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幽霊も暴力も出てこない怖い実話1 デモ編

幼い頃、よく母に怒られたものだ。

「そんなことしたら暴走族に売り飛ばす」
「そんなことしたら橋の下に捨てる」
「そんなことしたら○○(差別的な言葉)になる」

脅しだ。
脅しは、躾けとして最低の部類なんだけど、のちのち関西では「そんなことしたら吉本に入れるよ」という脅し文句があると知って、その程度のことなんだろうと笑い話に変換できた。

幼稚園のときか、その前か、ある日のこと。外でデモの大行進が行われていた。
テレビカメラが入ったり動画配信されたりする令和のデモとは違って、男たちがプラカードを掲げてザッシュザッシュザッシュと足音を立てながらシュプレヒコールをするデモだった。
何のデモかのちのち調べてみたら、現在も存在する超有名企業の労使関係の揉めごとと判明した。

さて、ちょうど長蛇のデモ隊が我が家の前を通ったそのとき、私を叱りつけている真っ最中の母がこう言ったんだ。
「そんなことしてるとデモにさらわれちゃうよ」
私はビビり散らかした。するとデモ隊のシュプレヒコールがこう聞こえてきた。

悪い子捨てろ!
ザッシュザッシュザッシュ。
悪い子捨てろ!
ザッシュザッシュザッシュ。
悪い子捨てろ!
ザッシュザッシュザッシュ。

私がギョッとした瞬間、母はものすごい形相で窓を閉めてデモ隊の声を遮った。そして逃げるように私を奥の部屋へ連れて行った。

年を経て、あるゴールデンウィークにメイデーのニュースが流れていた。ふと、くだんのデモを思い出した私は、よもや白昼堂々「悪い子捨てろ!」なんてのたまう謎のデモなんてないと思いながら母に訊いた。
「むかし見たデモさあ、『悪い子捨てろ!』っていうシュプレヒコールに聞こえたよな」
すると母はかぶりをふって応えた。
「何言ってんの? あれはこう言ってたんだよ。『悪い子殺せ!』

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