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【名画をプロップスタイリングしてみる Vol.14】オディロン・ルドン「蝶」

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今日の1枚はオディロン・ルドン「蝶」
ニューヨーク近代美術館(MoMA)にあります。


ルドンは19世紀末から20世紀初頭にかけてフランスの象徴主義を代表する画家です。


ルドンと言えばギョロっとした眼球や怪物、首、蜘蛛などがモノクロで表現された不気味な木炭画や版画を思い浮かべる方が多いと思います。


しかし彼にはそんな闇の「黒(ノワール)の時代」とは真逆の、光の「豊潤で幻想的な色彩の時代」があるのをご存知でしょうか?



ルドンは遅咲きで、39歳の時に発行された石版画集「夢の中で」がデビュー作品でした。

この頃からルドンは、鉛筆、木炭画、版画などによって不確かな夢や無意識の世界に踏み込んだ、色彩に頼らない独自の幻想世界を生み出します。

色を使えば目に見えるものは表現できますが、見えないものを表現する手段として彼は黒にこだわりました。

彼もまた印象派と同時期の画家ですが、印象派には目もくれず、ホイッスラーと同じく孤高の画家と呼ばれています。




ルドンが描く想像上の生き物が奇妙な形をしていたり、動植物が人面だったりするのは、20歳の頃に出逢った植物学者のアルマン・クラヴォーと一緒に顕微鏡で覗いた微生物(目には見えない生命との出会い)であったり、彼が教えてくれたボードレールやエドガー・アラン・ポーやインドの詩からの影響が大きいと言われています。




また、この頃のルドンの作品からは幼少期を孤独の中で過ごしたことによる深い傷や絶望、不安を感じるものが多く見られます。生後2日で里子に出されるという辛さ。

この経験が、彼を人一倍幻視者的な思考に育てたのでしょうね…。




1880年40歳の時に結婚、6年後に長男が生まれますがわずか半年で亡くなってしまい、ルドンはもうますます暗い暗い絵ばかり描くようになります。悲しい…。



そんな彼に転機が訪れたのは1889年、待望の次男アリが誕生します。この頃から画風ががらっ!と変わり、油彩、水彩、パステルを用いて明るく華やかな絵を描くようになったのです!

「私たちが生きながらえるのは、ただただ新しい素材によってなのだ。私は色彩と結婚した。もうそれなしで過ごすことはできない。」

ルドン大興奮!

これまでに得ることができなかった幸福感に満たされたことが作風に決定的な影響を与えたと言われています。

とはいえ黒を使わなくなったわけではなく、黒を使うことに対して「体力がいる」という風にも言っています。年齢的なものもありますが、パステルを使うことで楽しく絵が描けることにも新たな喜びがあったのかもしれません。



さて、そんな時に描かれた作品がこちらの「蝶」。


青い空に伸びやかな雲。岩間にはよく見ると蝶々に見間違えてしまいそうな一輪の白い花が見えます。色とりどりの羽粉をまとった蝶や蛾はどこに向かって飛んでいってるのでしょうか。




晩年のルドンは、形の類似性に注目していました。人が花や貝殻に溶けこむような作品や、花が蝶に変貌する作品など、彼の一貫した主題である曖昧で不確実な、自然を客観的ではなく夢のように転換することで目に見えないものの表現を追及しました。




ずっとこの絵がなんなのか考えていると余計わからなくなってくるけど、なぜか心地いい不思議な感覚に陥ります。もしかすると蝶や蛾は画面という枠を越えて、わたしが今いる現実と絵を繋ぐ役割をして、現実と想像が入り交じる、どこでもない夢の世界へ誘うための役割ということなのでしょうか?




わたしはコナンばりに謎を解きたくなる、知りたくなる性分ですが、これは人間のエゴであり、目の前にあるものを見えた、わかった気になっているだけなのかもしれませんね。

不確実なものと確実なものが合わさった時に生まれる夢幻の世界もあるという視点、忘れないでおこう。

そして改めて、闇と光の両面を表現し、またはそれを力に変えることのできる「芸術」というものは人類にとってなくてはならないものだと感じました。

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