徒然日記~朝井まかて『残り者』読書中

昨日22時代に、布団に潜り込んでそのまま朝を迎えてしまった。

 そして、カーテンをめくれば、外は雪。満開の桜の上に雪。

 めったにない取り合わせだというのに、あまり心は浮き立たない。

 「外出禁止令」に従い、気を取り直して本を、と思い、手に取ったのは朝井まかてさんの『残り者』。

https://www.amazon.co.jp/%E6%AE%8B%E3%82%8A%E8%80%85-%E6%9C%9D%E4%BA%95-%E3%81%BE%E3%81%8B%E3%81%A6/dp/4575239607 

 幕末。江戸城開城前夜。

 江戸城開城、という一つの時代の変わり目を象徴する出来事を、大奥で働いていた5人の女性たちの視点から描いている。

 大奥で働く、と言ってもその立場も、そもそもの生い立ちも様々だ。

 たとえば、最初に登場する「りつ」は、貧乏な旗本の長女。薩摩藩に仕えていた伯母のコネで、大奥に御台所(天璋院)につく奥女中として上がり、物語開始時点では、天璋院のまとう衣服の裁縫を担当する「呉服の間」に配属されている。出世コースからは外れているが、彼女自身は、同僚同士での足の引っ張り合いから解放され、特技を活かした仕事ができるということで、あまり気にしていない。

 彼女は、一橋邸に退去する天璋院を見送った後、同じく第二陣としてそちらに移る予定だったが、部屋の様子が気になって戻ってしまう。

 そこで別の部署に仕える女性お蛸と出会い、逃げてしまった天璋院の愛猫を探すことになる。

 そして、探す過程の中で、同じく理由あって城に残っていた女性と出会っていく…。

 この小説では、大奥のシステム―――名前の付け方や、給料、部署のことなどが詳しく、わかりやすく書き込まれているのに目を瞠る。

 例えば、武家階級から勤めに上がれば、奥女中に。ただし、最初は御三の間と呼ばれる部署で、女主人たる御台所や年寄、中臈など上層部のため、部屋の掃除や片付けなど雑用からスタート。結婚はせずに、生涯務めることがほとんどで、年寄などに行きつけるのはほんの一握り。

 一方、町人から大奥仕えに上がれば、最初は奥女中の身の回りを世話する下女から、つまり一ランク下。そして、嫁入り前の箔付けとしてなので、生涯そこに留まるわけではない。

 女性たちの眼を通して描かれる、天璋院やその夫家定、そして和宮など、将軍家の人々の横顔も興味深い。

 今はちょうど和宮に仕えていた女性もみぢが出て来たところ。

 御所風のしきたりを持ち込んできた和宮やその周囲と、大奥の人々との間の確執があったことは知っていたが、その内容が大げさすぎず、「確かになあ」と頷けるように書かれている。

 特に、ひな人形の飾り方について。

 ひな人形と言えば、段々に豪奢に飾り付けるイメージで、天璋院もそのタイプだったが、和宮のひな人形は……。それにもちゃんとした理由があるのだが、その内容は実際に読んでみてほしい。



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