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あわいをめぐる旅007 日本とオランダのあいだ –それぞれの旅路-


今年、と振り返るにはまだ早いが、これまでの10ヶ月間、日本から何人もの人がオランダを訪れてくれた。そうは言っても、平均すると2ヶ月に1人くらいのペースで、そうすると数えるほどなのだが、もともと知り合いが多くはない私にとっては「何人も」という感覚だ。中には数年来の知り合いもいれば、はじめましての人もいる。数日から数週間を我が家で過ごしていった人もいれば、食事やお茶を共に話しをしただけの人もいる。我が家に滞在する人とも、基本的には一緒に出かけるわけでも、食事を毎回共にするわけでもないので、朝もしくは夜にお茶を飲んで話しをするだけだ。

それぞれに、思い思いの時間を過ごして帰っていくが、それぞれに何かを見つけて帰って行っているように感じる。それはいつもと違う環境の中で過ごす時間が与える影響というのもあるだろうけれど、オランダまで来る飛行機の中で、変化や発見はすでに始まっているのではないかと思う。いや、もしかしたらそれは旅支度のときからなのかもしれない。

オランダもしくは欧州行きのチケットを予約するというのは一つの大きな決断だ。お金もかかるし、何よりも人生の貴重な時間を飛行機の中と異国の地で過ごすことになる。それを決めるということは、その時点で、何かを決めているのだろうと思う。

仕事を整え、荷物をまとめ、家を出る。そのときからもう眼に映るものがいつもとは違って見えているはずだ。私たちが外にある世界に見出す景色は、心の中の景色なのだと思う。

そして10時間を超えるフライト。ずっと映画を見ているかもしれないけれど、普段の生活の中のように流れゆく外的な情報に晒されない中で、心は少しずつ、静けさを取り戻していく。ここまで過ごしてきた時間を振り返るかもしれない。これからのことに思いを馳せるかもしれない。すでにいろいろな国の人たちが乗る飛行機の中で過ごす時間は、まぎれもなく、旅そのものだ。

今は飛行機を降りればまたどこでもすぐにWi-Fiがつながる。飛行機は、今、文明・情報化社会に生きる私たちのつかの間のdisconnected(つながらない)な場所なのだ。(最近では飛行機の中でもWi-Fiがつながるようになっているが、日常から非日常へとモードを切り替えていく貴重な場所が、必要以上に情報や他者とつながらないままであってほしいと切に願っている。)

そしてオランダの地に降り立つ。非日常の刺激があり、それでいて生命の危険を感じるわけではない。そんなバランスが、心を世界に開きゆらゆらと揺れ出すのにはちょうどいいのだろう。他者の期待や社会の慣習ではなく、自分の心が何に喜び、何を美しいと感じ、何を使命とするのか。そんなことに自然と気づいていくことになる。

帰りの飛行機でもオランダや欧州で過ごした時間のことを思い出しているはずだ。そこで得たものは何だったのか、手放したものは何だったのか、後になって気づくかもしれない。自分では気づいていなくとも、心の景色は更新されている。家に帰るまでの道のり、そしてそれから続く毎日も、それまでとは違ったものに見えてくる。そうして、人は、自分が、これまでもずっと旅人だったことに、そしてこれからもずっと旅人であることに気づくだろう。2019.11.3 Sun 10:49 Den Haag

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illustrated by HISAKO ONO


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