漂流図書室 | 吉田あや

本を読んでいると知らない事新しく知りたいことが増え、本もまた増える。本から本へと寄り道…

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本を読んでいると知らない事新しく知りたいことが増え、本もまた増える。本から本へと寄り道しながら落ち着きのない読者としての日々を綴る漂流図書室です。たまに映画、ときどき音楽。

最近の記事

テルマエ・ロマエ1~6

■ 感想「テルマエ・ロマエ1~6」ヤマザキマリ(BEAM COMIX)P1154 排水の渦を通れば、そこは平たい顔族でした…。 建国から約800年、かつてなく豊かとなったローマを舞台に、ハドリアヌス帝最晩年の紀元128年から幕開けとなる一大お風呂エンターテメント。 連載当時に読んだ時より少しだけローマ周辺の本を読んだことで更に楽しく、そしてもっと知りたくなったテルマエの世界。ローマのお風呂文化と、日本のお風呂文化。似て非なる部分がありながらも根底にある魂の共通点を探して

    • 絶景本棚3

      ■ 感想「絶景本棚3」本の雑誌編集部編(本の雑誌社)P256 今回も、開けど、開けど、載籍浩瀚。圧巻の本、本、本、の絶景に頬が緩みっぱなしとなる256ページの高鳴り。 アンティークのかわいい本棚に古書が詰まった、山崎まどかさんの絶景。吹き抜け天井まで本が詰まった本棚に、憧れの梯子が掛かった田口俊樹さんの絶景。しかも窓から富士山が見える二重絶景。断捨離を行って尚、一万冊の一軍本が並んだ、高橋和男さんの絶景。 三階建てのビルを書庫兼書斎にリフォームされた、古書マニアの書物蔵

      • 漱石全集を買った日

        ■ 感想「漱石全集を買った日」山本善行:清水裕也(夏葉社)P210 先ずも以って表題がすばらしい。漱石全集を買った日に何かあったのか、それとも買ったから何か起きたのか、変わったのか、それとも。想像される広がりだけで楽しく、何が語られていくのか最初の扉を開く前に心はもう持っていかれていた。 古書店善行堂店主・山本善行さんと、お客さんの清水さん。大好きな古書を通して世代も立場も関係なく、ただひたすらに古書を愛する者同士として結びつき、共に本の中へ潜り、本から潜り出て心を通わせ

        • サザエさん 2023 秋(AERA増刊)

          ■ 感想「サザエさん 2023 秋(AERA増刊)」長谷川町子(朝日新聞出版)P124 年4回テーマに沿ったサザエさんがよりぬきで掲載されて¥480と感動の超特価・季刊誌。アニメで知ったサザエさんを原点である四コマ漫画で読む新鮮さと、現代に寄せたサザエさん一家とは性格の違いがあるところも楽しい。 より庶民的な磯野さん一家で、マスオさんはチラホラと昭和の旦那さん風味が漂っているけれど、ノリスケさんは全く変わりなく飄々とぶれることのない適当さでなんだかうれしい。 マスオさん

        テルマエ・ロマエ1~6

          向田邦子の恋文

          ■ 感想「向田邦子の恋文」向田和子(新潮社)P141 なんと見事な人だろうか。知れば知るほど魅力が溢れ出す向田邦子という人の途方もない格好良さに、本を閉じて暫し惚ける。 向田邦子が亡くなった昭和56年。姉の遺品整理をしていた妹である著者・和子さんが母から託された茶封筒には、姉とその愛する人であったN氏との手紙と日記が入っていた。数年後に開封したことを端緒に和子さんが謎多き姉・邦子を回顧していく。 人生の節目節目にいつも傍にいて妹さんを支え、守っていた向田さん。妹さんだけ

