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をんごく

■ 感想

「をんごく」北沢陶(KADOKAWA)P256

盂蘭盆会の日が暮れる頃、紅提灯で足許を照らした子どもたちの列が前の子の帯を握り、歌いながら町を巡る。「おんごくやさしや やさしやおんごく 草のかげで 火をともす」。

大正12年9月はじめの大災害で妻を喪った壮一郎は、妻・倭子の死を受け入れることができず巫女に妻の降霊を頼むが、靄でもかかったように霊はうまく降霊せず「気をつけなはれな。なんや普通の霊と違ごてはる」薄闇の中で巫女は警告の言葉を繰り返す。

自らの死を理解できず、生者にも死者にもなれないまま狭間の世界を彷徨う魂を喰らうのっぺらぼう「エリマキ」と巫女の密子と共に、倭子の死の裏に隠された成仏できない原因を探る物語「をんごく」。

愛情・憎悪・後悔・感情の善し悪しに関係なく、見る人の心に一番深く根差した人の姿でその顔を映す「エリマキ」は、闇の中千年の孤独を生き、魂を喰らえど喰らえど満たされない空腹を抱えるが、倭子の禍々しさに包まれた得体のしれない魂はそんなエリマキにも喰らいきれないという。

あの世のものになれずこの世に還ることも叶わない死者の愛情や祈りは、捻じれた先で噴き上げる業火のような怨嗟となっていく。哀しくも愛で昇華された想いの残像が美しい本格怪談。

■ 漂流図書

■名作 日本の怪談 四谷怪談 牡丹灯籠 乳房榎

日本の怪談の恐ろしさの根底には湿度と粘度を伴った空気感と、今にも眼前に姿を現しそうで現れない怪異を想像することで膨らんでいく未視の恐怖があると思う。

禍々しい気焔を上げながらも奥ゆかしさを伴う情念の重さに心惹かれる。

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