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バラバラ殺人の裏、誰かの幸せがこわいってはなし「魍魎の匣」(京極夏彦)感想

読み終えた瞬間、「う、わあぁ~…」と声が出た。なんてこわい終わりかたなんだ。そしてこのこわさには、どこかに真実を感じるからこそ、ちくりと胸を刺す切なさもある。

鈍器本と言われるほど厚みのある文庫でおなじみの京極堂シリーズ第2弾「魍魎の匣(もうりょうのはこ)」(京極夏彦)。バラバラにされた複数人の手足が見つかる猟奇的な事件が世間で騒がれるなか、新鋭若手作家が書き下ろしたのは匣に詰められた少女のはなし。さらに匣を背負った教祖が率いる怪しげな宗教まで絡んできてーー。

いかなる物語も長いから面白いってことはないと思うが、これだけのボリュームを読ませる内容って、そりゃもう圧巻である。しかも一旦読み出すと、しおりを挟む隙が見つからず、ずぶずぶと物語に浸ってしまう。寝付きのよさが自慢なのに、ここ数日寝不足気味だ。

にしても、こんなにおぞましく、こわい展開ってあるか。最近は残酷描写てんこ盛りのスプラッターやサイコホラー作品なんて掃いて捨てるほどあるけれど、比じゃないね。

別にオウェッ~てなるような生々しい描写があるわけじゃない。どちらかというと、やっぱりイメージは怪談だ。仕掛けがなくても、人気のない夜道、学校、墓場なんかを歩くときの心がすっとする感じ。憑き物落としをする現代の陰陽師が探偵を努めるんだから、その空気感はますます高まる(本当に妖怪だのが出てくるわけではなく、人間の仕業で方がつく)。

本作のおぞましい事件に隠された裏テーマ(?)は、ずばり「幸せ」についてだ。どうすれば自分の心は満たされるのか? たとえば、宗教に入れ込んでいる女性がいたとして、端から見るとその人はちっとも幸せそうじゃない。しかし、彼女は宗教という拠り所がある限り、本人的には誰よりも幸せだ。

結局人それぞれよね、ってはなしなんだけど、だからこそのやるせなさというか。だって本人がそれで幸せなら、救うって考えがそもそも違うし、自分の感覚で見てしまうと、狂気にすら感じられてしまうというか。

詰まるところ、自分の尺度で見るとよく分からん幸せにあふれた物語で、それがとっても、こわいのだ。

ーーほぅ、


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