          ビブリア古書堂の事件手帖Ⅳ~扉子と継がれる道~

          ■ 感想「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅳ~扉子と継がれる道~」三上延(KADOKAWA)P320 夏目漱石「鶉籠」の初版本を端緒に、昭和・平成・令和と三つの時代を巡る今回の事件手帖。 事の始まりは太平洋戦争の末期1945年に若宮大路に開店した貸本屋「鎌倉文庫」。その貸本屋は、中心メンバーとして、高見順、久米正雄、川端康成、中山義秀など、当時鎌倉に住んでいた文士たちがそれぞれに蔵書を持ち寄り、知人友人にも広く声をかけて集めた貸本屋で、夏目漱石の蔵書印が入った初版本や、永井荷風「

          ビブリア古書堂の事件手帖Ⅳ~扉子と継がれる道~

          不機嫌な姫とブルックナー団

          ■ 感想「不機嫌な姫とブルックナー団」高原英里(講談社)P170 19世紀後半の作曲家、ヨーゼフ・アントン・ブルックナー。ショパンやヴァーグナー、ブラームスなど華々しい十九世紀ヨーロッパ音楽界に於いて地味な印象のあるブルックナーの生涯を織り込みながら、ブルックナー団こと熱いヲタク視点でその人柄と音楽性を展開していく。 「イタい人」と評されることの多いブルックナーその人を反映するように音楽性も野暮ったいところがあり、女性ファンが少ないとされる演奏会で、ゆたきに「女性ファンか

          不機嫌な姫とブルックナー団

          しんがりで寝ています

          ■ 感想「しんがりで寝ています」三浦しをん(集英社)P304 雑誌「BAILA」に連載したエッセイの第二弾。毎回「まえがき」からエンジン全開なしをんさんだけれども、今回はいつも以上に勘所多発注意なので、外出先と飲食を伴う場合は要注意。ふいを突かれて大惨事が大いにありな本書は「十年一日ぶりが極まっていて、時空を歪ませるほどの力に満ちたSF的エッセイシリーズ」と壮大だ。 始まりは遡ること新元号発表前日。タクシーに乗ったしをんさんは運転手さんと新元号の話になり、運転手さんは「タ

          しんがりで寝ています

          乱歩殺人事件ー「悪霊」ふたたび

          ■ 感想昭和8年、かつて横溝正史も編集長を務めた雑誌「新青年」で、暫く休養していた江戸川乱歩の本格的探偵小説が連載開始、しかも初の長編連載となれば否が応でも期待は膨らむ。編集部も歓びに沸き、連載開始を煽る予告文が毎月紙面を賑わせていた。 「今度こそ!いよいよ四月号から連載できさうである。」 「本号から連載予定の長編は遂に間に合はず。次号を待たれよ」 しかし次号にも乱歩の名前はなく 「いよいよ氏も重かったお尻をあげた。来月号誌上で多分吉報の予告をあげることができよう」

          乱歩殺人事件ー「悪霊」ふたたび

          作りたい女と食べたい女(1)~(5)

          ■ 感想「作りたい女と食べたい女(1)~(5)」ゆざきさかおみ(KADOKAWA)P846 小食だけれど沢山作って食べてもうのが夢だった野本さんと、見る人を魅了する食べっぷりの春日さん。同じマンションに住んでいたふたりが食を通して交流を深め、ゆっくりと心を通わせていく愛おしい世界。LGBTQや家族など様々な現代の悩みや難しさを丁寧に優しく包み込むように描いていく物語は、分かったつもりにならないことの大切さを登場人物たちの温かさで導くように教えてくれる。 好きという感情に定

          作りたい女と食べたい女(1)~(5)

          柳香書院版 陰獣

          ■ 感想「柳香書院版 陰獣」江戸川亂歩(東都我刊我書房)P116 横溝正史が編集長だった頃の雑誌「新青年」で復帰作として発表された「陰獣」。発表当初、甲賀三郎などに敢えてはっきりとさせなかった結末を批判されたため1935年刊行の柳香書院「柘榴」で再録した際に結末を書き改められたが、乱歩としては矢張り当初の形の方がよいと考え、1946年鎌倉文庫刊行の「鏡地獄」への再録以降は原形に戻された。 大好きな「陰獣」の書き改められた版もいつか読みたいと思っていたので、柳香書院版のテキ

