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療育に通う子どもが保育園・幼稚園でのびのびと過ごすコツ【Vol.12】言語聴覚士・保育士 ヒロさん

言語聴覚士。ことばによるコミュニケーションに難がある方に専門的サービスを提供し、自分らしい生活を構築できるよう支援する専門職である。

小さな子どもをもつ親は「子どもがなかなか言葉を話さない」「特定の発音が難しい」など、言語発達に課題や不安を感じたとき、彼らの支援を受けたくなるだろう。

しかし残念ながら、生活圏内でアクセスできる小児分野の言語聴覚士は非常に少ない。

そこでこの連載では、小児分野の言語聴覚士やその育成に関わる方に話を伺い、子どもの言語発達に関するトピックや、言語聴覚士としての活動内容などを紹介する。

子どもの言語発達に悩むすべての人に、この記事が届きますように。


今回お話を伺ったのは、言語聴覚士・保育士のヒロさんです。児童発達支援施設と保育園など複数の施設に通う子どもが、双方で支援を受けながらのびのびと過ごすためのコツについてうかがいました。

言語聴覚士・保育士 ヒロさん

保育園など児童福祉施設を運営している両親の影響で保育・福祉の世界へ。法人内の認可保育園や発達支援事業所・放課後等デイサービスで働く保育士・言語聴覚士。支援から事業運営まで「子どもたちが楽しく通える施設を!」を目指して日々奮闘中!

サッカーに打ち込んだ学生時代を経て言語聴覚士・保育士に

——はじめに、ヒロさんが言語聴覚士や保育士になった経緯を教えてください。

ヒロさん(以下略):

私は根っからのサッカー少年で、大学もサッカーで入りました。卒業後はJ2やJ3のクラブチームに入りたくて、実際にオファーももらっていたのですが、大学4年生でケガをしてしまいます。そのためサッカー選手になる夢は終わってしまいました。

しかしすでに一般企業への就職活動は終わっている時期です。いろいろと考えた末、父親が柔道整復師の資格を持っていたことから医療従事者になる道を思いつきます。

加えて、私の両親が当時から小規模な保育園を経営していた関係で、私も20歳のときに保育士資格を取得し、その保育園でアルバイトをしていました。保育園にいると子どもの成長がリアルに感じられ、その成長に関われることに価値を感じていました。何より、子どもと一緒にいるのは楽しいですよね!

そうした中で小児の言語聴覚士が足りないことを知り、大学卒業後に言語聴覚士の養成校へ進学して資格を取得したんです。

資格取得後は、そのまま両親の保育園に就職しました。現在では児童発達支援施設や放課後等デイサービスも運営しているので、保育園では保育士として、それ以外では言語聴覚士として子どもたちに接しています。

グループ療育の様子(利用者の保護者に掲載許可を得た写真です)

言語聴覚士はさまざまなルートから探す

——ここからは、児童発達支援施設で療育を受けながら保育園や幼稚園に通っている子どもへの支援についてうかがいます。まず、言語聴覚士につながるコツはありますか?

保護者が言語聴覚士を探す場合、まずは市区町村の福祉課に相談するのがよいのではないでしょうか。しかし福祉課でも言語聴覚士の在籍状況までは把握していないことが多いため、実際は自分で各施設に連絡し、言語聴覚士の在籍状況や対応の可否を確認するしかないと思います。

おすすめなのは、その地域の療育センターにいるケースワーカーに相談することです。ケースワーカーはその地域の福祉施設や医療施設などを熟知しているので、きっと力になってくれますよ。都心ではケースワーカーが不足しているという現状もありますが……。

このほか、通っている保育園や幼稚園の先生に聞いてみるのもよいかもしれません。言語聴覚士につながりやすいルートを知っている方もいます。

——なかなか言語聴覚士にたどり着けない場合、どうしたらよいのでしょうか。

その場合は、小児領域の医師に相談したり、臨床心理士や公認心理師にみてもらうこともできます。特に言葉がなかなか出ない段階では、臨床心理士や公認心理師のサポートもとても重要であり、子どもの成長にプラスになるはずです。

また、経験や知識の豊富な指導員がいる発達支援事業所などの児童福祉施設もあります。もし言語聴覚士につながれなくても、お子さんのことを考えた支援が受けられると思います。

子どもと同じくらい「保護者の状況」に配慮する

——保育園児や幼稚園児が療育にも通う場合、どれくらい療育に通ったらよいのでしょうか。判断の基準があれば教えてください。

そのお子さんや児童発達支援施設の方針にもよるので、なかなか難しい問題ですよね。

私の職場では、まずは初回の相談でお子さんの状態を見て、週1回の個別支援で評価を行っていくことが多いと思います。一方、グループでの支援で身辺自立をみるのであれば、毎日通ったほうがよいかもしれないです。

——児童発達支援施設での支援方針を決めていく際に、意識していることはありますか?

