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盲導犬エルが家族になった日

我が家に盲導犬がやってきました。夫のパートナー、エルという黒ラブの男の子です。夫から初めて名前を聞いたのが8月の終わり。盲導犬センターでの3週間の訓練を追え、9月の半ばから盲導犬見習いとしてうちで暮らし始めました。一週間一緒に暮らしたところで夫と娘がコロナに感染し、10日ほど盲導犬協会に預かってもらいました。療養機関が終わり、訓練も無事終了し、10月6日エルは晴れて盲導犬となりました。一緒に暮らし始めてからの3週間、私の気持ちの変化を中心に書いていきます。前回の記事はこちら。


盲導犬の訓練について

盲導犬とユーザーがペアになるためには、1カ月の共同訓練を受けなければいけません。お世話や歩行の方法を憶えるためです。三週間を盲導犬協会で過ごし、最後の一週間は自宅に戻って家族とのかかわりや、自宅周辺や職場までの訓練をすることになります。三週間のセンターでの訓練を追えて、エルを連れて夫が家に戻ってきました。
9月16日からいよいよ三人と一頭での生活が始まりました。

一週目、怖さと抜け毛と臭いで涙涙

エルが初めてうちにやってきた日、なんとか触ろうとがんばりました。顔が動かないように夫に抑えてもらい、娘に手を持ってもらいながら背中をさっと撫でました。

「エル、ママやで。よろしくね」

と声をかけたものの、怖くてこれ以上のことはできませんでした。家に動物がいるという経験も初めてで、その日はエルがケージの中で動く音が気になって寝られなかったほどでした。そして、盲導犬ユーザーの先輩たちから

「抜け毛は覚悟した方がいいよ」

と言われていたのですが、ここまですごいのかと愕然としました。エルが伏せていたところをさっと触るだけで、手で集められるほどの毛が落ちていました。抜け毛対策として、盲導犬ユーザーの友達が教えてくれた機種のルンバを思い切って購入しました。スマホから操作ができて快適です。ただ、これもいたちごっこで、娘に見てもらったところルンバを走らせた後はエルの毛は一本も落ちていないのですが、そのあとハウスから出すと毛が落ちるの繰り返しです。これだけならまだいいのですが、エルを入れていない洗面所に洗濯物を干しています。洗濯物にも少し毛が付いていることを知ってびっくりしました。床だけじゃないのかと。これについてはネットで調べて、洗濯機に入れると毛を吸着するスポンジを買いました。考えてみればエルが立ち入っていないエリアでも、人の洋服に毛が付いていれば落ちることもある。一周目はずっと抜け毛の事を考えていました。

「こまめに掃除機をかけるといいよ」

と教えてもらったり

「私も最初はすごく気になったよ。すごい抜けるよね」

と共感してもらいながら、ルンバを走らせていました。その後リビングにカーペットを敷き詰めたら、毛の飛び散りが少しましになったような気がしています。

もう一つ、動物臭が気になっていました。夫は毎日エルの歯ブラシとブラッシングをして清潔にしています。それでも、リビングに入った瞬間に臭う犬臭。どうにもしんどいなと思っていました。夫も娘もあまり気にならないと言っていて、私の気持ちの問題だったのかと思います。ネットで調べてペットの臭いに特化したアイリスオーヤマの空気清浄機を買いました。これが大正解。嗅覚には自信がある私が明らかににおわなくなったと思えます。お手入れも簡単だし、ボタンもシンプルなので見えなくても使いやすい商品で、買って大正解でした。臭いや抜け毛が気になるからか、なかなか積極的にエルを触ることもできませんでした。

二週目、覚悟を決めるまでの時間

夫と娘がコロナに感染し、一週間一緒に暮らしたエルは盲導犬センターに預かってもらいました。エルを引き取ってもらって、ほっとしたのが正直な気持ちです。怖さ、あちこちの抜け毛、臭いにそうとうまいっていました。今ならまだ離れられるなと思ったほどです。夫にエルをこのまま返してほしいとも思いました。それでも、1カ月毎日ハードな訓練をしながらエルのことを大切にしてきた夫の気持ちを考えました。盲導犬になるための難しい試験に合格して我が家に来てくれたエルのことを考えました。エルと離れている一週間で、本当に8年間盲導犬ユーザーの家族として暮らしていけるのかを問われた気がしています。じっくり考えて、改めて「受け入れよう」と思えました。私が本当に覚悟を決めるまでに必要な時間でした。

三週目、再開後の生活

エルが元気に我が家に戻ってきました。尻尾を振って家の中に入ってきたエルに

「おかえり」

と声をかけ触ってみると、一周目にあれだけ怖いと思っていたのがほとんど消えていました。一度「大丈夫かも」と思えたら、怖さはどんどん薄れていきました。伏せた状態で背中や頭、耳を触っていると穏やかな気持ちになっていきました。とにかく手触りがよくて、頭は高級絨毯のようで、耳もフワフワの触り心地。背中も毛の流れがよくて、触っているだけで癒されることを知りました。触れるようになってわかることがいろいろありました。顔をペタンと伏せた状態で寝ていたり、顔を持ち上げてキョロキョロ周囲を見ていたり。夫が動くとそちらに顔を向けて気にしていたり、娘が近づくとすごい勢いで尻尾を振ったりしています。立ち上がったときの「ブルブル」もタイミングよく触ることができました。かなりの勢いなので耳や尻尾が当たると痛いぐらいです。こんなことも、触れるようになったからこそ知ることができました。

家族の一員になったエル

夫と娘と三人で話をするとき、エルを囲むことが多くなりました。寝ているエルの背中や耳、尻尾をそれぞれ触りながら話しています。ときどき

「エルどう思う?」

とか

「明日お外行こうか」

と話しかけて、すっかりエルも仲間入りです。

エルが盲導犬になった日

10月6日、認定を受けエルが正式に盲導犬となりました。せっかくだしと、仕事の帰りにケーキを買って帰って三人で食べました。これまでエルと関わってくださった訓練士さんを初めとするたくさんの職員の方、パピーウォーカーさんやたくさんのボランティアの方々に感謝だね、と話しました。まだまだ三人と一頭の生活は始まったばかり。せっかく盲導犬としてうちに来てくれたのだから、いろんなところに出かけたいねと話しています。大変なことも、思いもよらないこともきっとあると思います。困ったときには周りの方の力を借りて、新しい生活を楽しもうと思います。盲導犬ユーザーの家族として、私と娘にも新しい世界が広がっていること、ワクワクしています。

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