阿久沢牟礼

奇談を書きます。 以下の作家等が好きな方には恐らく楽しめる話となる、と思います。 星新…

阿久沢牟礼

奇談を書きます。 以下の作家等が好きな方には恐らく楽しめる話となる、と思います。 星新一、時雨沢恵一、内田百閒、ラファティ、ボルヘス、カフカ、コルタサル、コッパード、ペソア、クルジジャノフスキィ、円城塔、ウィトゲンシュタイン、永井均、寓話、民話。

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    以下の作家等が好きな人には恐らく楽しめる内容です。 星新一、岸本佐知子、時雨沢恵一、円城塔、カフカ、ボルヘス、コルタサル、ラファティ、永井均、西田幾多郎、ウィトゲンシュタイン

  • 書評

    書評をまとめます。以前記事を書いていた「シミルボン」のサイト閉鎖につき、しばらくは過去記事の再掲作業になりそうです。

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    試論よりもゆるい身辺雑記をまとめます。

  • 芥川賞を読む

    芥川賞受賞作を読みます。

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    書評でも小説でも身辺雑記でもないもの、主に哲学思想系の試論を載せます。

最近の記事

100 夜疽

 夜疽と呼ばれる病が流行っているらしく、調査の依頼で訪れた。  曰く、闇の濃い曇った夜や新月の夜に発症するらしい。  いくつものトンネルをくぐって渓谷沿いの国道を行くと当地に着く。  昼間なのに薄っすら暗い。  霧というほど濃くはないものの、靄のようなものが掛かって見通しも悪い。 「のようなもの」と言ったのはどうも普通靄と聞いてイメージされるようなそれとは違っているところがあるからだが、ではどう違っているのかと問われたところで具体的にこれと明言できない。ともあれ何かがおか

    • 【書評】デイヴィッド・ベネター「生まれてこないほうが良かった」

      【生まれてこないほうが良かった 存在してしまうことの害悪:デイヴィッド・ベネター:小島和男・田村宜義訳:すずさわ書店:2006】 序およびまとめ 「さすがに人間、哀れすぎでは」  ……と思わせられるような日々を送っていた当時、「反出生主義」について何か読んでみようと思い立って読んだなかの一冊。  結論から言うと、議論の前提に首肯しがたいところがあるので議論の全体についても首肯しかねる。  簡単に述べると、ベネターは「存在しない人」という存在者を想定することで存在するこ

      • 【美術館レポート】「大地に耳をすます 気配と手ざわり」東京都美術館

           デ・キリコ展のついでに行ったら、意想外によかった。  デ・キリコ展を見終えた折、出てすぐ左手で別の展示をやっている。  しかも、デ・キリコ展の半券を提示すると300円引きになるそう。  ほんの興味から立ち寄ってみた。 「大地に耳をすます 気配と手ざわり」  と題された企画展で、自然と関わりながら創作を続ける国内作家5人の作品が展示されているらしい。  全体の印象  初めに全体の印象を軽く述べておくと……そうだな。 「自然との関わり」というところに共通点を持ち

        • 【美術館レポート】「デ・キリコ展」東京都美術館

           満を持して、デ・キリコ展。  前回デ・キリコ展を見ようと思って上野まで足を運んだ際には偶然にも東京都美術館が休館だった(確認不足、とも言う)。  私生活においてもちょっとした「カフカの城的状況」に巻き込まれていたのだが、そちらは曲がりなりにも城に到達したところだった。  今回再訪してみたところ無事開催していたので、こちらも城に達する形となった。  案外と、目指していれば城には着くものらしい。  満を持して、デ・キリコ展。  満を持していた折に山田五郎氏のYouTub

        100 夜疽

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          【美術館レポート】鎌鼬美術館および旧長谷山邸

           母の実家に久々に遊びに来た折、どこか面白そうなところはないかとグーグルマップを見ていたところ、見つけた。 「鎌鼬(かまいたち)美術館」  どうも土方巽(ひじかたたつみ)なる舞踏家が当地を訪れ、現地の人々を巻き込んでほとんど奇行と紙一重の踊りを踊ったそうで、その様子の撮影された写真集「鎌鼬」は日本国内に留まらず、海外にも名をとどろかせることになった、という経緯があるらしい。  当館はその「鎌鼬」を記念したもので、なかには「鎌鼬」所収の写真や、初版本、関連の品などが収めら

