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Honesty(誠実)とは〜皮肉のいちご大福〜(統合失調症と診断された私が、結婚・出産し、公務員になった話その37)

怒涛の年末が終わって、正月も明け、ほっとしたのも束の間、今度は怒涛第二弾の年度末が着々と近づいている。

1月から3月までの、いわゆる第四四半期を、私は好いている。3月末にはこのメンツでの課の仕事が終わるという感慨深さを感じながら、残り3ヶ月をしんみりと過ごす。そして新しい年度に思いを巡らし、桜が咲く頃のフレッシュな感覚を少しだけ蘇らせる。感慨深さとちょっとの寂しさと愛しさと切なさと心強さと←小室世代w、新しい幕明けの期待に胸が高鳴る、そんな第四四半期が、私はたまらなく好きだ。

最近、ビリージョエルの「Honesty」を聞き返している。

以下、私なりのオリジナル要約歌詞
(正確な歌詞を知りたい方は上記のYouTube動画を見るか、Google先生に尋ねてみてね)

優しさも

生きるために必要な愛も

恋人だって友達だって

思うより簡単に、容易く手に入る

だけど、Honesty(誠実さ)は?

一朝一夕にはものにできない

Honesty(誠実さ)とは、なんて孤独な言葉

みんな不誠実なのだから

簡単には手に入らないのだから

容易い優しさよりも愛よりも

私に誠実さを、見せてください←ここはほんと私の意訳

仕事をすることとは、誠実さを磨くことと同義なのではないかーー仕事帰りの車中で、ビリージョエルの歌声に聴き惚れながら、私は自らの仕事振りと、周りの人とのやり取りを振り返る。人のことを偉そうに言える立場ではないが、自分よりずっとベテランのはずの上司にも、誠実とは言えない人は数々いる。

Honesty(誠実さ)…それは一朝一夕には身につかないものだ。まだ幼い子どものような人が、容易く習得できる性質のものではないだろう。ある程度成熟しなければ、本当の誠実さは、発揮できないかもしれない。優しくしてくれる友達や甘言蜜語を囁いてくれる恋人は簡単に手に入れられても、自分に本当に誠実に接してくれる人は、そうそう巡り会えない、貴重な存在なのかもしれない。

「見た目に騙されない。わかりやすいパッケージに騙されない。」。私は、そう決意した瞬間がある。それは、私の二人の上司を比べた瞬間である。仮にその二人の男性上司を、たかおとまるおと名付ける。特定されたらまずいので、詳細なプロフィールは伏せるが、たかおは、ガハハと笑うような豪快な男、まるおは物静かな孤高の男というキャラクター設定である。たかおは仕事そっちのけ、いつも誰かに話しかけて、ガハハとみんなで笑っている。豪快で楽しいキャラクターだから、人脈も広いし、一見するとたかおを慕って生きていけばいいと思うかもしれない。物静かで、余計なおしゃべりはせず、黙々と役割をこなすだけに見えるまるおは、見向きもされないかもしれない。

しかし、私は見ている。ちゃんと人を見極めている。物静かなまるおが、私にさりげない助け舟を出してくれることもちゃんと見ている。恩を着せようとはけしてしないが、まるおがサポートしてくれているのをちゃんと見ている。しかし、私を甘やかし過ぎず、お前がやるべきことはやれよ、と、線引きはして、時に厳しいこともちゃんと見ている。それに引き換え、たかおが自分の仕事をろくにやらず、今までそうやってきたものだからやれることが少なく、いつも部下に仕事を下請けしてきたり、すぐ部下を頼りにしてくることもちゃんと見ている。そして自分が頼りにしたのに、そのことで部下がミスすると、こっぴどく怒鳴ることも、ちゃんと見ている。私と共同で行った業務の、1,2割しか自分がやってないのに、私に恩を着せてきたことも、ちゃんと見ている。人に汗水かかせて、自分はスマホをいじりながら他部署の知り合いのところに逃げに行ってるのも、ちゃんとちゃあんと、見ている。

