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散文:クロワッサンと明日
彼が頼むのはいつもクロワッサンだった。
焼きたてのクロワッサンとコーヒーを一杯。
いつもの注文を私はテーブルに運ぶ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「ごゆっくりお過ごしくださいませ」
彼はいつものように、パンを口に運びながら新聞を読む。
そして時折コーヒーを飲みながら、窓の外を見るのだ。
詩:深夜の迷い子、彼女の影
「もう朝だよ」
そう告げる彼女の瞳は気だるげで
どんな言葉をかけるのが正解なのかわからず黙り込んだ私を見て
彼女は淋しそうに笑った
自販機は常に正解を照らす
輪郭をなくした車はどこへ行く?
「明日も月がのぼるといいね」
彼女が去った街灯の下で私は、
詩:空と海の交差点で
空の海を飛ぶ車があると聞いた
くじらの背に乗った私は頬杖をついた
「空と海はおなじものでしょう?」
地面に咲いた花が水の中で揺れる
魚は空に羽ばたいて鳥は海を駆けめぐる
「たのしいね」
「でも なにかがおかしいような?」
短編:アンダーグラウンド
幼い頃から所謂、闇社会と呼ばれる場所に身を置いてきた。
理由は単純明快だ。
母親がその世界に身を置いていたからに過ぎない。
母親は情報を盗み出すのが上手いスパイだったと聞いている。
銃の扱いも慣れたもので、何人も人を殺していたらしい。
らしい、というのは母親を見たことがないからだ。
「シアネア」
名を呼ばれて隣を向いた。
「終わったら、飯でもどうだ」
口籠もりながら、それでも伝わる音