7冊目『dele』/本多孝好

 スマホやパソコンを所持するのが当たり前となった現代。便利な端末の中には様々なデータが詰まっている。思い出の写真や動画、大切な人と送り合ったメール、心に残った言葉をメモしたアプリ。論文や仕事で纏めた資料や文章。エトセトラ。
 誰の目に晒されても問題ないデータばかりならば良い。けれど、中には家族や恋人には見られたくない秘密のデータも存在する。
 私もある。今まで書いた小説や、現在進行形で綴っているnoteのデータを、家族に見られたくない。疚しい話を書いているわけではないが、何となく恥ずかしいので、死んだらそっと削除して無かった事にしたいと思っている。
 しかし、“死んだらそっと削除”するなんて出来ない。余命宣告されて身辺整理する時間があれば良い。でも、ある日突然死んでしまったら。データを削除することなんて不可能だ。自分に代わって誰かに消して貰わなければ。死後、墓まで持って逝きたいデジタルデータを家族に見られてアレコレ言われるなんて……想像するだけで耐えられないし死んでも死にきれないし安心して成仏出来ない!

 そんな不安を解消してくれるのが、本書に登場する会社『dele.LIFE』である。
 社名は兎も角、業務内容は現実にありそうな請負業者である。

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 二〇一八年五月二十五日に初版が発行された文庫本版『dele』(単行本は二〇一七年六月二十九日発行)。本書を知る切っ掛けは、山田孝之と菅田将暉のW主演で制作された同名ドラマだった。

 訳あって、テレビではなくAdemaTVで夜中にこっそり観ていた。第一話終了時点ですっかり『dele』の魅力にハマった私は「原作も読まねば!」の衝動に駆られるまま、本屋に足を運んだ。ドラマでも映画でもアニメでも「面白い!」と感じた作品は、原作が存在するなら、そちらも読まないと気が済まない質なのである。
 ドラマの内容が、小説では如何描かれているのだろう。胸を高鳴らせながらページを捲った私の期待は、一話目の序盤で裏切られることとなる。

 何と、『dele』はドラマの原作であって原作では無かったのだ。

 何言ってんだおめぇ(CV.野◯雅子)とチベットスナギツネ目をされるかもしれないが、ほんとの本当に原作であって原作じゃ無かった。主要キャラ(坂上圭司、真柴祐太郎、坂上舞)の設定がドラマと全く同じな、“オリジナル小説”だったのだ!
 私は愕然とした。ドラマでは表現されなかった部分が、小説版で読めると思っていたのに……。酷い。あんまりだ。まさか、こんな裏切り行為に合うなんて。
 しかし、金は既に本屋へ支払済。表紙を開いて数ページ読んでしまった私に、読み進めないという選択肢は無かった。
 一篇、二篇と読み進め、最後まで行き着いた時には涙腺が疲れ果てていた。ドラマ原作本ではない筈なのに、ドラマ原作本として完成されていた。自分自身、書きながら「何言ってんだこいつ」と眉を潜めているが、この一言に尽きるのだ。本書は、完璧な、ドラマ『dele』の原作本である。
 あと、山田さんと菅田さんを想定して当て書きされているだけあって、二人のお声と姿で脳内再生余裕でした。文字を追いながら映像を観ている気分になった。

 勿論、ドラマ未視聴の人でも十二分に楽しめる作品である。
 依頼人の死を皮切りに、消される運命にあるデータから少しずつ明らかになる依頼人が歩んできた人生。何を考えて死後のデータ削除を『dele.LIFE』に依頼したのか。ページを繰れば繰るほど、読者の心は震わされるだろう。
 指先一つ、タップ一つでデータはデリート出来てしまう。けれど、遺された人の記憶は、そう簡単にはいかない。簡単には消せないからこそ素晴らしい。デジタルには無い『熱』を持っているからこそ人間である当たり前の事実を、本書は再確認させてくれた。
 特に、四篇目『ドールズ・ドリーム』は、他の物語とは違って唯一、未来を見つめた話でとても好きだ。詳しく語るとネタバレになるので「実際に読んで頂きたい」としか言いたく無い。依頼人の誤解から生まれた結末に、家族の感動モノに弱い人は泣かずには居られないと思うのでハンカチ、ティッシュを用意して欲しい。

(了)


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