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印象に「残らない」宿をめざす――富山県井波Bed and Craft

地域創生・不動産オーナー・逆転の発想への関心がある方へのオススメ記事。先日Bed and Craftの創始者である山川智嗣さん(コラレアルチザンジャパン)のお話を聞いたのでまとめてみました。

※なお、画像は一休.comさんから無断で頂戴している。

Bed and Craft概要:日本一の彫刻家のまちの魅力を発信するしくみ

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富山県南砺市に、木彫刻家が200人以上も暮らす井波というまちがある。豪農の旧家をリノベーションした古民家ゲストハウスでは、Bed(宿泊)だけではなく、地元職人の工房でクラフト(Craft)づくりを体験できる旅の仕組み。(参考:〈BED AND CRAFT taë〉富山県井波で外国人を引き寄せる古民家ゲストハウス

宿泊施設自体はあえて簡素にしてあり、まちのカフェ・売店・銭湯の利用を促す。まちを一つの宿と見立て宿泊施設と地域の日常をネットワークさせ、まちぐるみで宿泊客をもてなす「まちやど」の考え方であり、このような仕組みは各地に広がりつつある。(参考:日本まちやど協会

なお、京大のプロジェクト研究員である稲垣憲治氏によると、観光地とホテルの往復のみに終始する従来型ホテルと比べ、Bed and Craftでは「地元雇用」「地元行政」「地元企業」において、7.5倍の地域付加価値を生み出すそうだ。端的に言って、地域住民によりメリットがあるシステムであるということだ。



グローバルな視点に立って、日本での市場価値にとらわれないこと。地場産業を安売りしない。

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ここで問題。

井波では、彫刻家のレクチャーつきの木のスプーン作り体験に6000円かかる。これは安いだろうか、高いだろうか。

この問いに対して、一定数の日本人は「高い」と答える。ニトリの木製スプーンは100円だぞ?誰がスプーンひとつに6000円も払うのか、と。

対して、井波にやってくる外国人はこれを「安い」と捉える。一流の彫刻家との濃密な時間を独占して6000円は格安である、と。人的資源への価値を見いだしているのだ。

世界規模での経済の動きが当たり前となっている今日、日本だけの価値観にとらわれた売り出し方をするのはあまりにも視野が狭い。より俯瞰して考えるべきである。

また、この問いはある別の問題もはらんでいる。日本人は安いものばかり評価する傾向があるから、日本の良いモノたちは高かろうが価値相応の支払いをする外国人に買われていってしまう。売り手側が地球規模の意識をした方が良いのは当然のことであるが、この国を本気で守りたいと思うなら、買い手側も世界の消費者を意識したほうがよい。やや話がそれてしまった。



まちやど造りにも落とし穴。でも、むしろ強みになった。

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まちやど造りにも当然、デメリットの浮上することがある。そのひとつが「朝食を食べる場所がない」ということだった。まちの飲食店の利用を促すために宿泊施設を簡素にした結果生まれた弊害である。朝に営業している店がほとんどなかったため、宿泊客はわざわざ遠くのコンビニまでパンやおにぎりを買いに行かねばならなかった。

この事態はまずい。問題を解決するために編み出した解決策が、朝ごはんも食べられる燻製料理屋のオープンだった。井波は彫刻家の町ゆえに、良質な木材の削りカスが大量にゴミとして発生する。ここに目をつけ、いらない木材を利用した飲食店を始めるという発想の転換をしたのだ。

富山に来る観光客は海の幸を食べたがるのだが、井波は海に接しておらず、かといってそれ以外の目玉となるグルメを提供することができていなかったから、燻製料理屋のオープンは井波に新たな可能性をもたらすことにもなった。



10年で消える職業「彫刻師」にあえて挑戦するのはなぜか

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2014年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が発表した論文”THE FUTURE OF EMPLOYMENT”では、「10年後、今ある職種の半分が消えてなくなる」ことが主張され、彫刻師もいなくなると推測されている。近年の3DプリンターやAIの進化を踏まえたうえでの試算である。

Bed and Craftはこの現状を受け止めたうえで、挑戦を続ける。ここにはart(技術)ではなくart(藝術)としての彫刻への転換、すなわち「彫刻師」ではなく「彫刻家」のまちとして井波が価値を持ち続けて行きたいという思いがある。そして、体験や人間が生み出す価値は、技術進化に置換できるモノではないということを証明しようとしているのだ。



「よそ者」による井波プロデュースが成功したプロセス

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部外者による地方のプロデュースには、地元民との関係を初めとする避けて通れない多くの問題が伴う。Bed and Craftはこのような問題をいかに乗り越えたのか。

これに関して、Bed and Craftを創始した山川さんのマインドが意外だった。なんと当初は、まちの人を巻き込まないことを重視していたそうなのだ。普通、いかにしてまちの人を巻き込むのかに頭を悩ませそうなものなのに、どういうことなのか。

それは、初めの段階で多くの人を巻き込んでもOKが出ないだけで何も進まない、ということを予期していたからである。だから、無理に住民を巻き込むようなことはしなかった。

その一方で、情報開示は積極的に行った。住民の敵意の背景には、よくわからない人間の活動への恐怖があるため、それを払拭することは井波での活動において非常に重要であった。

そして、メディア発信には細心の注意を払った。地方メディアに取り上げられすぎると妬みをかってしまう。対して、全国メディアで大々的に取り上げられれば住民の鼻を高くすることもできる。この辺の戦略はかなり難しかったようだ。

以上のような手法をとってBed and Craftが成長するうちに、住民が自ら協力を名乗り出るようになったそうだ。



最後に;Bed and Craftの基本理念

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Bed and Craftで大切にしている考え方が3点ある。

①職人のためになるか
②まちのためになるか
③長く続けることができるか

Bed and Craftはまちの魅力を発信することを第一にする。だから、宿そのものに評価が集中する必要はない。だから、「井波というまちは素晴らしかったね。けど、今日どこ泊まったっけ?」というワードを引き出すことがでたら、万歳。

大手ホテルとは全く異なる理念で展開される新しい旅行の形だ。


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