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12冊目『小説 言の葉の庭』/新海誠

 梅雨の季節。雨が降ると読みたくなる本がある。
 そのうちの一冊が『小説 言の葉の庭』です。

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 本書を手に取ったキッカケは「ミーハー心が疼いた」としか表現のしようがない。
 購入した当時は、後に大ヒット作品としての記録を樹立した映画『君の名は。』の公開前で、その公開記念に『新海誠特集』なるものが何処かのチャンネルで放送されていたのだ。で、偶々その番組を観た。
 新海誠作品の噂は聞いていたし、描写が綺麗だの色使いが素晴らしいだのといった評価も知っていた。が、実際に観たのは初めてであった。うむ、確かに映像、めっちゃキレイ。
 翌日。早速TSUTAYAに行って特集でも紹介された『秒速5センチメートル』と『言の葉の庭』を借りた。そして観た。

 内容が全然分からなかった。

 いや、分かりますよ。うん、ラブなストーリーだなあってことは十二分に理解できる。だが如何せん、作中に挿入される歌声入り楽曲のインパクトが大きすぎて「ただのMVやんけ」以外の感想が抱けない。映像ははちゃめちゃに綺麗だけど、ストーリーが頭に入ってこない。
 こりゃいかん。
 原作小説読も。

 ──という経緯から本屋に駆け込み、本書と『小説 秒速5センチメートル』ついでに『小説 君の名は。』を購入したのであった。既に一度読了しているが、読書ノートに記載がないので改めて読んでみた次第である。
 厳密には原作ではないのかもしれないけれど、便宜上そう称した方が個人的に分かりやすいので「原作小説」とさせていただきます。異議申し立ては当方の都合により尽く却下です。

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 さて。ざっくり『小説 言の葉の庭』を解説すると、

 靴職人になりたい男子高校生・孝雄と、味覚障害を抱える謎の年上女性・雪野が織りなす、年の差恋愛物語(in 雨の新宿御苑)

 である。
 我ながら実に的確な表現だ。的確、且つシンプルすぎて何も伝わってこない、とも言えなくもない。

 あまり詳しく語るとネタバレになってしまうが、とりあえず二人は五月末に出会い、関東が梅雨入りし、そして明けるまでの間に新宿御苑の東屋で密会を重ねるのである。しかも雨天限定。
 というのも、孝雄が「雨の日の午前中、それも有料公園なら、学校をサボってる事を咎めてくる人間なんて居ねえだろ」と悪知恵を働かせているが故に、雨天のみにしか密会が行われないのです。恐らく梅雨の晴れ間には、クソ真面目な顔をして登校しているのでしょう。とんでもない不良高校生である。

 不良なのは孝雄だけではない。
 雪野も、とんでもない不良だ。
 何故なら、彼女は朝っぱらからビールとチョコレートを買い込み、東屋で一人酒をしているのです! ワカコ酒ならぬユキノ酒!! なんて女だ!! みんなが通勤通学している時間帯にビールなんて!! 誠に怪しからん。背徳感というスパイス増し増しで絶対おいし……否、そもそも新宿御苑は飲酒どころかお酒の持ち込み禁止なので、発見されればイエローカード確実である。常習犯だとバレればレッドカードで退場、からの出禁になるのでは……? 知らんけど。

 とにもかくにも、そんな雪野(不良成人女性)と出会った孝雄(不良DK)。
 初見で彼女を「変な女の人」認定するのだが、わざわざお金を払ってサボるチミも十分「変な男の子」だよと読者(私)は言いたい。

 密会を重ねるうちに孝雄は、朝から新宿御苑で不法飲酒する雪野に惹かれていく。手作り弁当を持参して食べさせたりもする。現役DKによる料理系お弁当男子アッピールに触発されて、雪野も孝雄のためにお弁当を拵えたりする。
 そしてベタに失敗する。卵焼きに殻が入ってたりして、孝雄が呆れたりする。雪野は恥ずかしそうにしつつ拗ねた様子をみせる。

 ……童貞の妄想デートかな?(実に失礼)

 更に何やかんやあって、孝雄は自身の夢「靴職人になりたい」を告白。人気のない東屋で、愛おしい女性の靴を作る為に、雪野の素足にタッチしたり……と順調に恋と愛を育んでゆく。どう見ても問題を抱えた訳あり女だけど大丈夫かチミ? なんて老婆心は、夢と恋の二兎を追い掛ける思春期真っ只中の少年には届かない。
 ──しかし、梅雨が明けたある日。意外なタイミングで孝雄は、雪野の正体を知ることになるのです。


 映画でも「背景の描写すごいな」と思ったけれど、その描写の素晴らしく美しい様が、小説内でも表現されている。
 映像の方を先に観ているので、その時の記憶が残っている所為かもしれない。それは否めない。が、雨に濡れたビル群だとか、新宿御苑の植物や東屋の風景は、文章を目で追えば追うほど鮮明に「新海誠ワールド」で脳内上映された。雨粒の一滴まで美しかった。

 同時に、映画では「???」となった部分や、全く不明だった人間関係、人物像などが本書では記されている。
 本書を読んで、漸く映画『言の葉の庭』の内容が分かった。もしも「映画観たけどよく分からんかった」という人は、是非とも読んでいただきたい。この一冊で完璧に補完できる訳ではないけれど、MV要素が省かれている分、ずっとよく中身に集中できる。
 何より、孝雄と雪野を取り巻く人達のエピソードを知ることで「もう一回、映画観直したい!」と思えます。
 私は思いました。何で閉店したんだ駅前のTSUTAYA……!!


 最後に、めちゃくちゃ面白いなと感じた点を一つ。

 映画で出てきたか正直言って記憶にないが、本書には雪野の元カレが登場する。
 この孝雄と元カレ、各々が抱く「雪野へのファーストインプレッション」の対比が凄い。
 二人とも雪野の美しさに「人間らしくない」「作り物みたい」と語りの中で感想を述べている。ここは良い。問題はその後。美しさから連想したものが孝雄は「雪女」、元カレは「ダッチワイフ」なのである。
 これには思わず爆笑。新海誠氏的には全然笑うポイントじゃないんだろうけど。片や『自然の一部に属している様な美しさ』を感じ、片や『意志を剥奪され、男の歪んだ理想だけを形にした美しい器』を見るんだから「これだから男って奴ァ」と笑うしかない。
 第一印象がダッチワイフって失礼過ぎるだろ。そんでもってヤることヤるんだから、やっぱり笑える。

 東屋でのお弁当イベント。結果的に『禁断の愛』と言える展開。雪女とダッチワイフ。
 読みながら著者の変態性が透けて見えるようだった。
 ベタっちゃあベタなんだけどさあ……なんか、こう、ど、どうてい臭いっていう、の、かな? 著者による他の原作小説でも思ったんだけど。非童貞である筈なのに、なーんか童貞臭いんだよなあ……(家から最も近いTSUTAYAを検索しながら)。

(了)


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