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【書評】『パタゴニア あるいは風とタンポポの物語り』椎名誠

僕が読んだ数少ない椎名誠の作品中で、個人的に一番好きな本です。今も昔も…。 等身大の椎名誠は夢想を追い求めたがゆえに、どうしようもなく、その代償を引き受けねばならなかった。

僕が読んだ数少ない←椎名誠の作品中で、個人的に
一番好きな本です。今も昔も…。

等身大の椎名誠は夢想を追い求めたがゆえに、
どうしようもなく、その代償を引き受けねばならなかった。
その記録がここにあります。
(以下、昔の手書きノートから掘り起こし)
※最後、椎名誠の奥様がどうなるのかネタバレを気にするたぐいの本ではないですが、書いてしまっているので、未読でぜひ読みたいと思っておられる方はスルーしてくださいましね;)

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くー! あとがきで泣くとは。
青い!せつない!重い!せつない!
そして、風…。

やっぱりこの人(椎名誠)は等身大ですごい人だ。
人間として、なんと赤裸々で、気持ちのいい人だー。
あなたの心の中を教えてくれてありがとう。
あなたの奥さん、もう大丈夫かい?
なんだかすごくよくわかって、困った。
(私の元妻もケースは違うが似たようなことがあって……)
※これを書いていた当時はまだ元妻ではなかった;

椎名のうちにかかってくる電話。
(仕事やセールス関係かな)
うちにいて、椎名の留守をあずかる奥さんのストレス。
椎名に電話のことを伝えるが、仕事の忙しさに流され、
余裕を失っている椎名は「んなもんほっとけ!」と
怒鳴って終わり。

それから奥さんは、椎名に留守電の話をしなくなった。
というより、あまり話をしなくなった。
椎名は旅ばかりで家にいないことが多い。

そんなある日、奥さんが
「頭の中でベルがなってるの……」
と言い出す。
これはなにか、とんでもないことが起きてるのではないか。
(ここで気が付くのは遅いのだけれど、
人間てそこまでいかないとダメなものなのかも)

しかし、椎名はノイローゼの妻を置いて、
旅(仕事)をしなくてはならない。
その旅が「パタゴニア」だ。

常に不安に襲われ、自分を呪う。
今この瞬間、妻が家で死のうとしているのではないか?
暗雲が胸の奥で立ちこめる。

すべてから解放された人生というものを夢想し、
追ってきた。その代償がこれか。
男なら誰でも抱くかもしれない夢想。
世の中のすべての煩わしいことから解き放たれて
自分の好きなことだけに夢中になれたら
どれだけいいかという願望。

しかし、それを決行しようとしてみると、
家族関係という歯車はきしまざるをえない。

パタゴニアへ出発の日の話。
その日、奥さんは椎名より先に勤め先に向かうために
自転車で家をでる。椎名はそれを見送る。
遠くの路地を曲がる瞬間、ひらりと振り返って
椎名の顔を見る奥さん。
その白くて頼りなげで弱々しい顔…。
車のトランクには、なぜかひしゃげた黄色い花が
入っていた。
これは、ひょっとすると妻の別れの挨拶?

なんかもうね、僕にはそのシーンがはっきりと
頭に浮かんで困ったのです。
胸が苦しーよー。

そしてパタゴニアから椎名が帰ってくる日。
椎名は道中、ひしゃげた黄色い花と
頼りなげな白い顔がちらついて、
奥さんがもう死んでいるかもしれない、
と不安でたまらない。

空港におりたつ椎名。

「――すると、ごったがえすロビーの
ずっとうしろのほうに、ひっそりと一人で立っている
妻の姿が見えたのだ…」

これがね、あとがきのところなんだけれども、
もうね、奥さんが生きてたとわかって
ホッとしたと思ったら、もう理屈抜きで
ボロボロ涙が出てきちゃって。

パタゴニアの旅が、不安なお話の背景と
すごくマッチしてて、雲や、荒れた海や、風が、
椎名の心とオーバーラップしてる感じでたまらんのだ。
というか、不安におびえる椎名の精神状態という
フィルター通しての風景だから、そう見えてたのかも
しれないけれど、とにかく奥さんの話と
この旅の風景が相乗効果をうんでいて最高なんです。
パタゴニア! ぜひ一読あれ!

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(ここから現代の僕です)
※といっても30代の若いころの僕ですね;

ああ、これも読み返したくなってきたぁσ(゚ω゚*)

このあとこの本をしばらく立てかけて
眺めてました。読み終わったやつは
ダンボールにいれることになってたんですけど、
表紙を見るたびに思い出して、いい気持ちになってました。

青臭くない、抑制のきいた大人の物語です。
興味のお持ちになった方はぜひ。


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