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11冊目『dele3』/本多孝好

『dele』『dele2』の続編。


 本書が発売される情報を入手したのは、ブクログの新刊情報だった。普段は見ないページを何となくスクロールしていたら、白抜きの『dele3』が目に飛び込んで来たのである。
 驚きのあまり「えっ!?」と小さく叫んでしまった。まさかの。まさかの三作目。うっそ本当に? 2で終わりだったのに続編があるのまじで??
 と、そわそわドキドキしながらカレンダーに花丸印をつけて発売日を楽しみにしていた。実際に手に入れたのは発売日から一週間経った日。何やかんやあって七日も遅れてしまった。
 が、お陰で『カドフェス2019』の限定ミニクリアファイル(『罪と罰』/ドストエフスキー)のゲットに成功したので結果オーライである。角川文庫筆頭に毎年開催される“文庫本の夏フェス”的なイベントに、私は非常に弱い。いっつも「今年こそは限定グッズの誘惑に負けて参加しないぞ絶対にだ」と決意を固めるのに、キャンペーンポスターや帯を見ると秒で決意が溶けて蒸発する。
 本書の時は元々「新刊買うぞ!」と決まっていたので偶然ゲット出来た様なものだが、もし購入目的もなくクリアファイルのデザインを知っていたら、無理やり面白そうな本を買ってファイルを入手していただろう。容易に想像できる。

 閑話休題。

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『dele2』にて「また連絡する」の言葉と共に別々の道を歩み始めた真柴祐太郎と坂上圭司。事実上『dele.LIFE』を辞めた祐太郎はリサイクルショップに勤め、遺品整理業務の最中に目についた写真や手紙、古い日記帳などの“思い出の品”を持ち帰っては保管する日々を過ごしていた。
 そんなある日、圭司の姉・舞と再会。圭司が行方不明であることを知らされる。

 手掛かりは、“モグラ”とは別のノートパソコンのみ。

 常ならパソコンのロックなど、圭司えもんの秘密道具でちゃちゃっと解いて中身を見るのだが、その圭司えもんが行方知れずなので頼ることは不可能。暗証番号を一定回数間違えれば、中のデータは消えてしまうに違いない。
 データが削除される。それ即ち、圭司の失踪に関する情報が永遠に喪われることになる……。

 既に二回も解除に失敗した。残されたチャンスは多分あと一回。

 そんな追い詰められた状況で祐太郎が頼ったのは、『dele2』の『ファントム・ガールズ』にて登場した堂本ナナミだった。

 私は驚いた。そしてテンションも上がった。まさか、ここで過去キャラが登場するとは!
 でもまあ確かに、デジタルに強くて祐太郎が頼れそうな人物と言えばナナミンしか居ないので納得でもある。現役中学生(属性:氷)だけれども。
 そんなこんなで本書は、成人男性&女子中学生の新コンビで物語が進んでいく。
 サイバー関係やデジタルに疎くてある意味素朴な祐太郎と、サイバー系に長けてるけど冷めてて辛辣で全く中学生らしくないナナミ。二人の温度差が良い。
 兄妹感ある。

 更に本書では、これまでずっと謎の存在だった夏目の正体も少し掘り下げている。
 詳細はネタバレになるので伏せさせて頂く。が、圭司の失踪理由も含めて、我が国のサイバーセキュリティに対する脆弱さや政府の闇を程良く突いてるなあと思った。優秀過ぎるエンジニアの囲い込み、法外な額の税金を国民に内緒で投入、正しい愛国者を作るための世論形成──。
 本書通りの事案は発生していないだろうけれど、似た様なことは案外あるかもしれないと考えさせられる。自分達が知らないだけで。

 圭司が事務所に帰還したことで、祐太郎もリサイクルショップを辞めて『dele.LIFE』に戻ってくる。そして絶賛不登校中のナナミも事務所に居座り、削除業務を手伝うことになる。
 手伝いといっても、祐太郎に付いて死亡確認をしたり、削除依頼の理由を探る簡単なお手伝いである。
 祐太郎と行動を共にしたナナミは、対峙した人間に目を凝らし、耳を澄まし、通じ合う大切さを学んでいく。そして自分の居るべき場所へと帰っていく。

 前々作、前作と『死』や依頼人の人生、依頼に込めた『想い』にスポットが当てられていた。勿論そのスタンスというか、骨組みは変わらない。
 けれど、本書でのスポットの中心は『人間同士の繋がり』『精神的成長』である気がする。

 近年、我々の相棒(若しくは親友)は、血の通った人間ではなくスマホに成りがちだ。
 友人とはSNSで気軽に繋がれるし、気軽に関係を断てる。好きなものだけを聴き、好きなものだけを見る。居心地の良いコロニーで呼吸をし、好きなものだけを集めた自分の小さな楽園に閉じ籠る。私もその一人である。
 でも、物事の裏側や、相手の本質を知る行為は怠けがちでもある。何故かは分からない。面倒臭いからかもしれない。興味が無いからかもしれない。
 それに、インターネットが必要不可欠な割に、サイバー空間での危機意識が足りない問題もある。自衛してもウイルスソフトをダウンロードするぐらいで、写真の映り込みなんて全然気にして無い。めっちゃ油断してる。

 ほぼシリーズと化した『dele』。前作までは当て書き効果とドラマの影響から、山田孝之&菅田将暉のコンビ萌えに浸りつつ啜り泣く作品でしかなかった。
 けれど、本書から毛色が明確に変わったと感じる。

 本書は、山田と菅田──圭司と祐太郎に萌えるだけの作品では無い。死んだ後にデータを消してくれたら嬉しいって話でも無い。お涙頂戴の話を愉しむ作品とも、ちょっと違う。
 本書は……否、本シリーズは、デジタル遺品とサイバーセキュリティを通して、現代人が忘れがちな事。超アナログだけど忘れちゃいけない滅茶苦茶大切な事を、輝かしく描いている。分かりやすく導入してくれている。
 本書を読了した瞬間に私が感じたのは、それらの事だった。
 果たして本シリーズは単なるエンターテインメントなのか。真の狙いや作品の本質は著者のみぞ知る。

(了)


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