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内田康夫『華の下にて』~降り積もった花弁の下にあるもの

ミステリーを意識的に読もう、と思い立って二冊目は再び内田康夫。
華道がテーマと聞いて、なんとなく心惹かれて手に取ったこの『華の下にて』は、氏にとっては百冊目になる作品だそうな。

京都を舞台に、華道の家元の家系にからむある「秘密」をめぐっておきる殺人事件がテーマ。
伝統と革新、男と女、老人と若者。様々な対立がここにからむ。

読み通して見た時の印象は、たとえるなら幾重にも分厚く降り積もった花弁の山を少しずつ崩しながら真相に迫っていくかのよう、と言おうか。
書き分けても書き分けても、花びらそのものは消えないし、また時間が経てば何事もなかったかのように見えてしまう。「地面」が一瞬見えたと思っても、何かの拍子に隠れ、あるいは隠されてしまう。そして、最初から何事も起こらなかったかのような静寂がある。そこに何かがある、という事自体気づける人はほとんどいない。
そんな雰囲気を象徴する人間が、ヒロイン・奈緒の祖母で家元夫人である丹野真美子と言おうか。
彼女はたとえるなら、桜の古木だ。
どっしりと根を張り、全てを見守り、その場に静かに立ち続ける。その下に何が埋まっているのかは、誰も知らない。

それにしても、このようなミステリーを書くのに、どれほどの資料読みと現地での取材が必要になるのだろう。
特に、作中のキーパーソンの一人・牧野による前衛的な生け花作品の描写は、文字だけだというのに、作品の持つエネルギーが大きな波となってこちらに襲い掛かってくるかのようにも思えた。
どちらかというと私はアートでも、古典的な作品を好む傾向が強いが、ここに出てきた牧野の作品には、心惹かれるものを感じた。
モデルになった方もいると言うし、その人についても今度調べてみたい。


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