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春が来ることを忘れないで(ホックニー展より)

頭を下げた黄色くて可愛い花の周りに緑色の葉が直立する。太陽の光をいっぱいに浴びているからだろう。背後の木々は桃色で描かれていた。
温かな春を浮かべるこの絵が描かれた2020年は先の見えないコロナ禍で、人々は閉じこもらざるを得なかった。
春なんて来ないと思っていた。
………………
今度、そのうち、きっと、もうすぐ。
それは来ないと明日を納得させるための、諦めの言葉だと思っていた。
だから、恋人からの「あと1年で結婚しよう。」に私は別れという選択をしたし、
上司からの「来年、札幌から東京に異動させる」の言葉を聞いて、今じゃないならきっと嘘だからと転職の道を選んだ。

しかし、ホックニーさんの絵を見ていると、絶望の中でも春が来るという希望を持たずにいられない。

壁一面に描かれた四季折々の絵は春から始まる。蕾が実になり時に雨が振り、ピンクや黄色に色付く緑が、大きく成長していく。一面真っ白な雪景色も明るい。
私が道の通行人なら気付かないような葉も、ホックニーさんが描くと、生きている緑になる。
………………
雨の日も、風の日も、霧の日も、ホックニーさんの絵は楽しい。「自由を求めて」というカテゴリーが作られているくらいだから、不自由な行き止まりのような瞬間もあったことだろう。しかし、全部が明るくて陽気で楽しかった。

お祭りの屋台が賑わう昼間に入場したが、気付いたら広々とした美術館の最後の1人になっていた。
……………
法的にベストな判断をしても、理解者がいないから潰され、アイディアを採られていく。毎日、行き止まりみたいな思いをする環境で、「いつか」なんてきやしないと投げやりになっていた。
しかし、春が来ることを忘れないでと伝えてくれる絵の中にいると、明日も頑張ってみようと思う。
明日には何かが変わるかもしれない。そんな希望が湧いてくる。
………………
鮮やかな緑の中に、練り込まれた赤いフレームのオレンジ色の実。
もしかすると本物は、口には出来ない味の濁った黄色の実かもしれないし、実なんてないかもしれないが、
大きく成長した緑には、そこにあって当然の元気な果実だった。


とても嬉しいので、嬉しいことに使わせて下さい(^^)