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創作稼業の女たち×洋館×心理戦。「木曜組曲」(恩田陸)感想
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まずはこちらの表紙をご覧いただきたい。うぐいす色の屋根に、白い壁の洋館。ポーチ上の2階窓。そこから訪問者に気づいた女主人が、にこりと微笑みかける、在りし日の光景ーー。
左下には多角形的な部屋が見える。客間だ。中央にどんと丸テーブルが置かれ、5人の女たちが和やかな宴をはじめる。そして、女主人の死にまつわる、告発も。
「乾杯しましょ」
みんながきょとんとして、顔を見合わせる。絵里子は構わずにプルタブを引いて缶ビールを高く掲げた。真面目くさった顔で呟く。
「木曜日の夜に。重松時子の亡霊に悩める女たちに」
「嫌みだわね」
「ごもっともだけど」
舞台は通称「うぐいす館」。耽美派小説の巨匠だった女主人は、4年前にこの館で毒薬死した。以来、その現場に居合わせた5人の女たちは、彼女が亡くなった「2月の第2週の木曜日」を含む3日間をうぐいす館に集って過ごす。
自殺として処理された事件ではあるが、謎の多い死だった。そして4年後、彼女たちのもとに不穏なメッセージつきの花束が届いたことから、告発と告白がはじまるーー。
出版プロダクション経営や編集者、小説家、ノンフィクションライター。創作稼業の5人の女たちが、美味しい料理とお酒を囲みながら腹の探り合い。よだれが出そうなほど、恩田陸ワールド炸裂じゃないか!たまらん、たまらんぞ。
かなり前に実写映画化はされているみたいだけど、断然舞台向きのおはなしだと思う。というかライブでみたい(願望)。女たちの手に汗にぎるピリピリ、ヒリヒリの会話を鼓膜を通して聞いてみたい。
最初に、表紙から見て分かりやすいように多角的な形の客間と説明したが、正しくは六角形の部屋に5人が集う。けれど、気づくとわたし(読者)たちにも、6番目の席が用意されている。そこからじっと、傍観しているような感覚を抱く物語だ。
「今日という今日は」
絵里子が頬杖をつく。
「ーーもの書きという商売がつくづく嫌になったわ」
「でも、また明日になれば書くでしょう」
静子が煙を吹き出しながら乾いた声で続ける。
「うん。たぶんね」
女たちが、みんな創作稼業というのもいい。観察するのに長けていて、目の前の出来事をどこか他人事のように冷静に俯瞰できる人たちだ。ちょっと言葉に毒があって、けど嫌味がなくて、さらっとしている。女たちの集いなのにドライタッチで、粘着感がない。だから胃もたれすることなく、テンポよく読める。
彼女たちの吐く言葉は台詞のような印象を受ける。それがいい。だから、戯曲になったら華やかで、映えると思う。
結局は、物語なのだ。そう思わせてくれる安心感が好きだ。しばし現実を忘れて、上質な舞台を見たような満足感。最後は楽しかった時間が終わるような寂しさを感じつつ、現実に帰る。この解離が、とても好きだ。
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