見出し画像

おばあゃんの白菜

そのおばあちゃんは
軽トラのような乗り物に
こぼれ落ちそうなほどの白菜を載せ
ミスターセンクスの前に颯爽と現れた

80代くらいだろうか
腰の曲がったおばあちゃんだ
作業服は土まみれで
冬でも少し日に焼けたように黒い

おばあちゃんはミスターセンクスに
お店に並べる前に白菜買わんかと
そう声をかけてきた

一瞬動揺したが
少し土がついた真っ白な白菜は
遠くから見ても
そのみずみずしさを感じる

だからそのおばあちゃんに言った
いくらで譲ってもらえますか

おばあちゃんは少し投げやりに答える
100円でいいやと

100円でいいやという投げやりな言い方
文字で書けば感じは悪いが
全く嫌な印象は受けなかった

本当はもっと高いんだけど
特別に100円でいいよという意図が
その投げやりな言葉から伝わったからだ

おばあちゃんから買った100円の白菜は
今までにないほどみずみずしく
素晴らしい歯応えと
素晴らしい味だった

100円でいいやという言葉が
その後何日も頭に残っている

100円の白菜を売って生計を立てる
農家という商売はそういうものなのだろうか

10個で1,000円
100個で10,000円
1000個売って100,000円である

10万円の収入から経費を引いたら
手元にいくら残るのかわからない
しかし確かなのは
10万円では生きていけないということだ

1000個の白菜を作るのに
どのくらい広い場所が必要で
どのくらいの期間がかかり
どのくらい労力が必要なのだろう

想像できないほど大変な作業で
想像以上に効率の悪いビジネスだと
素直にそう思ってしまった
本当に大変なお仕事だ

食を支えてくれている農家さん
おばあちゃんの曲がった腰は
長い農作業の影響なのかもしれない

ミスターセンクスは見逃さなかった
その軽トラには
メルセデスベンツのエンブレムがついていたこと

当然ながらベンツの軽トラはない
いつかはベンツという憧れなのか
手塩にかけた白菜はベンツでしか運べないのか

その理由をおばあちゃんに聞くことができず
ブランドジャンキーなセンクスとしては
後悔が残るところである

しかしそのおばあちゃんが
ファンキーな人生を生きているのは間違いない

いつまでも元気に頑張ってほしいおばあちゃんだった
次回会う時はメルセデスベンツのステッカーを
プレゼントしたいと思う

この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?