意識しているのは、保護者と一緒に積み上げていくことです。お子さんの状態ももちろん重要視しますが、それと同じくらい保護者の状態を知ることも大切だと思います。今は共働き家庭が多いので、保護者のお仕事の状況などを聞いて、できる範囲内の頻度で通ってもらうのがベストだと考えています。

先ほどの例でいうと、身辺自立をみるなら毎日のほうがよいですが、保護者が毎日送迎するのが現実的ではないのなら、頻度を落とすか、保育園や幼稚園と連携することを考えますね。

ちなみに私の職場である保育園と児童発達支援施設は近くにあるので、保育園でお子さんを預かったら、途中で児童発達支援施設でグループ支援を行い、そのあと保育園で加配の先生や私と生活する……といったことが可能です。今後ますます少子化が進むことを考えると、施設側もこうした柔軟な支援体制をとる必要があると思います。

個別療育を行う部屋

施設同士の連携には「保護者からの要望」が効果的

——保育園・幼稚園と児童発達支援施設に連携してほしいとき、どうアプローチしたらよいのでしょうか。

保護者から要望するのが、もっとも連携しやすいと思います。児童発達支援施設側から要望しても、保育園・幼稚園側の先生が忙しかったり、その園が連携に消極的だったりすると、なかなか実現しないんです。その逆もしかりです。

でも保護者が担任の先生などとコミュニケーションをとって、何かの折に「実はちょっとお願いがありまして……」と切り出せば、対応してくれる可能性は高いと思います。

個人的にも双方の連携はとても大切だと考えています。子どもの様子は、療育と保育園や幼稚園、そして家庭でまったく違うことも多いです。児童発達支援施設のスタッフからすると、生活時間の長い保育園や幼稚園での様子を知らないと、効果的な療育の計画を立てにくいんです。

——ちなみに、保育園で働く保育士と児童発達支援施設で働くスタッフとでは、考え方などが違うのでしょうか。

一概にはいえませんが、私が感じている違いは、保育士は「子どもが生活する環境を整える」という視点で、児童発達支援施設のスタッフは「その子どもに合った対応をとる」という視点でみていることでしょうか。

このほか、バックヤードでの仕事やシフトなどの働き方もまったく違うんですよね。そもそも両方で働いた経験がある人は非常に少ないので、それが連携のしにくさにつながっているのかもしれません。

グループ療育の様子(利用者の保護者に掲載許可を得た写真です)

子どもはさまざまな人と関わって成長する。その「環境」を頼って

——保育園・幼稚園や児童発達支援施設で子どもがのびのびと過ごすため、保護者ができることがあれば教えてください。

ご家庭でのお子さんの様子を定期的に伝えてもらえるとありがたいです。例えば「日曜に公園で虫に触ったら、パニックになってしまった」という出来事があった場合、それを事前に聞いていれば、保育園での公園遊びやお散歩時に配慮できると思います。

あと、お子さんの様子をたびたび伝えてもらっていると、何かとその子を意識するようになる先生は多いかもしれません。ひいきするわけではなく、自然と意識下にすり込まれてよく目がいくようになる、という感覚です。ぜひお子さんの情報を先生にすり込んでみてください(笑)。

——最後に、子どもの言語発達に悩む親御さんへ向けて、メッセージをお願いします。

お子さんの発達が遅いと感じたとき、まずは「自分のせい」と責めてしまうかもしれません。でも子どもは、いろいろな人と関わりながら成長していきます。保育園・幼稚園の先生や、療育のスタッフ、地域の人などの全員が、子どもの「環境」になるんです。

だから「お子さんのために何ができるのか」を、先生たちと相談しながら考えてみてはどうでしょうか。そのときにすぐ答えは出ないかもしれません。でも相談することで変わることはあると思います。ひとりで悩まずに声をかけてほしいです!

ヒロさんTwitter


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