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いも山事件

同郷の大作家、松本清張の小説によく登場する料理に『いもぼう』がある。
京都の料理で海老芋と棒鱈を煮たものらしい。
実際に食べたことはないし、暫く京都に行く予定もない。となれば自分で作るしかないでしょ。ということで似た物を想像で作りながら、日本を覆う黒い霧について妄想した記録。


材料

里芋  5個
棒だら 1尾分
出汁醤油 200ml
水    200ml
酒    100ml

海老芋とは里芋みたいな物らしいが、関東の田舎では手に入らないので里芋使用。

多くの推理小説を遺した清張だが、歴史について考察した作品も多い。
戦後の占領期に起こった不可解な事件の数々を独自の視点と取材で読み解いた連作集が『日本の黒い霧』
その第一話が『下山事件』


時折、水を替えながら三日かけてカチカチの鱈を戻した。

昭和二十四年(1949)七月五日、初代国鉄総裁の下山定則が運転手付きの公用車で自宅を出た。真っ直ぐに国鉄に向かわず、三越や白木屋、銀行、神田駅と彼方此方を回るように運転手に指示。
最終的に三越の南口で車から降り、
「五分位で戻る」と告げて店内へ。
運転手が下山を見たのはこれが最後。
国鉄ではいつまでも下山が出社しないので秘書が自宅に電話。
これで失踪が判明。
午後五時のラジオで報道。運転手はこれを聞いて主の失踪を知った。
翌六日の深夜0時30分過ぎに足立区綾瀬の常磐線と東武伊勢崎線の立体ガード下付近で散乱した轢死体発見。
検死の結果、これが下山定則と判明。
0時19分に現場を通過した貨物列車による轢断とされたが、現場で検分した医師は自殺と断定。解剖医は死後轢断の可能性を指摘、つまり殺害後に運ばれて、自殺に見せかけるために列車に轢かせた?
国鉄総裁の変死という重大事件なので警視庁も捜査一課と二課がそれぞれ捜査。一課は自殺、二課は他殺の線で捜査。


皮を剥いた里芋を食べやすい大きさに切る。

終戦までは鉄道省が日本の鉄道を管理。戦後、GHQの指示により日本国有鉄道が発足。その初代総裁となったのが下山定則。当時47歳。
就任が6月なので一ヶ月後に事件に見舞われたことになる。
総裁となった下山に期待された仕事はリストラ。
米軍を主とした占領軍は日本を民主化から反共産主義の砦とする、いわゆる逆コースという政策に転換。
経済立て直しのため緊縮財政を政府に指示、公務員削減、そして国鉄も9万5千人の人員整理を要求される。
国鉄労組や共産党からの反発、GHQや政府からの要求の板挟みで下山は苦しい思いをしていた?
7月4日には第一次整理の3万700人の解雇を組合に通告している。
翌日に下山は失踪、翌々日に死亡。
自殺にせよ他殺にせよ、この解雇通告が関係している?
松本清張はこの事件をGHQが絡んだ他殺と断定。
根拠としては下山の遺体には局部を蹴り上げられたような跡があり、体に残る複数の傷は暴行の形跡であり、殺害後に線路上に遺棄、列車に轢かせたと推理。


棒だらと里芋、調味料を圧力鍋に入れて煮る。

奇妙な話ですが三越で姿を消した後、下山らしき人物が午後に五反野に現れ、旅館で休息。ここは轢断現場に近い。
これは自殺に見せかけるための替え玉だと清張は主張。
思い悩んだ末に列車に飛び込んだと見せるための偽装という訳。
旅館に現れた人物は宿帳への記入を断り、煙草の吸殻も遺していない。これは証拠を残さないため?
下山はヘビースモーカーで3時間程の滞在中に一本も煙草を吸わなかったとは考え難い。自身もヘビースモーカーだった清張はそう考えた。
当時の五反野は田園が広がる静かなエリア。事件が起こった翌日未明近くまで、こんな田舎には不釣り合いな背広を着用した紳士然とした人物を目撃した人が結構いる。
替え玉が徘徊している間に、本物の下山は三越付近で既に拉致され、何処かに監禁、暴行の末に死亡?
という見立てですが、この近くには東京拘置所があり、脱走を見張るためか駐在所が三つもあった。不審な人物がうろうろしていたら、職質されそうなものですが、その形跡はない。となると他殺のための替え玉も疑問符。
本物の下山が自殺を考えながら歩いていたとも想定出来る。

加圧後、暫く煮て煮詰めていく。

清張を始め、多くの人々が他殺説を主張。しかし単純に考えると、自殺ではないのか?
五反野に現れたのが替え玉だとすれば、旅館滞在だけで十分な筈。長時間うろうろしていると駐在さんに職質されるリスク。
旅館の男は吸殻を残していないのではなく、実は女中は覚えていないと証言。当時は喫煙者も多かったので灰皿は日常的に片付けるので一々、覚えていないということ。
当日、地下鉄車内で下山に似た男に足を踏まれたと証言した者がいることから、下山は三越付近から地下鉄で五反野へ移動。ふらふらと彷徨。その末に汽車に飛び込んだ?
この事件にGHQが絡んでいるという見立ても間違っていない。
捜査一課は自殺と断定して発表しようとしていると、GHQから待ったがかかった。本当にGHQが関係しているならば、自殺として片付けそうなものだが、わざわざ止めている。他殺を匂わせる結末を望んだのではないか。理由は労組や共産主義者による犯行かもしれないとしておくことで、国民に共産主義者への恐怖感を植え付ける。
つまり殺害自体ではなく、自殺後の状況を有利に利用。そこが謀略。


いも山事件

干物はやはり旨味が凝縮される。生の鱈よりも深い味わい。三日かけて戻した甲斐があった。
出汁醤油の甘辛い味が淡白な鱈や里芋によく絡む。醤油と味醂で味付けしてもよかったかも。
里芋のぬめりはガラクタンという食物繊維。よくぬめりを落として料理しましょうと言う人がいますが、勿体ない。これも栄養、しっかりと頂きます。

占領時代に起こった不可解な事件。平和で豊かな現在の日本とは無関係と思ったら、大きな間違い。
この国は未だに占領下。
福岡から羽田に飛行機で戻る時、よく感じることですが、どうしてわざわざ千葉方面に迂回して羽田に向かうのか。答えは東京上空は米軍横田基地の管制下。日本の飛行機は自由に飛べない。
首都上空が他国の軍隊の管理下。これで日本は独立国と言えるのか?
陰謀や謀略が蔓延る日本の黒い霧は未だ、晴れてはいない。その現実を多くの人に考えて欲しいもの。


下山総裁?と思われる幽霊が現れたという怪談話をyoutubeで拾いました。↓

下山は初老期うつを患っていたという話もあり、三億円事件や吉展ちゃん誘拐等、多くの事件を捜査した名刑事、平塚八兵衛は下山の遺族に聞き込みした所、自殺するかもしれないと感じることがあったと夫人の証言を得た。
政府やGHQからの人員整理命令、労組からの反発の板挟みで苦しんだ末の自殺ではないか?清張の他殺説とは真っ向から対立しますが。

上の動画で語られる霊が下山だったとしたら、死んでからも何処か奇妙な言動ということになる。

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