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【エッセイ&映画レビュー】ラーゲリより愛を込めてを観て

「三寒四温」

二月も後半に入り、春が少し早く訪れそうな陽気が増えましたね。

まぁ本来嬉しいはずの春だけど、ここ数年の気候変動を考えると、四季がはっきりしている北海道でさえ、どこか季節の境目があいまいで、何か違和感、、とにかく違和感🥹


実話に基づいたノンフィクション映画

今日の映画レビューは「ラーゲリより愛を込めて」

本来”ラーゲリ”とはロシア語で「キャンプ」を意味しますが、使われ方としては”旧ソビエト連邦“における”強制収容所”を意味するそう。

この作品は2022年12月に公開された作品で主人公「山本幡男」を演じたのは二宮和也、妻モジミを演じたのは北川景子。

画像:映画.com

原作者は歌人でノンフィクション作家の辺見じゅん。(ちなみにあの角川春樹が弟だそうですよ💦ビックリ😳)

代表作としては「男たちの大和」が有名ですが、私小説風から童謡、詩歌まで幅広い作品を手掛けた作家で、ことノンフィクションの作品構成においては、丹念に聞き取りを行って描かれ評価が高いと言われているそうです。

ラーゲリより愛を込めて”の原作は「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」で今までドラマ化、漫画化もされていたようですね。(全然知らなかったケド😅)

この辺見じゅんさん、すでにお亡くなりになっていますが、生前出演したTV番組で残されている言葉があります。

言葉というのは”ことのは”、「言霊」、人間の魂が入っている。人間が最後に残す言葉は、ささる、しみいる。

この言葉をギュと嚙みしめながら、最後の一字一句を聞きのがさずこの映画を観て欲しいなって思います。

ラーゲリより愛を込めてってどんなお話?※ネタバレあり

1945年、第二次世界大戦終結後、シベリアの強制収容所に不当に抑留された多くの日本人。

真冬には-40℃にもなる強制収容所”ラーゲリ”で過酷な労働や扱いを受けながらも、生きる”希望”を捨てず、ダモイ(帰国)の日は必ず来ると信じ、捕虜となった”仲間達”を励まし続けたのが主人公の山本幡男でした。

希望



彼には妻モジミと4人の子供がいましたが、終戦直後、ハルビンで戦火に巻き込まれ、山本とモジミは再会を約束し生き別れることに。

その後、山本は旧ソ連軍に抑留されてしまいます。
過酷な強制労働を強いられるの日々の中、仲間達の中には亡くなっていく者、自暴自棄になり脱走を試みて銃殺される者も

そんな中、山本は身に覚えのないスパイ容疑で裁判にかけられ、言い渡された判決は25年の矯正労働

混沌と過ぎる日々の中、仲間達は生きる「希望」失ってゆきます。

戦争によって心に深い傷を負い、心を閉ざし自分は卑怯者の”傍観者”だと決め込む松田(松坂桃李)。

旧日本軍の元軍曹で部下を名前ですら呼ばない冷酷な相沢(桐谷健太)。

漁の最中に連行されてしまった読み書きすらも出来なかた漁師の息子、新谷(中島健人)。

過酷な抑留生活のなかで変わり果ててしまった、元甲子園のエースで同郷の原(安田顕)。

その他、多くの仲間達。

山本は誰に対しても分け隔てすることなく、皆を励まし続け、どんな時でも優しさを持ち、人の心を決して失うことなく、倒れる者には手を差し伸べ続け、旧ソ連軍の不当な扱いにも屈することなく、時には身体を張ってでも守るべきものを守り続けます。

