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世界の最高峰レストラン1000軒ランキング「ラ・リスト」@パリ・オルセー河岸外務省庁舎 フランスの週刊フードニュース 2022.12.05

今週のひとこと

世界の最高峰レストラン1000軒をランキングするガイド、フランス発の「ラ・リスト」。ミシュランからニューヨークタイムズ、トリップアドバイザーなど、世界中の600を超すガイドブックや信頼性の高いグルメサイトの評価を統合して計算し、世界すべてのレストランのランキングを行うものです。今年はモバイルのアプリケーションに、パティスリー部門も追加し、評価の高い店を検索できるというシステムも追加しました。

今年の「ラ・リスト」2023発表は、パリのオルセー河岸にある外務省庁舎にて開催されました。
外務省は、既存の建物を受け継いだのではなく、1844年から1856年にかけて外務省の庁舎のために建設されたものです。アレクサンドル三世橋を渡って、アンヴァリッド広場を目の前にした、セーヌ河沿の左にあるという立地。海外の君主や外交官の宿泊を目的としたため、ナポレオン3世様式の建物には贅が凝らされており、圧倒的です。

2015年末発表、フィリップ・フォール フランス観光開発機構理事が発起人で2016年から始まった「ラ・リスト」。エリゼ宮での発表も行われたことがあるなど、ガストロノミーの国フランスをあげた世界への挑戦でもあると思います。

今年のトップはスウェーデン・ストックホルムのFrantzén、アメリカ・ニューヨークのLe Bernardin、そしてフランス・パリのGuy Savoyで、Guy Savoyは2016年以来、1位の地位を守っています。日本勢は鮨さいとうが99点の同スコアの6軒とともに2位。あとは0.5点刻みで、岐阜の「柳家」はスコア98点。「ロジエ」、「茶禅華」は97.5点。パリの3つ星「レストラン・ケイ」は96.5点で、「嵐山吉兆」の97点につけていました。96.5点には日本の「龍吟」、「スガラボ」、蛎殻町の「すぎた」、名古屋の「にい留」などが続きます。1000軒のうち、数においては日本がトップ(139店舗)で、続いて、中国(129店舗)、フランス(107店舗)の順でした。https://www.laliste.com/

感動的だったのは、特別栄誉賞に輝いた89歳のミッシェル・ゲラール氏の存在でした。アラン・デュカス氏をはじめ、フランスを代表するたくさんの料理人たちを、技術的だけでなく精神的にも研磨したといっていいと思います。

南西地方Landes県の温泉地Eugénie-les-Bainsのホテルスパ「Les Prés d'Eugénie」のオーナーシェフであり、その中にあるレストランの1つを1977年からミシュランガイドの3つ星に導いているという稀有な人物。1代で46年連続は最も長い記録ですが、ご本人は昔から非常に穏やかで戦闘的な気質の全くない、自然体で生きている方だと思います。

20代前半で、パリのコンコルド広場にあるホテル「ル・クリヨン」のシェフ・パティシエとして名をあげていたことでも知られており、もともとは料理人ではなくパティシエからこの道に入り、1958年には25歳でMOF(フランス最高職人章)パティシエの称号も獲得。仕事の幅は、料理にも広げて、1965年、パリの郊外のあまりシックとは言えない工場地帯にレストラン「ポトフ」をオープン。美味しくて独創的な料理でもあり、一気に評判がたって、世界中からの客も訪れ、行列ができるほどだったそうです。当時は、ポール・ボキューズはもちろん、パリではアラン・サンドランスが頭角を現してきた頃で、ともに、ヌーヴェル・キュイジーヌを導くシェフたちの一人となったのでした。1969年にはミシュランガイドの2つ星も獲得。そののち、フランスのいくつものスパ施設を持つオーナーの娘であるクリスチーヌと出会って、結婚。彼女が任されていたEugénie-les-Bainsに活動の地を移すことになるのです。