          【美術館レポート】鎌鼬美術館および旧長谷山邸

          【美術館レポート】内藤礼「生まれておいで 生きておいで」東京国立博物館

          本当はデ・キリコ展に行きたかったのですが……。  早めに着いたのでチケットだけ先に買っておこうと思い、改札出てすぐのチケット売り場に向かうのだが、そこで「デ・キリコ展」もとい「東京都美術館」が休館中であることを初めて知る……。  K氏到着後。  まさかの休館です、どこへ行きましょうか、と。  西洋美術館でも行こうかと思ったのだが、内藤礼なる芸術家の企画展に興味があるとのことで、東京国立博物館(以下、東博)へ向かうことに。  内藤礼。  平成館、本館、本館の休憩所的な所、

          【美術館レポート】内藤礼「生まれておいで 生きておいで」東京国立博物館

          99 平等の実現

           この世界において、人類は小型の恒星を中心とした仮想球面上に満遍なく配置されている。  厳密に等しい距離を取ることにより個々人が十分なパーソナルスペースを保持し、かつ相互間における言葉のやり取りを遮断するという効果が見込まれる。これは空間の略取および言説による思想誘導、ひいてはヒエラルキー構築の危険を回避するために必要な措置となる。  人類に必要な食料を生産するための土もまた人類の数だけ空間上に等間隔に配置されている。牛を生む土地、豚を生む土地、米を生む土地、麦を生む土地

          99 平等の実現

          【書評】アルフレッド・エドガー・コッパード「郵便局と蛇」

           悲しみを寄せ付けない孤高の絶望 アルフレッド・エドガー・コッパード「郵便局と蛇」を読んだ。短編集だが、ほとんどの話がバッドエンドだった。  バッドエンドばかり選んで編まれた短編集なのかと思い、解説を読んでみても特別そんなことは書いていない。以前「天来の美酒/消えちゃった」を読んだときはあまり意識しなかったのだが、思い返せば確かにそれらにも悲劇的な結末のものが多かったような気がする。愛する人を失って悲嘆にくれる姫とか、忽然と姿を消してしまう人々とか。喪失や悲哀は、コッパード

          【書評】アルフレッド・エドガー・コッパード「郵便局と蛇」

          【美術館レポート】「三島喜美代―未来への記憶」 練馬区立美術館

           練馬区立美術館で行われている三島喜美代の個展に行ってきた(会期は2024年、5月19日〜7月7日)。  美術にそこまで詳しいわけではなく、三島喜美代の名も初めて知ったが、新聞紙、段ボール、空き缶といった身近なもの、特にすぐに捨てられるようなゴミを題材に美術作品を作っているというところに興味を惹かれた。  例えば、くしゃくしゃになった新聞紙がある。  あるいは、つぶれた空き缶がある。  また、ひしゃげた段ボールがある。  これらの作品はすべて陶製で、遠目から見ると本物

          【美術館レポート】「三島喜美代―未来への記憶」 練馬区立美術館

          【書評】山尾悠子「飛ぶ孔雀」

          #読書感想文 「ものが燃えにくくなる」という災厄に見舞われた土地で起こるあれこれの話。  国土地理院の男。  火を運ぶ儀式。  路面電車。  タバコ屋。  川中島Q庭園での茶会。  増殖する石。  大温室。  カードゲーム。  奇妙な双子。  飛ぶ孔雀。  ロープウェイ。  ダクト屋。  大蛇。  掃除屋。  くじ引き。  その他諸々。いくつもの挿話が断片的に語られていくが、全体として一貫した筋らしい筋はない。かといってそれぞれが完全に独立した短篇というわけでもなく、登場人

