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掌編小説または詩

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#超ショート小説

静寂

去年メキシコを旅したとき、シレンシオと呼ばれる場所に行った。もう長いこと、世界中の人たちから愛され続けてきたプレイスなのに、あいにくガイドブックには載っていない。

そこに何があるかって、ぬくぬくとした金色の日差しやよどみなく流れる澄んだ空気。躍動するリズムと旋律で落ちる滝の音。芳しい花の香りもあったかもしれない。とにかく言葉は失われるほどに、じっと感じ入り続けたいような、沈黙をため息で破ることし

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眼鏡

旅先のソウルで眼鏡を新調した。タダで検眼できるというので、軽い気持ちで見てもらったら乱視を指摘された。調整されたレンズで覗いた世界の鮮やかさに驚いて、思わず購入してしまったのだ。ずいぶんぼんやりと世の中を見ていたんだなと思った。休み明けに出社すると、斉藤さんが「珍しいね、さきちゃん」と新しい眼鏡を見て声をかけてくれた。あれ、この人、こんなやさしい表情するのだっけ、とびっくりした。

朝から目の前で

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