当時は、もともと家業を継ぐ形で地方にとどまっていた料理人をのぞいて、パリで勝負する料理人が多く、ゲラール氏のように、忽然とパリから姿を消すということは、非常に珍しいことだったようです。そんな彼のあり方は、言ってみれば、今の時代の傾向を見通した先駆者ではなかったかとも思えるほどです。しかも当時、スパに足を運ぶお客様への健康を考えながら、おいしさを追求した「Cuisine Minceur/痩身のための料理」を編み出しています。

1990年代にアンリ・ゴー氏(ゴー・エ・ミヨの創始者の一人)のインタビューで、「フランス料理は今後どういう傾向になると考えているか」の質問に、彼はこう答えています。

「料理というのは新しければいいのではなく、根底にクラシックがあり、その上で時代とともに変わるものです。現在では、人は広範囲に動きますから、フランス料理にもイタリアとか、日本をはじめとする東洋、あるいはモロッコなどの北アフリカといった、各国各地の良いものを取り入れる必要があると思います。それと健康を意識した料理です」と答えている。30年前の言葉であるにも関わらず、非常に先見性があり、示唆的でしょう。彼の弟子の一人であるアラン・デュカス氏が、自然と健康に敬意を払った「ナチュラリテ」をテーマにした料理を展開したのは、偶然ではなかったのです。

2013年には、フランスとして初めての健康をテーマとした料理学校l'institut Michel-Guérardをオープンしたのも意義深いと思います。

「ラ・リスト」の表彰台でゲラール氏の語った言葉も感動的でした。手で生み出すことのできる料理という仕事が、いかに素晴らしいかということと、携わることのできたことへの誇りと感謝でした。二人三脚でホテル・レストランを築いた、亡き妻との出会いと感謝については、5年前に亡くなられたばかりで、いまだに心痛む出来事なのでしょう、触れることはありませんでしたが、この人生において、心に残る2つの示唆をお話くださいました。

1つはホテル「ル・クリヨン」に働き始めたころ。たまたまトロカデロ広場に立ち、シャイヨ宮を見上げたところ、そこに刻まれた言葉が、自分の仕事へのあり方を鼓舞したといいます。

Dans ces murs voués aux merveilles 
J'accueille et garde les ouvrages
de la main prodigieuse de l'artiste
égale et rivale de sa pensée
L'une n'est rien sans l'autre

素晴らしきものに捧げられたこの建物は、
芸術家の非凡なる手から生まれた作品を歓迎し見守る。
思考の中で納得と反駁を繰り返しして生まれたもの。
この繰り返しは、一方がなければ存在しない。

詩人ポール・ヴァレリーの言葉です。

そしてもう1つの逸話は「ポトフ」の時代。近くの蚤の市である料理の本を見つけたそうです。美しい挿絵が描かれたその本の著者はクリス

チャン・ディオールだったという驚き。同じ手仕事で道を築いた著名デザイナーの、料理人になりたかったというつぶやきが、手仕事への誇りを思い出させてくれる。一生手元に置く本となったとのことです。

「シュヴァル・ブラン」のパリとサントロペのシェフを務め、合わせてミシュランの6つ星を持つアルノー・ドンケル氏が、ゲラール氏から学んだのは「料理の中のポエジーだ」と語ってくれたのを思い出しました。



今週のトピックスは、今週のひとことの後に掲載しています。食の現場から政治まで、フランスの食に関わる人々の動向から、近未来を眺めることができると、常に感じています。食を通した次の時代を考える方々へ、毎週フランスの食事情に触れることのできるトピックスを選んで掲載しています。どうぞご参考にされてください。【A】「Accor」のさらなる伸長。【B】「ルレ・エ・シャトー」の新会長、新副会長。【C】MOF(フランス最高職人章)料理人称号を日本人が初めて獲得。【D】LVMHグループ、ホテル事業展開。

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