そんな山本の行動は仲間の心を動かし、絶望により、閉ざしていた仲間達の””に少しづつ「希望」という光が差してゆきます。

余命

やがて約10年という月日が流れ、山本は病に倒れます。

しかし収容所ではろくな医療も受けられずどんな病気なのかもわかりません。

「大きな病院でちゃんとした診察を受けさせてもらえるまで労働を拒否する」
そう訴えた仲間たちは全員で座り込み、ソ連軍の兵士に対して交渉を持ち掛けました。

仲間達の行動によって交渉は成立。

山本は大きな病院で診察を受けることができました。

診察を終え、収容所に戻った山本。

仲間を代表し病室を訪れたのは、身重の妻とお腹の子を亡くし、自暴自棄になっていた所を山本に救われた”相沢”元軍曹でした。

山本は自分が「喉の癌」であったこと相沢に告げました。

「余命は3ヶ月だそうです」

「悔しくないのか!そのままじゃ家族に会えないんだぞ」

「それでもお前は絶望しないっていうのか!!」

相沢は畳み掛けるように山本へ強く言いました。

「絶望、、しないわけないでしょ!!」
という山本に

「それでも、、生きろ!お前俺にそう言ったじゃねーか」

「俺は生きて来たぞ」

「なにも無くても俺は生きて来たぞ!」

「ここで諦めたら俺が許さねーからな、山本!」

「それでも生きろ!山本!」

相沢は初めて山本と名前を口にしました。

未来のために

日を追うごとに山本の病状は悪化してゆきます。

ある日、山本に頼まれていたノートと鉛筆を持って、原と松田が病室を訪れました。

手にとったノートの表紙に「未来のために」と記した山本は

人間が生きるとはどういうことか、シベリアに来てわかったきがするんです。それについて書いてみようと思うんです

その後、原は仲間達と話し合い、万が一のことを考えて山本に遺書を書いてもらうことに。

山本が声を殺し、嗚咽しながら言います

戦争って酷いものですね・・・

「この遺書は必ず家族に届けます」

無念に涙する山本。

原さん、私の家族にも笑顔で会ってやってください

書かれた遺書は原へと託されました。

しかし、作業拒否以来、身体検査が厳しくなりは遺書を残しておくことが困難な状況に。

奪えないもの

病室の窓から柔らかく日差しこみます。

山本はノートを書き終えると力尽き、静かに目を閉じました。
握りしめていた鉛筆が指からそっと離れてゆきました。

山本の亡骸はシベリアの大地で眠りにつくことに。

やがて11年に渡る抑留生活も”ダモイ”の日を迎え、残された仲間たちは日本へ帰ることができました。

ある日。

山本との約束通り、涙交じりの笑顔の原が、モジミの元を訪れました。

残された遺書を家族の元へ届ける方法はないのか

それはまだラーゲリにいた時のこと。


新谷が山本の言っていた言葉を思い出します。

記憶しましょう!

頭の中で考えたことは誰にも奪うことができない

こうして遺書四通は仲間の頭の中へと記憶されて遺されてゆきました。

訪れた原は家族への遺書を。

松田は母へ。

子供たちへは松沢がそれぞれ記憶の”遺書”を
届けます。

そして最後。

相沢によって妻モジミの元へ山本の遺書が届きました。

そこには妻を讃える感謝の気持ちと、約束を守れなかった無念の思い、何よりモジミへの愛が綴られていました。

ふとモジミの目に在りし日の山本が映ります。

さよなら、ありがとう

そう告げた山本に

モジミは幸せだった瞬間、出会った頃を二人を思い出しました。

そしてモジミは笑顔で言った”言葉”は

おかえりなさい、、あなた

でした。

時を超えて


2022年、ある結婚式。

一人の老人が孫娘へのスピーチの為、席を立ちます。名は「山本健一」山本の長男です。

「今日の東京の空は雲ひとつありません。空は青く、鳥の声や風の音が聞こえました。素晴らしい門出の日です。素晴らしい結婚式です。おめでとう、ゆみ。」

「ゆみのその晴れ姿を見て、私は昔の結婚式を…父のことを思い出していました。」

そうスピーチが始まります。

「どんな状況におかれてもなお、人間らしく生きるとはどういうことか。
父はそれを多くの人々の記憶の中に残した人でした。その生き方こそが、父が私に遺してくれた未来でした。

私もその想いを孫に伝えたい。」

よく覚えておくんだよ、今日という日を。


健一の記憶に、幼き日のに行ったハルビンでの結婚式での家族の光景が蘇りました。

よく覚えておくんだよ。こうして久しぶりに家族全員でいられること、みんなの笑顔、美味しい食べ物、ハルビンの午後の日差し…


遠い昔。

優しく家族に微笑む、在りし日の父の姿が。

感想

この映画は評判がとても分かれる映画だと人から聞いていました。

レビュー等を見てみると、特に映画評論家や映画監督等の酷評が目につきました。

その酷評の原因の多くは、演出であったり、リアリティであったり、キャストの演技であったり。

まぁどこに重きを置いて作品を観るのかにもよると思うんですが。

その道のプロでしょうから、プロの目線で見てるのでしょうが、そういう目線でしか見れないのかなって思ったんですね。

この映画はプロに見せる為のものではありません。
戦争の悲惨さを知らない多くの人、戦争には縁のない一般の人達が見る為のものと私は思うんですけどね🙄

忘れてはいけないのは、これは実話に基づいたノンフィクション作品の映画であるということ。

実際に起きた戦争の悲惨さ、人間模様や残酷な現実が時を越えて描かれているんです。

クオリティは大切な要素の一部ではあるけれど、そのクオリティだけで見る側の事実の受け取り方が変わってしまうなら、それは見る側の想像力の欠如じゃないのかと私は思うんです。


