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星を掬う

今日のおすすめは、町田そのこさん著「星を掬う」です。

町田そのこさんと言えば、2021年本屋大賞で「52ヘルツのくじらたち」が大賞に受賞されたことが印象深くあります。
「星を掬う」もまた、2022年本屋大賞にノミネートされましたが、残念ながら落選。
しかし、私はこの作品が以前からとても気になっていたので、本屋大賞にノミネートされたのをきっかけに、遅ればせながらですが、今回手にとらせていただきました。
物語は5ページ目から始まるのですが、すぐに物語に引き込まれるほど、魅力的な作品でした。

あらすじ

パン工場で働く芳野千鶴。
幼い頃、母親に捨てられた千鶴は、祖母と父親に育てられたが、2人とも他界。
1人になった千鶴は、高校卒業後に働いていた中古車販売店で出会った野々原弥一と結婚したが、弥一は事業に何度も失敗し、多額の借金を抱え、支える千鶴に手を挙げるようになった。
千鶴は借金を返済することを条件に弥一と離婚。
しかし、離婚後も弥一は執拗に千鶴に金をせびっては、暴力をふるっていた。
弥一との関係を終わらせようと決意した千鶴。
そんな千鶴の元に、芹沢恵真という女性が現れた。
千鶴は母親に捨てられる前に、母親と2人で旅に出た。
そのことをラジオの番組宛てに送ると、それを聞いた恵真から会いたいという連絡がラジオ局に入った。
恵真は千鶴の母親のことを知っており、母親のことを「ママ」と読んでいた。
千鶴がDVを受けていることを知った恵真は、ママと一緒に暮らそうと提案。
自分の母親のことを「ママ」と呼ぶ見知らぬ女性に嫌悪を抱いたが、千鶴は恵真の後について行き、母親に会うことにした。
そうして、再会した母は…。

町田そのこさんの印象

町田そのこさんの作品を読むのは今回が2回目です。
本作をを読みながら、町田さんはすごく優しい人なんだと改めて思いました。
「とにかく思いやりに溢れている」「まるで自分事のように人のために頑張れる」、そういった登場人物がとても多いのです。
そんな愛のある人が町田さん自身なんじゃないかと勝手ながら思っています。
反面、とても暴力的なシーンもあり、町田さんの中からこういったシーンが生まれてくるのがとても不思議でした。
ですが、そういった暴力的なシーンがあるからこそ、愛や優しさを感じられるんだと思います。

何度も涙を拭いました

大人になって小説を読んでこんなに泣いたのは初めてでした。
60ページ、第1章が終わる頃にはもう泣いていました。
それからも何度も何度も涙が零れました。
恵真の献身的な支え。
千鶴は母親に捨てられたことを恨んでいたので、母親との再会はけして感動的なものではありませんが、千鶴と母親が旅に出た時の情景やその時の多幸感。
最後の方になると、母の愛に涙が止まらなくなりました。

人生とは

「自分の人生は自分だけのもの」「自分の人生の責任は自分にある」
こういったメッセージがすごく詰め込まれていると思いました。
千鶴は母親がいなくなってからのうまくいかなかったことすべて、母親が自分を捨てたせいにしていました。
確かに、多少は影響はあったかもしれません。
未成年ならなおさら。
だけど、成人になってもその影響に飲まれ続けるかどうかは自分の選択次第。
選択によっては、幸せになることもできたはず。
そんなメッセージが何度も何度も伝わってきました。
私自身、母娘問題があり、私もまた、母のせいにしてきたことがたくさんあります。
「自分が幸せになる選択は何度だってできたんだ」
この作品を読んで反省をし、そしてこれからは幸せな選択をしていきたいと思いました。

この作品にはいくつもの母娘が出てきます。
千鶴と母・聖子、聖子とその母、恵真と聖子、さらに、千鶴と聖子と恵真と一緒に暮らす彩子と美保。
色んな母娘の形があることで、どんな立場からでも母娘問題に向き合える作品なのではないかと思います。
母と娘の関係に何かわだかまりがある人にとっては、考え方が変わるきっかけにもなるのではないでしょうか。
ただ、暴力シーンの描写が強いので、読む時にはご注意を。

「星を掬う」を読んで、ますます町田さんが好きになりました。
町田さんの他の作品ももっと読んでみたいと思い、次の作品を手にすることにとてもわくわくしています。


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