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「ノクターナル アニマルズ」

原題: Nocturnal Animals
監督:トム・フォード
製作国:アメリカ
製作年・上映時間:2016年 116min
キャスト:ジェイク・ジレンホール、マイケル・シャノン、エイミー・アダムス、アーロン・テイラー=ジョンソン

  冒頭の展覧会レセプション映像に一瞬「私は勘違いしてこの映画を択んだ?」と訝しがり、それはそもそも有り得ないことであるのは自明な為、何故この導入なのかと現代芸術という衣着せた、見方によっては暴力的な映像の真意を探りながら「一連が終わる」ことを待った。こうした体験は珍しい。

 ファッション界では既に知名度があるトム・フォードが監督となると衣装はじめ当然のこと細部にまでセンスは活かされている。

 主人公の一人スーザンはアートギャラリーオーナー。背景にはジョン・カリン、ジェフ・クーンズ、デミアン・ハースト、ジャック・ピアソン等多くの作品が散りばめられていて、成功を象徴したような邸宅は美術館の一部のようでもある。

 玄関から入ってすぐの壁に掛かっているリチャード・ミズラックの写真

 夫ハットン背後のジョアン・ミッチェルの作品

 スーザンの頭上に写るアレクサンダー・カルダーの彫刻*監督個人所蔵品

 一分の隙も無い満たされた生活は寧ろ空虚で生活感がなく、一方元交際相手から送られてきた小説草稿はフィクションでありながら此方の方が圧倒的に体温を感じる現実感がある。物語は彼女の現在と小説家である昔の彼と過ごした短い期間、そして虚構であるその彼が書いた小説の世界が織られていく。
 時系列はあちらこちらの時間に移動するわけでもなくシンプルであるし、ビジュアル的にも仮令ウトウトしたとしても見誤ることはない程世界が違う為、映画はミステリと呼ばれても謎を解くほどのことはない。

 小説の中では妻と娘を乗せた車のハイウェイ走行中の悲劇が展開する。この挿入される小説世界の逃げられない緊張感にフィクションであっても「起こりうる『逃げ切れない』世界」の怖さに掴まってしまう。

 この悪人役、特にアーロン・テイラー=ジョンソンの演技。

 保安官役マイケル・シャノンは見慣れた登場でありながら、気が付くと魅了していく。

 保安官ボビーが丁寧に描かれ、スーザンよりも印象を残す。
 マイケル・シャノン、アーロン・テイラー=ジョンソン、そして、ここに主役ジレンホールが入ると申し訳ないがエイミー・アダムス演じるスーザンの現在は空虚感というよりも影が薄い。彼女の世界「虚無感」あってのコントラストとして「小説世界」かもしれないが私にはバランス悪く映る。

 ジレンホールは小説家役では芽が出ない時期を演じるに留まり、多くが二役の一方である小説内の夫トニー役で魅せる。

 スーザンが見ているこの作品「復讐」が映画の主題の一つだ。
 既に書いているように邂逅シーンはあまり多く割かれていない中でスーザンがエドワードに「自分のこと以外を書くべき」と助言している。それであれば、この送られてきた小説の主人公は誰なのか、となる。reviewの多くはエドワードの弱さを小説内トニーに重ねて評しているが…、どう解釈すべきか分かれるところか。

 結末は陳腐でこれまで創り上げてきた世界が惜しい。
 タイトル写真の四人。観終わってこの四人であることに納得し、また配置にも頷ける。小説内の復讐劇を観るだけでも十分に楽しめる。
 17年前トム・フォードが「50年代のハードボイルドやフィルムノワールの時代精神と美意識に影響を受けている」の言葉はこの映画に生きている。
 *小説内描写もネタバレに近くなる為に殆ど割愛した。特に小説で描かれる最期は多くを示唆している。
★★★



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