私の感想で言えば、二宮和也は山本幡男という人をしっかり演じ切っていたと思いますし、キャストの中で一番しっくり来る配役だったと感じました。

心優しく、それでいて芯が強く、その行動力は頑なだった仲間の心を動かして行きます。

この映画がで描かれているのは一見にして「希望」なのかなと思います。

キーワードとして劇中、何度も出てしました。

この「希望」を持つってことは結局「絶望 」や不安、悲しみ、苦しみ何かが裏にあるってことなんですよね。

だからこそ、その絶望を「希望」に変えることは容易いことではない。

山本だって絶望したっておかしくないんですよ、25年矯正労働なんて、普通もう帰れないって諦めたっておかしくない。

なのに仲間にまで「希望」を持たせ続けようとするその姿は本当の人間の「強さ」とは何なのかを考えさせされましたね。

ある意味、こういった人が人の心を掴み、慕われ、リーダーシップを発揮出来るんでしょうね。

妻や家族、大切な人と生き抜いて「再会」する。

戦時中、戦争に駆り出された多くの人が夢見ていたことでしょう。

絶望と希望が表裏一体って、現代を生きる私たちには分かり得ないし、その気持ちは計り知れない。

今、生きることに疲れてる人。

自分なんて生きてても価値がない」

良い事なんて何もない

そんなことを考えてる人が居たら、「生きる」ってどういうことなのか、「」としっかり向き合っって欲しいって思うんです。

良い事なんて何もない

そもそも良い事って何ですか?

本当は今、生きてるだけですごいこと、良い事なんじゃないのかな?

だって、道歩いてて車に轢かれて死ぬことだってある。

突然、病気で生命が尽きてしまうことだってある。

今、生きてるだけですごいこと!

そして良い事は向こうから歩いて来ないよ。

自分が歩み続けなければ、自分で行動しなければ良い事が起きるなんて、向こうからやってくるなんて、拾った宝くじ、当たればラッキー🍀くらい虫のいい話だと私は思う。

よく言うよね

死ぬ思いしないと分からない」って

でも本当は、ちゃんと考えて想像力働かせれば分かることだと私は思う。

”想像力”

山本はどんな思いであの遺書を書いたのか。

山本の遺書をどんな気持ちで仲間達が記憶していったのか。

そしてその遺書をどんな気持ちで受け取り、遺された人は何を感じたのか。

想像力
共感力

その大切なものが現代には足りな過ぎる。

そう思わずにいられませんでした。

泣けるとか、泣けないからとか。

泣けるからいい映画なのか。

泣けないとダメな映画なのか。

ことノンフィクションで作られてる物に関しては原作に忠実な演出やクオリティも必要な要素かも知れないけど、原作者が何を一番伝えたいのかって目線で見た方がいいと私は思います。

この映画には、今回ご紹介した内容以外にも
印象的な台詞、”言葉“所々にあります。

冒頭に書いた 原作者の辺見じゅんが語っていた

言葉というのは”ことのは”、「言霊」、人間の魂が入っている。人間が最後に残す言葉は、ささる、しみいる。

いま一度、“ことのは“を噛み締めて欲しい。

今も世界中のどこかで戦争や紛争は起きてる。

そしてそれは、もしかしたら私達の日常にだって起きるかも知れない。

あなたはどんな気持ちで今を生きていますか?

Soranji


歌:Mrs. GREEN APPLE
作詞:大森元貴
作曲:大森元貴

貴方に会いたくて
生まれてきたんだよ
今、伝えたいんだよ
私はただ
私はまだ…

はじまりの朝が来る
宝物を探すけど
いつの間にか すぐそばにある事を
忘れて今日も浮かんでます

思い出は歩いてきた証だと
この傷が教えてくれる
当たり前に進んでゆく皆んなに
ついて行こうと頑張っています

汚れながら泳ぐ生の中で
まあ よくぞここまで大事にして
抱えて来れましたね

まだ消えちゃいないよ
ちっちゃな希望を
何とか信じて、
信じて欲しい。

裏切りが続こうが
「大切」が壊れようと
何とか生きて、
生きて欲しい。

有り得ない程に
キリがない本当に
無駄がない程に
我らは尊い。

寂しさの甲斐は無い
雪もいつかは溶けるけど、
鳥の群れは明日へと飛び立つが
私は今日も小さくなってます

ゆらり揺れながら
産声が聞こえる
繰り返してる春
大事にして語り継いでくれましたか?

まだ伝えてないよ
今日の分の「大好き」を
未来でも変わらず届けられますように

この世が終わるその日に
明日の予定を立てよう
そうやって生きて、
生きてみよう。

有り得ない程に
キリがない本当に
無駄がない程に
我らは尊い。

踏み締める大地に
重なるはアイロニー
有り得ない程に
キリがない本当に。

まだ消しちゃいけないよ
ちっちゃな希望を
迷わず信じて、
信じて欲しい。

暗闇が続こうと
貴方を探していたい
だから生きて、
生きてて欲しい。

有り得ない程に
キリがない本当に
めくるめく世界に
膝を抱えていたり

誰しも何処かに
弱さがある様に
無駄がない程に
我らは尊い。

一歩ずつでいいからさ
何気ない今日をただ
愛して欲しい。

ズタズタになった芯もほら
明日へと花を咲かすから
繋いで欲しい。


タイトルSoranji(ソランジ)には

諳んじる (そらんじる)
何も見ないで言えるように覚える、そらで覚える、暗記するという意味があります。

私の大好きな歌🥹でこの映画のエンディングの曲です。

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