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以下の作家等が好きな人には恐らく楽しめる内容です。 星新一、岸本佐知子、時雨沢恵一、円城塔、カフカ、ボルヘス、コルタサル、ラファティ、永井均、西田幾多郎、ウィトゲンシュタイン
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記事一覧

98 繰り延べられる町

 一方の端がどこにあるのかもわからない長大な城塞の、もう一方の端は今なお繰り延べられてい…

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97 願いを叶える

 長い歳月と、筆舌に尽くしがたい艱難辛苦を経て、ある男がついに上位存在のもとへたどり着い…

3

95 理性と倫理

 自転車でたまたま通りかかった公園で、遊んでいた父と子がいた。  子のほうはまだ三歳前後…

4

94 衣裳哲学

 スーツが仕事に出掛けてから、寝間着は布団に入って二度寝を始めた。  部屋着は身支度を整…

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92 これはパイプではない

 エレベーターに乗ってすぐ、下の階で止まった。  乗り込んできた住民は犬を連れている。 …

3

91 人の一生

 人の一生が機械に置き換えられてから、人の一生は人の一生が置き換えられた機械を観察するこ…

4

89 旅館の絵

 絵は初め、階段の踊り場に掛けられていた。  チェックインを済ませ、荷物を下ろし、浴衣に着替え、さっそく一風呂浴びようかと浴場へ向かう途中で目にしたのだが、どこか惹かれるところがあった。  半身がフレームの外に見切れている鹿の尻を追うようにして、右手から子どもが駆けている様子が描かれている。  その子どもの表情がなんとも言えない。笑顔ではあるのだがどことなくまぶしそうな、恍惚としたところもあり、見方によっては悲しそうにも見える。うっすらと身体の輪郭が透けるようなワンピース

88 魚道

 自転車でたまの遠出に普段行かないような山奥を目指したのだが、谷合のゆるやかなのぼり坂を…

1

87 絶滅文化論Ⅲ「笑い」 序論

 失われたわれわれの風習の一つに「笑い」がある。この概念にまつわる具体的なイメージを想起…

7

86 高等応用魔法講義序文 ―家事魔法の妙味―

 例えば「ガラス表面の手垢を除去する魔法」や「本のページをめくる魔法」といったものは魔法…

2

85 計画主義

 われわれの生は限られているため、限りある生を最大限有意義に過ごしたければ、それなりに物…

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84 ボーリング

 特別やりたいとも思わないものの、たまに友人知人と集まった折にちょっとやって行こうかとい…

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83 九頭

 われわれは実際、存在の形態として空間のある任意の座標を常に占めている。われわれの占めて…

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82 とある殺人者の理知的な供述

 私、つまりこの人間は喜んでいるようだった。その証拠に、心拍数が増加し、血流が促進されている感があった。加えて言うと、一般的に楽しいと言われるべきことを行なっている状況において感覚の通奏低音を成す、あの、ありていに言うと「わくわくする」というような感覚が看取されるところがあった。  それとは別のところで、「罪の意識」あるいは「良心の呵責」とでも呼ぶべき、忌避感を伴う感覚も当然のことながら生じていた。  しかしそうした、一般的には「負の感覚」として腑分けされるべき感覚は、む