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TOC(制約理論)とはー『ザ・ゴール』読書記録

『ザ・ゴール ー 企業の究極の目的とは何か』という本をご存知でしょうか。宣伝文句には「全世界1000万人が読んだ!ジェフ・ベゾスがAmazon経営陣たちと読んできた伝説の名著」とあり、ビジネススクールの教材としてもよく取り上げられているようです。

紙の本は全552ページ、厚さ約4cmもあり、読み始める前は怯んだのですが、読んでみたら小説形式なので読みやすく、とても面白かったので、今回はこの本から学んだことについて書きたいと思います。


1. 手に取ったきっかけ

前回記事「DXを学ぶ📚成功事例と必要スキル」でご紹介した『日本のDXはなぜ不完全なままなのか』という書籍において、『ザ・ゴール』が引用されていました。

1984年に米国でベストセラーとなった「The Goal」という小説があります。機械メーカーの工場長である主人公を中心に繰り広げられる、工場の業務改善プロセスを主題とした小説です。この本の中で語られているのが「制約理論(TOC)」です。システムのパフォーマンスを妨げる制約条件(ボトルネック)に着目し、そこを重点的に改善することで、短時間のうちにスループットが改善されます。しかし、改善を進めるにつれてボトルネックはどんどん移動していきます。

日本のDXはなぜ不完全なままなのか』P.47

この「制約理論(TOC)」をデジタルによる競争力強化にあてはめて考えると、時代とともに移動するボトルネックは、今の時代は人とシステムのインタフェースに存在する、といった文脈での引用でした。そこから「制約理論(TOC)って何だろう」と、本書について興味を持ち、読んでみた次第です。

『ザ・ゴール』の物語は、機械メーカーの工場長である主人公アレックス・ロゴが工場閉鎖を突然告げられるところから始まります。その工場は在庫の山で、顧客からの注文はいつも遅れ、アレックスは毎日、工場での火消し作業に追われていました。そのアレックスが、偶然に大学時代の恩師ジョナと再会し、それがきっかけでジョナから制約理論(TOC)を教わっていくストーリーです。小説形式なので、とても読みやすく2日ほどで一気に読んでしまいました。

2. TOC(制約理論)とは

TOCはTheory of Constraintsの略で、日本語では「制約理論」や「制約の理論」と呼ばれています。(個人的にはTOCと言われると、ビルを想起してしまいますが・・・なお、調べたところ、あのTOCは「東京卸売センター」の略でした。日本語の頭文字なんですね・・・)

TOCは、『ザ・ゴール』の著者エリヤフ・ゴールドラット博士によって提唱された経営管理の理論で、システム全体のパフォーマンスを改善するために、システムのボトルネック(制約)に焦点を当てることを主眼とした理論です。TOCの基本的な考え方は、システムの出力はそのボトルネック(制約)によって決まるため、ボトルネックを特定し、管理・改善することで全体のパフォーマンスを向上させるというものです。つまり、ボトルネック(制約)に着目し、局所最適を避け、全体最適を目指す考え方ともいえます。

「ボトルネックとは、その処理能力が、与えられている仕事量と同じか、それ以下のリソースのことだ。非ボトルネックは、逆に与えられている仕事量よりも処理能力が大きいリソースのことだ」

ザ・ゴール』P.217

3. TOCの5つのステップ

TOCでは、以下の5つのステップで制約の改善に取り組みます。

  1. 制約の特定:システム全体のパフォーマンスを制限している要因、つまりボトルネックを特定します。物理的制約(生産能力の限界や労働力不足)や、ポリシー制約(手順や規則)などの形で現れます。

  2. 制約の活用:制約が最大限に活用されるようにシステムを調整します。制約となっている工程の稼働率を上げるために、メンテナンスのスケジュールを見直すことや、設備の更新・人員の訓練などを行い、制約の能力自体を向上させます。

  3. 制約への従属(全体の調整):制約に合わせて他のプロセスやリソースを調整します。これは、ボトルネックに過剰な負荷がかからないように、他の工程のスピードを調整することを意味します。この調整により、制約の負荷が最適化され、無駄な在庫や作業待ち時間を減少させます。

  4. 制約の改善:制約が特定され、活用され、全体が調整された後、次のステップはその制約を解消または改善し、そのキャパシティを増加させます。これには新しい設備の導入やプロセスの改良が含まれます。

