✴︎またね✴︎
カーテンから差し込む陽射しに照らされ
目が醒める。
夢か現実か区別がつかない、
夢ううつから、
記憶を呼び覚まし、
隣を見る。
フッと口元から
苦笑いが溢れる。
見て見ないふりはもう出来ない。
記憶から消せない
幸せの残骸達。
もう彼からは。記憶の残り香は感じなかった。
一緒にいるのに。寂しいなんて。
1人の時には知らなかった。
1人の時の孤独よりつらい事、
あの時はまだ知らなかった。
このまま、目が醒めなければ。
前みたいに戻れるの?
淡い期待を抱くが。
夢はもうとっくに終わって。
もう別々の道へと歩んでいたのだ。
これ以上、追いかけるわけにはいかない。
これ以上、嫌われてしまうのは耐え難い。
だけど、覚えていて欲しいのだ。
少しでも、私と過ごした時間を。
未練がましい女だと、引かれてしまう事は
承知の上で。
どれだけ。もう歩みが違うのかも。
どれだけ。お互いの温度差が違う事を知っていても。
いつか、歩みが揃う瞬間をまた期待してしまう。
この家を出たら。
もう会う事は無いのだろう。
次はいつ会える?なんて聞いたら。
もうそれこそ。次は無いのだろう。
未練がましい女だと分かっていても。
記憶の残り香を消したくは無いから。
言葉を選ぶ。
バイバイでもなく。
ありがとうでもなく。
そうだ。これが一番だ。
「またね」
分かっているのだ。縋っても無駄な事を。
頑張っても無駄な事を。
諦めの悪い女だと
内心呆れているのか。
もう気持ちは無いと知っていても。
どこかで、忘れられないのだ。
執着や未練。
まるで、昔いた妖怪の子泣き爺いみたいな
どっしりと黒く重い
気持ちの重さ。
自分でも分かっているのだ。
無駄な事を。
あなたは言ってくれた。
一途な人って素敵だよね!って。
優しい笑顔はもういない。
その一途さが、
自らの首を絞めていく。
戻らない時間。
進み始めた時間。
重なりはしないお互いの人生。
それでも。
いつか…また会いたいと願ってしまうのは
悪い事でしょうか。
扉を開けたら、もう違う人生が待っている。
私をとっくに忘れて。
あなたは笑う。
もう重ならない時間と人生。
満ちていた月は欠けてしまった。
また新月の闇が包む。
いくら闇に包まれたとしても。
見えなくても。月は
そこに存在するのだ。
隠して見せない様にした、新月の闇夜のように。
私の気持ちも
見せないけど
まだそこにあるのだ。
だけど、見せてしまったら。
あなたは迷惑がるでしょう。
それでも
どこかで。また会えたらと願う。
だから。最後の言葉は。
「またね」
本当は。
または無い事を知っていても。
いつか、また出会う時が来て欲しいと
願ってしまう。
幸せになってなんて。
綺麗事は言えない。
忘れないで。も言えない。
もう重なる時は来ない。
だからこそ、またね。
朝日に包まれ、光が体を包む。
いっそ忘れてしまえたら楽なのに。
また、フッと苦笑いと
どうにもならない事を悟ったため息が
口から溢れた。
もうすぐ。会えなくなる。
少しでも。一瞬でも。一緒にいられたらと願うけど
もう。終わらせないと。
沢山の幸せの残骸が胸を締め付け、
脳裏をよぎる。
縋っても無駄な事は承知の上で。
またね。
いつか。また。