          陰獣

          ■ 感想「陰獣」江戸川乱歩(春陽堂)P191 お人よしで善人な探偵小説家・寒川が、悪夢的で忘れがたい白昼夢のような事件の全容を回顧し語っていく、耽美で倒錯的な愛憎のミステリー。 訪れた博物館で寒川は、睫毛の長い夢みるような眼差しと、人魚のように優艶な膚を持った自著の愛読者であるという美しい女性・小山田静子と出会い、心配事を打ち明けられたことを発端に恐ろしい事件へと導かれていく。ある日静子の元に実業家・小山田六郎の妻となる前の女学生時代に恋の真似事をした相手・平田一郎から、

          陰獣

          ■ 感想「陰獣」(原作)江戸川乱歩(脚本)竹内一郎(漫画)吉田光彦 (春陽堂書店)P176 「一寸法師」で自己嫌悪に陥り一年強の断筆をし放浪の旅に出ていた乱歩が、復帰作として横溝正史が編集長を務める「新青年」に寄稿した「陰獣」。 物語は探偵小説家・寒川が自身著作の愛読者であるという実業家の妻・小山田静子と偶然行き逢ひ、相談を持ち掛けられたことに始まる。静子は女学校時代、探偵小説家の大江春泥と恋仲だったが、恋の真似事を楽しむだけですぐに別れを告げた。しかし想いの残る大江は恋

          内田百閒(別冊太陽スペシャル)

          ■ 感想「内田百閒(別冊太陽スペシャル)」(平凡社)P159 内田百閒好きにはたまらない最高の特集号。百閒の作品でも特に人気がある珠玉の七作「冥途」松浦寿輝さん、「残月の行方」恩田陸さん、「南山寿」古井由吉さん、「東京焼盡」佐伯一麦さんなど、思い入れのある作品への寄稿がどれも秀逸で、名立たる作家陣の百閒愛に共感と歓びが込み上げる。 <百鬼園鉄道紀行>では、シリーズでお馴染みのヒマラヤ山系さんや、夢袋さん、御当地さん、状阡君たちが写真付で紹介されているのも、阿房列車がより鮮

          内田百閒(別冊太陽スペシャル)

          バーナード嬢曰く。(7)

          ■ 感想「バーナード嬢曰く。(7)」施川ユウキ(一迅社)P152 久しぶりのド嬢新刊、うれしい!あの図書室でまたいろんな本の話が聞けると思うだけで幸せで満たされる。今回も大好きな本や、読んでみたいとリスト入りする本が沢山。 その中でも一番読みたくなったブラッドベリ「刺青の男」。ブラッドベリは何冊か読んできてどれもすごく面白かったから面白さは間違いないと確信できる上に内容が、全身に彫られた刺青が動き出して18の物語を演じる短編集なんて面白くないはずがない。読む前なのに既に名

          バーナード嬢曰く。(7)

          芥川龍之介の桃太郎

          ■ 感想「芥川龍之介の桃太郎」芥川龍之介(画)寺門孝之(河出書房新社)P48 ある深い山の奥、大きな桃の木が一本あった。その木の枝は雲の上に広がり、根は大地の底の黄泉の国にさえ及ぶほど大きく、世界の夜明け以来一万年に一度花開き、一万年に一度実をつける。核のある所には美しい赤児を一人ずつ孕み、一千年の時を経てある寂しい朝運命は一羽の八咫烏となり、その実を一つ遥か下の谷川へと落とす。 その実を拾いしは、川に洗濯へと出かけた彼のお婆さん。桃より生まれ腕白過ぎた故にお爺さんとお婆

          芥川龍之介の桃太郎