ある研修に参加した時のことだ。研修の最後になって、「なんと、参加した皆さんにサプライズがあります❗️」と、講師が満面の笑みで、私たち参加者に説明を始めた。「なんと❗️所属する部署のあなたたちの上司から、激励メッセージを預かっています‼️」参加者ひとりひとりの直属の上司からのメッセージカードを受け取れるというのだ。私は、物静かなまるおからのメッセージを期待した。例え言葉は少なかったとしても、まるおからのメッセージは、自分にとってとても有益なものになると思ったからだ。……しかし。メッセージカードは、たかおからのものだった。拙い文字で、数少なく、ぽつり、とメッセージが書かれている。仕方なく書く羽目になったことが伝わるような、何とも味気のないメッセージだった。私のことを、きちんと見ていたり、認めてくれたりしているわけではないことも、内容から伝わってくる。周りの参加者の上司は、きちんとその人を見ているようで、びっしりと、その人とその上司にしかわかり得ないようなエピソードや苦労話を交えて、心のこもったメッセージを書いてもらえているようだ。私は心底泣きたかった。本当はまるおに、数少なくとも、何かお言葉を頂戴したかった。「皆さん、研修が終わったら、まずはメッセージをくれた上司に、お礼を言いましょうね〜😊」講師はそうにこやかに言い、その他の参加者たちは、ほくほくと嬉しそうに研修室を後にしていた。

研修から戻ると、課にはたかおの姿はなかった。早退したらしい。とりあえず明日、形ばかりでもお礼だけはしなくては…定時まで仕事をし、帰路に着いた私は、帰りの車中から終業間近の和菓子屋の明かりを見つけた。……本当は心からの感謝なんかしていない。だけど……私は、和菓子屋に車を停め、小さな店内を見渡した。すると、賞味期限が本日であることから、20%オフになっている、いちご大福を発見した。私はそれを一個買うことにした。明日、たかおに渡すとなると、賞味期限は1日過ぎたことになる。それがささやかな復讐だろうか。私はそのいちご大福を渡しながら、たかおにお礼を言うことを決めた。

「たかおさ〜ん、びっくりしましたよー‼️本当にありがとうございやした〜」次の日、私はたかおにいちご大福を渡しながら、メッセージカードのお礼を言った。たかおは明らかに驚いていた。自分の粗末なメッセージに、品物付きで丁寧なお礼を言われるとは、予想だにしなかったのだろう。「お、おう…」明らかに戸惑いながらも、たかおは私からのいちご大福を受け取り、昼休みには食していた。昼休み後は、いつもより私に口数が多く、大層機嫌を良くしたようだ。賞味期限1日切れのいちご大福…私はたかおにとっての、そして私にとっての、「誠実さ」とは何かと考えた。そして、まるおが、私に、本当の誠実さを、差し向けてくれていることも。

見た目に明るい、わかりやすい人だけが、慕うべき人だとは限らない。見た目に優しい、コンパクトな愛をくれる人だけが、大事にするべき人だとは限らない。見た目に騙されない。わかりやすいパッケージに騙されない。わかりづらい、自分にとって影になってくれるような人こそ、本物の誠実さを差し向けてくれることもある。

たかおに賞味期限切れのいちご大福を渡してしまった私だが、せめて、自分に誠実なまるおのような人には、いや、仕事で携わる全ての人たちに、誠実な自分でありたい、と、遅ればせながら考えた。ビリージョエルの「Honesty」を車中で聴きながら、私は反省をした。正職員になって4月で4年目になる。これまでの期間、果たして私は仕事に対して、本当に誠実であっただろうか。仕事で携わる人々に対して、本当に誠実であっただろうか。これからの職員人生、まるおのように、私にはできるだろうか。「誠実さ」。それは一朝一夕にはけして身につかない。たかおのような無駄な日数を費やすのではなく、まるおのように、ひとつひとつじっくり年輪を重ねていかなくてはけして身につかない、本物の大人の特権だ。「誠実さとは、なんて孤独な言葉だろう」と、ビリージョエルが高らかに歌えば歌うほど、私は、できるのなら、人に対して誠実でありたい、本物の大人になりたい、と心から願った。私のような「おばさん子ども」でも、まるおのような本物の大人がすることを、ちゃんと見ている。Honesty。それはとても難しい。だけど、生涯をかけて得るかいのある、人間にとって持つべき貴重な宝石のようなものだと、私はまるおを見ながら、今日も思いを馳せていた。



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