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増殖する「サグラダ・ファミリア」 ―柞刈湯葉『横浜駅SF』―

 KADOKAWAとはてなが共同運営している小説投稿サイト「カクヨム」からは、いくつか書籍化された作品がある。さらに、これからもどんどん書籍化作品が出てくるハズだ。あくまでも趣味として小説を書いて発表するなら、「小説家になろう」を含めた他の小説投稿サイトもあるが、今、本気でプロデビューしたいと思っている方にはカクヨムが一番オススメだ。
 そのカクヨムから書籍化された作品の一つが、今回紹介する小説だ。
 その名もズバリ『横浜駅SF』(カドカワBOOKS)。何だかいかにも仮題めいたタイトルだが、これが正式なタイトルである。ちなみに英語でのタイトルは「YOKOHAMA STATION FABLE」(横浜駅の寓話/作り話)だ。作者の柞刈湯葉いすかり ゆば氏のペンネームは元々イスカリオテのユダをもじった「イスカリオテの湯葉」なのだが、小説の書籍化決定の際に改名した。確かに「裏切り者のユダ」だとイメージが悪いもんね。

 この小説の舞台は未来の日本だが、改築工事を繰り返す横浜駅がなぜかガン細胞みたいに増殖し、本州のほとんどを埋め尽くしている。なぜこのような事態になったのかは、数百年前に起こったとされる戦争が関係しているのだが、日本は統一国家としては崩壊しており、ほぼ群雄割拠状態になっている。
 主人公は二人いるが、いずれも本州のほとんどを飲み込んだ「横浜駅」構内=「エキナカ」の外の人間である。それぞれ立場は違うが、二人はそれぞれの事情で「エキナカ」に侵入する。

 なして、こんなブッ飛んだ世界観なのか? そもそもカクヨムは良くも悪くも「変な」小説が目立つが、『横浜駅SF』の世界観とは、実際の横浜駅が頻繁に改築工事を繰り返す状況から生まれた。そんな横浜駅は「日本のサグラダ・ファミリア」と揶揄されているらしいが、本業が生物学研究者の柞刈氏はこの状況を、生物が「流動的な」状態で生きているのに例えている。
 この小説には主人公といえるキャラクターが二人いるが、むしろこの小説の「世界観」そのものが真の主役ではないかと思う。いわゆる「キャラ萌え」的な要素は少ないが、その辺は漫画版で補えば良いだろう。小説の内容はカクヨム版に比べてかなり加筆修正されているが、この書籍化からはみ出た外伝はさらに加筆して二冊目として出ている。

【クレイジーケンバンド - いいね!横浜G30(Remix:Sunaga t Experience)】


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