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【旅エッセイ72】鶴の舞橋と悲恋伝説

何年か前、津軽富士見湖を訪れた。
津軽富士見湖にかかる鶴の舞橋が、JR東日本のCMで放送されていた頃。

CMは鶴の舞橋を吉永小百合さんが訪れるといった内容で、快晴の空に映える岩木山と青い湖面が印象的だった。

CMを観るまで「鶴の舞橋」の名前も知らなかったのに、地図を調べてみると父の実家から車で一時間掛からない。お盆に帰省した時にさっそく行ってみた。

湖に木造の橋が架かり、見慣れた岩木山を見慣れない場所から眺められる。犬を連れて散歩をする人や釣りをする人の姿もある。ちょうどCMをやっていた年のお盆だからか、観光客も多かった。

そんな津軽富士見湖には、とある伝説がある。

600年前、津軽を統治していた城主はある美しい姫と恋に落ちた。城主と姫は一年に渡り親睦を深め、二人の仲睦まじいことは住民たちの間にまで知れ渡る程だった。

が、恋した姫をよそに城主は他の女性と婚約。姫に事情を説明するでもなく婚姻の準備を進める。

そうとは知らない姫は、彼の為にと正月の晴れ着をせっせと縫い、彼の為にと雪の降る中を晴れ着を届けに行った。

よりによってその日は、城主の婚姻の当日。

往来の人の多さに驚いて、姫は通りすがる人に何があるのかと尋ねてしまう。愛した男が別の女と結婚することを聞かされた姫は嘆き絶望し、ついにはその身を津軽富士見湖へと投げてしまう。

ところが、身投げをした彼女の遺体が見つからない。

そしてある頃から、湖では湖面を渡る白龍が目撃されるようになる。

「姫の怨念が白龍に化けた」と人々は恐怖した。城主に警告をするも、新婚ほやほやで幸せいっぱいの城主は愚かにも耳を貸そうとしない。

やがて姫の怨念が化けた白龍は城主を呪い、呪われた城主は正気を失って臣下を斬り、妻を斬り、自らも湖へと身を投げてしまうのだった。

これを「悲恋伝説」として語り継いでいるけれど内容は完全にホラー。愛し合う二人が引き離されたとかならまだしも、ただただ城主が酷い男で痴情のもつれの果てに起きた殺人事件。

しかもよりによってこの津軽富士見湖、鶴の舞橋のすぐ側につくられた丹頂鶴自然公園を「恋愛や縁結びのパワースポット」として売り出している。つがいの丹頂鶴がいるからという理由で。

すぐそこの湖でホラー丸出しの「悲恋伝説」を売っているのに、同じ場所で「縁結び」を謳う。いったいどちらのご加護を信じれば良いのやら。丹頂鶴の夫婦のパワーは白龍の恨みを上回るのだろうか。

そんな伝説もあるけれど、鶴の舞橋はキレイです。



また新しい山に登ります。