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「エルネスト」

監督:阪本順治
制作国:日本・キューバ
製作年・上映時間:2017年 124min
キャスト:オダギリジョー、ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ、ジゼル・ロミンチャル

 エルネスト・チェ・ゲバラ:「ゲバラ」と云う名の知名度はフルネームを越えている筈だ。
 医師となるためにボリビアからキューバ国立ハバナ大学へ留学した一青年。
 折しもキューバ危機に遭遇しゲバラ氏に接する機会を持つ。ゲバラ氏に惹かれていく同じ時期母国では燻っていた政治問題が大きくなる。キューバから母国を静観出来ずゲバラ氏の部隊に誓願。その際、ゲバラ氏本人からゲリラ戦闘員時に使う名をゲバラ氏のファーストネームを冠した「エルネスト・メディコ」を貰った50年前に実在したフレディ前村ウルタード氏の話。
 だが、残念なことに今回も映画配給にあたってはミスリードをしている。
 確かに彼は日系人ではある。が、彼自身はボリビアで生まれ父を日本人、母をボリビア人として「ボリビア人」として生き、ボリビアを救う為に命を懸けた。日本の為に戦った訳ではないし、日本人気質がそこに大きく反映しているのではない。偶然にもエルネストの名を貰った人物が日系人だったに過ぎない。この部分を強調して観てしまうと印象は別物になる。

 2008年「チェ 28歳の革命」「チェ 39歳 別れの手紙」を観ている。私と同じようにゲバラ氏の映画を既に観ていてこの映画を観に行こうかと考えている方もいらっしゃるだろう。今回の映画では主役フレディ前村ウルタードに関わる節目で数回出演するのみで映画の中の存在感はそれほどでもない。

 映画はゲバラ氏の訪日様子から始まる。予定を変更しての広島訪問とあるが、これは訪問先を公には全て明かさなかっただけで彼の中には確固としてあったに違いない。
 慰霊碑(石碑前面)に、「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」とあり、これを読んだ彼が「主語がどうしてないのだ?」と問う。
 又、「君たちはアメリカにこんなひどい目に遭わされて、怒らないのか」とも。この言葉は映画後半の伏線になっている。

 広島訪問では好きな写真も殆ど撮る気が起こらないと云いながらも上記の写真が残っている。
 広島から妻宛に送った絵葉書(1959/7)には、「平和のために断固として闘うには、この地を訪れるのが良い」と書かれていた。
 この部分映画冒頭は後半への導入でもあり、伏線として描いていた。

 映画が始まりしばらくの違和感がオダギリジョーの躰の線の細さだった。
 ゲリラ戦闘員に身を投じる彼も又ゲバラ氏と同じように医師を目指し戦いを第一目標にするタイプではない。監督がオダギリジョーを指名したのは「フレディの印象は、寡黙で限りなく誠実ということ」と「以前から知っているオダギリ君の普段からの佇まいを思い出して」。これに対して役作りをしていく中で彼は12kg減量し躰を絞ったそうだ。本当に後ろ姿の華奢なこと!

 時間を必要とせず彼が「日本人」オダギリジョーではなく「ボリビア人」フレディ前村として映る不思議さ。勿論、オダギリジョーの演技あってだ。
 途中から、もう一点不思議だったことは、観ている映画が邦画なのか?洋画なのか?判別し辛いほどスクリーンから耳にする言葉はスペイン語、それもフレディの生まれ育ったボリビアのベニ州の方言でありながら、彼の言葉がすんなりと流れ入ってくることで錯覚が起こる。
 無名の人に光を当てた映画なので派手さはない。しかし、日本から失われかけている「志を持った人」の生き方が丁寧に描かれている。
 ★の数を悩むところ。大きく貢献するのはオダギリジョー氏の僅か半年で習得したベニ州方言習得を始めとした演技か。
★★★
 
 




 

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