  5. プロセスの繰り返し(再評価):制約を改善した結果、新たな制約が発生する可能性があります。このため、TOCは継続的なプロセスです。制約が解消された後は、再びシステム全体を評価し、新しい制約を特定し、同じサイクルを繰り返します。このプロセスは、継続的改善を促進し、長期的な競争優位を維持するために重要です。

4. TOCとスループットの関係

TOC(制約理論)を提唱したエリヤフ・ゴールドラット博士は、著書『ザ・ゴール』の中で、企業の目標は「お金を稼ぐこと」であり、そのためにスループットの最大化が重要であると主張しました。スループットとは、簡単に言えば、システムから得られる純粋な利益のことです。

TOCでは以下の3つの指標が重要とされています。

  • スループット:システムから得られる純粋な利益

  • 在庫:原材料、仕掛品、完成品など、生産活動に関わるすべての資産

  • 業務費用:人件費、設備費など、スループットを生み出すために必要な費用

つまり、TOCの最終的な目標は、システムのボトルネックを特定し、そのボトルネックを解消することで、在庫と業務費用を同時に減らしながらスループットを最大化させることだといえます。

「ボトルネックがある場合、工場の能力はボトルネックの能力に等しいことはもうわかってくれたと思う。つまり『ボトルネックの一時間当たりの生産能カイコール工場の一時間当たりの生産能力』となるわけだ。だから、ボトルネックで一時間、時間を無駄にすれば、工場全体で一時間無駄にしたことと同じことになる」

ザ・ゴール』P.247

5. 生産現場以外への応用

『ザ・ゴール』の舞台は機械メーカーの工場ですが、生産現場に馴染みがない私は、IT業界のプロジェクト管理にTOCの5つのステップを当てはめて、具体例を考えてみました。

  1. 制約の特定:プロジェクトの進行を妨げている最大のボトルネックを見つけます。たとえば・・・

    • 十分な経験やスキルを持つ開発者がいない特定の技術領域のタスク

    • 要件定義の遅延や曖昧さ

    • クライアントの承認プロセスの遅れ

  2. 制約の活用:特定された制約を最大限に活用します。たとえば・・・

    • 制約となっている特定の技術領域に経験豊富な開発者を割り当てる

    • 利用可能な要件情報に基づく優先度の高い機能の開発着手

    • クライアントとの連絡を密にし、承認プロセスを迅速化する

  3. 制約への従属(全体の調整):他の全てのリソースやプロセスを制約に合わせて調整します。たとえば・・・

    • 他の開発者がスキル不足の領域をサポートできるよう、他の開発タスクのスケジュールを調整し、ボトルネックタスクをサポート

    • 要件が明確な部分から順次開発を進め、並行して要件定義を継続

    • クライアントの承認を待つ間、他のタスクを進める

  4. 制約の改善:制約そのものを改善するための対策を講じます。たとえば・・・

    • スキル不足の解消のためのトレーニングプログラムの実施や外部リソースの活用

    • アジャイル手法の導入による要件定義プロセスの迅速化

    • クライアントとの承認プロセスの見直しと効率化

  5. プロセスの繰り返し(再評価):上記のステップを繰り返し、新たな制約を見つけて対処します。

このようにTOCの5つのステップを用いることで、プロジェクトの進行を妨げるボトルネックを改善し、プロジェクト全体の効率を向上させることができそうです。

上記は架空の応用案ですが、実例として​以下noteに記載されている、ファミレスにおけるボトルネックの解消事例がわかりやすかったです。

お店のオペレーションにおける滞留=ボトルネックは、一般に「お客さんのクレームが最も多いところ」と言えるでしょう。とにかくお客さんが「待たされる」ことにストレスを感じるからです。

上記noteより引用

『ザ・ゴール』では、工場内にある仕掛品の山がボトルネックを探す目印となっていましたが、この事例では「お客さんのクレームが最も多いところ」が目印になるということですね。

ご自身の業界に当てはめて理解したい方は、ChatGPTやGeminiに「TOCの『5つのステップ』を●●業界の●●(Ex. 飲食業界の接客対応)にたとえて教えて」と訊いてみるとよいかと思います。

おわりに

『ザ・ゴール』の物語は、工場を舞台とした生産管理のストーリーでしたが、TOCへの理解を深めていくと、TOCはさまざまな分野の制約解消に応用できる理論であることに気づきました。

『ザ・ゴール』がとても面白かったので、シリーズの他書籍も気になっています。しばらくは、ゴールドラット博士の著書を読み漁る日々になりそうです。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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