          【書評】山尾悠子「飛ぶ孔雀」

          【書評】安部公房「水中都市 デンドロカカリヤ」

          #読書感想文 「デンドロカカリヤ」が読書会課題だったので再読。再読する前までは、単純にイメージの喚起が素晴らしい短編だと思っていた。しかし読み返してみると意外とメッセージ性がある。  安部公房を手放しで称賛したくならないのは、「巧みさ・器用さ」にある。労働者の悲哀、都市生活者の悲哀、貧乏人の悲哀、など当時社会的に受け入れられやすいような何らかのテーマ性を、誰にでも分かるように入れ込みつつ、上手いこと不条理文学を組み立てている、という感がある。  この種の器用さは、例えばカフ

          【書評】安部公房「水中都市 デンドロカカリヤ」

          【書評】上田岳弘「ニムロッド」

          【ニムロッド:上田岳弘:講談社:2019:第160回芥川賞受賞作】  ほんの数十年生きているだけで目まぐるしく技術が革新されていくなかで「昔はどうしていたんだろう」的想像というのは事欠かないが、昔は昔でよろしくやっていたのだろう。  今は今で昔と比べて幸せになっているかというと一言で答えは出ず、そもそも幸福の尺度そのものが変容を遂げていく。  その種の技術革新そのものが幸福の尺度を変容させる、と言うべきかもしれない。冷蔵庫が開発されると「冷蔵庫がないと生きていけない世界」

          【書評】上田岳弘「ニムロッド」

          【書評】ビジュアル・シンカーの脳:テンプル・グランディン

          #読書感想文 【ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界:テンプル・グランディン:中尾ゆかり訳:NHK出版:2023】  YouTubeチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で紹介されていて気になった本。 ものごとを考える仕方は大きく分けて二つあり、それが「言語思考」と「視覚思考」である、とのこと。  そして「視覚思考」のなかでも「物体視覚思考」「空間視覚思考」という二種に分かれており、前者は美術や空間把握が得意、後者は数学が得意、といったように個々人の能力の方向性にも

          【書評】ビジュアル・シンカーの脳:テンプル・グランディン

          【書評】村上靖彦「摘便とお花見 看護の語りの現象学」

          #推薦図書  最近母親を在宅で看取った。  末期の肺がんだった。  在宅での緩和医療に切り替えた時点ではまだ自分で立って歩くことができていたのだが、次第にそれも難しくなり、やがて寝たきりになり、筋力も弱り、寝返りも難しくなり、譫妄の度合いが増し……といった具合に次第に弱っていくわけだが、その時々において必要なケアというのがある。  訪問看護師はその時々に応じて必要なケアを行い、場合によっては訪問医師、訪問入浴、介護用品レンタル、ケアマネ等にその場で連絡を取り合って物品調達や

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          【書評】谷崎潤一郎「陰翳礼賛」

          #読書感想文 【陰翳礼賛:谷崎潤一郎:青空文庫】  西洋文明によって抹消されかかっている日本的美意識を、陰翳に焦点を当てて回顧的に語ったエッセイ、といったところ。  著者の作品は吉野葛くらいしか読んだことがない。あの作品で最も印象に残っているのが、山あいの寒村で主人公が食べた「熟柿(じゅくし)」にまつわる描写で、場面や状況と混然一体となった微細な描写が卓越していた。本作も作家の鋭い感性で日常の物事が有機的に、微細に描写されており、引き込まれる。  寡読ながら、谷崎という

          【書評】谷崎潤一郎「陰翳礼賛」

          【書評】沼田真佑「影裏」

          【影裏:沼田真佑:文藝春秋:2017:第157回芥川賞受賞作】  岩手に赴任した「わたし」と、その唯一の友人である同僚の日浅との関係が描かれる。釣り仲間として竿を並べる日々が過ぎ、突然会社を辞めた日浅は互助会の営業活動にいそしむ。それとなく疎遠になったり、また相見えたりしながら微妙な距離感のもとに付き合いを続けていくのだが、それも震災以降ぱったりと途絶えてしまう。  行方不明となった日浅の消息を辿ってわたしは実家を訪れ、父と子の確執を知る。  その他多くの芥川賞受賞作の例

          【書評】沼田真佑「影裏」