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12本のバラをあなたに

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【note創作大賞・恋愛小説部門エントリー中】 遼子(りょうこ)は企業内弁護士(インハウスローヤー)、企業の社員として雇用されている弁護士だ。会社の社長である別所(べっしょ)にほ…
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#人間ドラマ

12本のバラをあなたに 第三章-11

12本のバラをあなたに 第三章-11

 別所とともに向かったのは料亭だった。
 店に向かう道すがら別所が言うには、そこの秋冬限定裏メニューがとてもうまいという。ふだんの、頭を悩ませるものが何もないときならば、贔屓客にしか振る舞われない一品に興味を覚えただろうが今は無理だ。高崎から意味深な言葉を聞かされたあとからずっと、別れた男がとった行動の理由を考え続けているのだから。
 富沢事務所で働いていた頃、高桑は多くの顧問先を抱えていた。それ

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12本のバラをあなたに 第三章-10

12本のバラをあなたに 第三章-10

 遼子に間宮を会わせた翌日、別所は書類の山と向き合った。そうでもしなければ遼子がどんな決断をするのか気になって仕方がないからだ。
 好きだから、という単純な理由だけではない。遼子の人生に思いがけず触れてしまったこともだが、それ以外にも訳がある。
 仮に、ここを辞めたあと高崎のもとでかつての部下と一緒に働いても、それで遼子の心を縛り続けるものが消えてなくなるわけではない。いくら年を重ねても、どれほど

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12本のバラをあなたに 第三章-9

12本のバラをあなたに 第三章-9

「これから、どうします?」
 高崎の声が耳に入り遼子はハッとした。声がしたほうへ目をやると、彼は窓際にたたずんでいる。
 間宮と久しぶりに顔を合わせたのは嬉しかったが、自分が富沢事務所を辞めたあとの話を聞かされ複雑な気分だ。愛想笑いで応えることも、これからのことなど考えられないほどに。
 自分が退所したあと、かつて担当していたクライアントはすべて間宮に託したはずなのに別れた夫が奪ってしまった、と思

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12本のバラをあなたに 第三章-3

12本のバラをあなたに 第三章-3

『私ごとではありますが、富沢法律事務所から高崎法律事務所へ移りました。』
 かつての部下・間宮からの突然の便りは心の奥に押し込めていた罪悪感を蘇らせた。
 三年前、精神的に追いつめられて事務所を辞めることを決めた。その後、ろくに引き継ぎをしないまま彼女に任せたけれど丸投げしたようなものだ。
 別れた夫が急に姿を現す前に掛かってきた富沢の電話によると、自分が退所したあと間宮に任せたはずの仕事は高桑が

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