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ほんとうは大好きだった

今日、はじめて訪れるパン屋さんに行った。
とても人気のパン屋さんで、お店の前に行列ができていたので並んでいると、お店の中で小さなワンコが飛び跳ねていた。

先客の連れ犬かな?

と思って眺めていると、買い物が終わって出てくる人と一緒に、そのわんこが飛び出して来て私の前の人の横をすり抜けて、私の膝に前脚タッチをして、またお店の中に戻って行った。

先客がお店の中から慌てて犬の名前を呼んでいたので、その人のわんこは人懐っこいなあと思っていたのだが。


なんとその先客は、パンを買って犬を置いてお店を出て行った。



あんなに自分の犬風だったのに(笑)


なんとそのわんこはお店の飼い犬で、私がお店に入るとまたやって来て、私の手に前脚タッチをしてくれた。

なんという大歓迎っぷり(笑)


犬は苦手じゃないですか?
とお店の人に気遣われて、
動物、好きなんですよ。
と答えたときに、ふと気がついた。

私は、自分の事を動物が苦手な人なのだと、ずっと思っていた。


子どもの頃に親にお願いして、インコを飼ったことがある。
けれど、母は動物が嫌いで、私が鳥に触るたびに、病気が移るから手を洗いなさいと強く言った。

インコと遊ぼうとするたびに、母にはそう強く言われて、おまけにインコに指を噛まれて。
せっかく手乗りにして遊びたかったのに、どんどん触る気がしなくなり、とうとう私はインコの世話をするのもやめてしまった。


そしてインコは母が文句を言いながら世話をする羽目になったが、結局可哀想な状態で死なせてしまった。

そのことは私の心につらい記憶として残った。


暫くして子犬を飼おうとした時も、母は反対だったが父が賛成してくれて、家に連れて帰ってきた。
けれど、夜になって寂しくて鳴く子犬が可哀想で、抱っこしようとしたら、母に抱き癖がつくから抱いたら駄目だと言われてしまった。

私は子犬の側に居て眺めている事しかできなかったが、それも早く寝なさいと叱られて、側にいることもできずに一晩中、哀しそうな子犬の鳴き声を布団の中から聞いていた。

翌日、あんなに鳴かれたらたまらないと母が父に文句を言い、結局子犬は返すことになった。


私は小さな生き物を育てる資格がない。


もしかしたら、そんな思いに縛られたかもしれない。


今、私はキンクマハムスターにちょびのすけという名前をつけて育てている。

私の腕とちょびのすけ

すっかり仲良しになって、すくすく元気に育ってくれて、私は周りの人にその溺愛ぷりを指摘されるほど、大切に大切に育てている。


ハムスターをお迎えしたいと思ったときには、怖くて怖くて勇気が出なくて、初めにお迎えしようと思った時から何ヶ月も悩んで、ちょうど決心したときに生まれたこの子を家にお迎えした。

心の傷があるからか、私なんかがちゃんと育てられるか不安でいっぱいで、うちに連れてきたあとも、小さなことでも不安で不安ですぐ泣いた。

ちょびのすけを育てることで、私の心が育てられた。
傷を負っていた心の痛みが、ちょびのすけと過ごす月日とともに、どんどん癒やされていった。

私はちょびのすけを育てることで、間違いなくちょびのすけに育ててもらっていた。



そうして、今日わんこと触れ合って思い出した。

そうだ。
私はほんとうは動物が大好きだった。
そして、動物にも好かれていた。


小鳥も子犬も飼うことに失敗した私は、隣の家の飼い猫と友だちになった。

猫を見かけると、暗くなるまで家の前で遊んでいたし、猫も私の帰りを家の塀の上で待ってくれていた。

マイカーを買ったら、その猫はいつも私の車の屋根の上にいて、母は車に傷がつくとイヤな顔をしていたけれど、私は嬉しくて毎日その猫と遊んでいた。


ある時は、友だちとドライブしていた時に、とある山の広場で野生のウサギにタッチされたことがあった。

友だちが少し遅れて車から降りて来ると、先に降りて広場にしゃがんでいた私の背中に、野生のウサギが近寄って来て、背中に前脚を乗せたとのこと。

その時私が、背中になにか触ったことに気づいて振り返ったら、向こうにぴょんぴょん跳ねて行くウサギの後ろ姿を見たという記憶がある。


とても嬉しい思い出だ。


そう。
私はほんとうは、小さな生き物が大好きだ。
動物が大好きだった。


何故、動物が苦手だと思い込んでいたんだろう。

そう不思議に思うくらいには、動物が好きだ。


ちょびのすけを見ていて思う。
ハムスターは人間なんかより何倍も清潔だ。

特にキンクマハムスターは、オシッコは決まったところにするし、フンも乾燥していて無臭だし、常に毛づくろいをして毛並みもツヤツヤ。


インコの時の心の傷を払拭するために、私はちょびのすけのお世話の前には手を洗うけど、お世話をしたあとは徹底的に手を洗わないと決めた。

それで万が一何かあっても本望だと思ったけれど、2年近く経った今でも、私はお腹も壊さず風邪ひとつひかず申し分ないほど健康で、多分これが私なりの、母に対する反抗期って奴だったんだろうなと思う。


こうしてひとつひとつ、
自分の価値観を取り戻してゆく。


動物が大好きな私が、
大好きな母に合わせていた価値観を、
自分自身の価値観に戻してゆく。


パン屋さんのわんことの交流でそんな事に気がつく。
それに気がつけただけで、
なんだか幸せな気持ちになった。