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煮え切らないお父さん

「昼休みニンゲン科学相談室」では、コミュニケーションや人間関係にまつわるちょっとしたお悩みのご相談に脳科学や心理学・コミュニケーション学等の観点からお答えしています。

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わたしのお父さんは2回目の定年(65才)を迎えました。

60才を過ぎた頃から次のキャリアのことを考え始めたのか、資格を取るために勉強をし始めました。医療経営コンサル、キャリアカウンセラーや、ビジネススクールにも勉強に行ってました。

すごいなぁと思いつつ、「何がやりたいの?」と聞いてみたところ、具体的にやりたいこともあるようです。「じゃあ、それはもう明日からできるね!」というと、「まずはこの資格の試験や研修が終わってから」とか「来年ぐらいからやりたいなぁ」という返事が。

息子から見ると、あまり健康でいられる時間もないのに、なんだか先延ばしにしようとしている風に見えちゃいます。

息子としてどうしたらいいでしょうか?

父と同時に退職を迎えた息子、より


ご質問ありがとうございます。
資格の勉強にビジネススクールにと、お父様は60歳を過ぎてからも新しいことにチャレンジをされているのですね。

「せっかく学んでいてやりたいことも具体的にあるのであれば先延ばしにするのはもったいない」「何か自分に後押しできることはないか」というもどかしい気持ちでご質問いただいたのかなと想像しています。


新しいことを始めるときに、知識やスキルを学んで「あの資格が取れたらやろう」と思うことってありますよね。でも実際に資格を取ってみると「まだまだ学ばないといけないことがある」と思ったりして。

人が新しいことに踏み出しきれないとき、多くの場合その障害となるのは「その人自身の心」です。これは「自信のなさ」とも言い換えられます。


例えばキャリアカウンセラーになりたいという場合、そのおおもとを辿ると「悩んでいる人の役に立ちたい」「自分の経験を誰かのために活かしたい」という想いがあるかもしれません。もしそういう想いを何か形にするのであれば、キャリアカウンセラーの資格を取らなくてもキャリアに悩んでいる人の話を聞くことはできますよね。

「○○があれば」「○○をしたら」という、条件が心の中に現れているときは、「それがないとできないと思っている自分がいる」ということに気づくことが大切です。できない理由・やらない理由は自分の外側にあるのではなく、自分自身がつくりだしているのです。

これまで長く企業に勤めてこられたのであれば、企業の看板がなくなった状態で誰かに必要としてもらえるのだろうかという不安もあるかもしれません。そんなとき、資格のような分かりやすいものが安心材料になるでしょう。しかし、結局のところ、最終的にそれをやるかやらないかは自分次第なのです。


とは言え、「自分の限界を自分自身が作り出している」ということに人はなかなか気づくことができません。仮にそれを誰かに指摘されて「そのとおりだな」と思ったとしても、だからと言って行動が起こるわけでもありません。

人の行動が起こるには、「安心」と「自信」の土台が必要だと言われています。組織の中でもそうですが、「自分はここにいていいんだ」「ちゃんと受け入れられている」という安心感、そして「自分にはできる」という自信があってはじめて、人は行動に踏み出すことができるのです。

自信がないうちは、どんなに効果的な解決策を提案したとしても行動が起こることはないでしょう。とは言え、初めて取り組むことはそもそも「できた」という経験がないので、自信も持ちづらいですよね。

そんなときには、これまで生きてきた中ではじめてのことに取り組んだ経験を聞いてみるのはどうでしょうか。なぜそれに取り組もうと思ったのか、何が大変だったか、どうやってそれを乗り越えたのか、なぜ諦めないで取り組み続けることができたのか etc...

今取り組もうとしていることは初めてのことだとしても、これまでの人生の中ですでに様々なことを乗り越えてきているはずです。その中には初めてのこともきっとあったでしょう。65歳を迎えられたお父様ならなおさら、きっとこれまで大変なことをたくさん乗り越えてきていらっしゃるに違いありません。

「できたこと」や「できること」は、自分にとってはそれが当たり前になっていて自分ではなかなか気づくことができません。そこにはその人ならではの強みや想いが隠れていますが、それにもやはりなかなか気づくことができません。

自分がどんな想いでどんなことをしてきたのかについてちゃんと言葉にする機会ってあまりないですよね。まずはそれを言葉にしてもらい、じっくりと聴き、伝わってきた相手の強みや想いを言葉にして伝えることは、相手が自分自身との信頼(自信)を取り戻して新たな一歩を踏み出すための力になるのではと思います。

不思議なのですが、人は「今の自分」を認められると、自然と次の一歩を踏み出そうという気持ちが起きてきたりもします。(安心・自信・行動の流れですね。)「やろうと思っているけれどできていない」という人に、ついつい解決策を提案したり課題を解決したりしてあげたくなりますが、できていることを探して「もう十分できている」「やっている」ということを伝えていると「もっとこういうことができるかも」ということが勝手に出てきたもします。

親子だとなかなか聞きづらいこと・伝えづらいことはあるかと思いますが「新しいことに挑戦しようとしている姿を見て、自分も頑張ろうと思った」など、自分が受けた影響を伝えることは、お父様にとってきっと大きな勇気になるのではと思います。


ところで…

あなたも退職を迎えられたのですね。ということはあなたも何か新しいことにチャレンジしようとされているのでしょうか。人は自分の見たくない面を他者の中に見たときにもやもやした感情や場合によっては嫌悪感のようなものが起きるとも言われています。まずはあなたが自分のやろうとしていることを形にしていくことで、お父様に対する感じ方もまた変わってくるかもしれません。

またぜひ、お話し聞かせてください。

                                                                              a w a i 佐藤 草


*個人的にいただいたご相談を元に相談者の許可を得て、ご相談内容を編集したものに回答を記載しています。通常のコーチングセッションでは、お悩みの相談をお受けすることやアドバイス・セッション内容の公開は行なっておりません。

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