアルデヒドと反応してオキサゾールを形成
硫黄系アミノ酸(シスチン,システイン,メチオニン)の分解:還元糖やメイラード反応の中間生成物と反応してメルカプタンやチオフェン,チアゾールに変化
セリン(ヒドロキシ-アミノ酸)とスレオニンの分解:スクロースと反応して主にアルキルピラジンを生成
プロリンとヒドロキシプロリンの分解:メイラード反応の中間生成物と反応し、前者はピリジン、ピロール、ピロリジンを生成し、後者はアルキル、アシル、フルフリルピロールを生成
トリゴネリンの分解:アルキルピリジンやピロールを生成します。
キニン酸部分の分解:フェノール類が生成
その他、色素(主にカロテノイド)の分解、軽度の脂質分解(主にジテルペン)、中間分解生成物の相互作用(ほとんどが詳細不明)。

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